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「怠け癖」って何なんだ

ネットで不登校の話題を見ていると頻繁に出てくる単語、「怠け癖」。当たり前だけど、「怠け癖がつく」と悪い文脈で言及される。ところで、怠け癖って何なんだ。不登校って癖で説明できるのか。

サボり癖って厄介だけど

一度サボるとその後もサボるようになる、というのを自分の生活で感じることはある。勉強を一旦休むと元のペースに戻るのに時間がかかったりする。時間のない日にお風呂で手間のかかるケアを飛ばすと次の日もやらなかったりする。でも、学校や会社を1日休むとその後もサボるようになる、というのがそこまで頻繁に起こる事のようには思えない。それが起きる時はむしろ、毎日行っていたことが無理をした非日常だったのではないかと思う。毎日行くことが日常ならば、少し休んだりサボったりしたところで、その後が大きく変わることはないはずなのだ。

不登校を癖で説明できるのか

「悪い癖」とは、わたしの場合、爪を噛んだり寝る前にお菓子を食べてしまったりすることだろう。確かに、何かをすることで報酬を得たり嫌なことを避けられたりするのなら、その行動を繰り返し行うようになるというのは心理学徒として納得できる話ではある。学校に行かないことで誰かが優しくしてくれる、学校に行かないことで苦手な人と会わなくて済む、という時に、「学校に行かない」ということを繰り返し行うようになるのは想像できない話ではない。だけど、これって、逆も起こるはずだよね。
学校に行ったら誰かに褒められる、学校に行ったら自己嫌悪せずに済む……。「学校に行く」ことで得られるのは単純な報酬や罰ではなく、そのどちらもを兼ね備えたいくつもの結果だ。

「自己嫌悪」はなかなかつらい

学校を「怠け癖」で休むと思っている人は、学校に行かないことがどれだけ自己嫌悪を生み、どれだけ自分を責めることなのか知らないように思う。仮病でもなんでも、1日くらい学校をサボった経験のある人は少なくないだろう。その時の自分は心の底から自由を喜び、なんの罪悪感もなく、「毎日こうだったらいいなあ」と思っていただろうか?仮病がバレる不安や、学校のみんなに置いていかれるのではという焦り、友達と会えないことの寂しさ、そんな気持ちはなかっただろうか?そして、長期間休めば休むほど、こういった気持ちは増していく。不安、罪悪感、焦燥感……よく言われる例えだが、「宿題が終わっていない夏休み最終日が毎日続く」ような感覚だ。
もちろん、きっとマイナスな気持ちなんて全くなしに、日々を謳歌できる"強者"だってどこかしらにはいるだろう。だけどそんなのは極少数で、ほとんどの不登校は日々を楽しめずに苦しんでいる。

休むのは苦しい、だけど行くのはもっと苦しい

そこまで苦しいなら学校に行けばいい……、わたしだってそう思っていた。学校に行かないことで生まれる苦しみがあるのなら、学校に行けば解決するじゃないか。でもそう上手くはいかない。学校を休むのは苦しい、だけど学校に行くのはもっと苦しいからだ。少なくとも不登校のわたしは、「学校を休んで罪悪感や不安、焦燥感などに苦しむ」か、「学校に行って正体の分からない何かにもっと苦しむ」の二択しか持っていなかった。どっちを選んだって苦しい。そして、不登校本人がそれ以外の選択肢を見つけるのは不可能なんだ。親に依存して暮らす学生1人が、学校にも行けない状態でサクセスストーリーのような奇跡を起こせるはずはない。ネットを探せば奇跡を起こした例がきっといくつも見つかるけれど、それは本当に極一部で、多くは頑張って普通の道に戻るか(これも正直奇跡のレベルだと思う)、どうにもならない日々を過ごしていく。

癖ごときで不登校にはなれない

とはいえ、まあ学校を時々休み、ゲームやネットで謳歌した1日を過ごしている人がいるのも事実だろうし、学校を休む人が全員サボりや怠け以外の理由だとは言わない。上手く手を抜いたりサボったりできる人もいるだろう。だけど、そういった"どこまでならサボって良いかわかった上で上手く手を抜いている"人に「怠け癖」と言ったところで改善するわけはないし、「怠け癖」と言われダメージを受けるのは"真面目で休むことに罪悪感がある"人だ。上手く手を抜ける人を糾弾したいがために、真面目で自分を責めやすい人が関係ないダメージを受けているのが現状だと思う。(しかも、上手く手を抜ける人は「怠け癖」と言われてもダメージなんて受けていない)

確かに面倒なケアを1日サボると次の日もやらなかったりするし、勉強をサボると元に戻るのに何日かかかったりする。だけど、それで長期的にやらなくなるだろうか?必要性を理解して、日常としてこなしているのなら、少しサボったところでその後は変わらない。またそれをこなす日常に戻っていく。行動によって何かプラスを得られるのなら、たしかにそれを繰り返すかもしれない。だけど学校を休むことには精神的に大きなマイナスが付き纏う。不登校はできれば避けたいことのはずだ。
つまり、「怠け癖」で長期的に学校を休むことなんてできないし、不登校になんてなれない。彼らはそれよりも大きな、「行かないのは苦しい、けれど行くのはもっと苦しい」という問題を抱えている。
上手くサボれる人を糾弾したいなら別の言葉を探した方が良いし、関係ない真面目な不登校にダメージを与えないであげて欲しい、などと思います。

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