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【塾講師の書く読書感想文】ももたろう

読書感想文『桃太郎を読んで』

『桃太郎』は、おじいさんとおばあさんの反復行動、つまり習慣の物語だ。

この作品にはいかに普段の生活が重要かが描かれている。特におばあさんとおじいさんのという登場人物の生活習慣が『桃太郎』を生み出したのだ。

 物語は『昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました」という文から始まる。ここで注目したいのは、あくまで彼らが行ったのは芝刈りと、洗濯で、冒険に出かけたのではないということだ。その後おばあさんは、川上から主人公の桃太郎が中に入っている桃と遭遇する。現代の情報社会では自らの発信力を高める行動が重要視され、人と違った行動を取ることがよしとされることがある。しかし、『桃太郎』から解るように、チャンスというものは普段行っている日常生活の中に転がっているのだ。

 また、桃が流れてきた時のおばあさんのリアクションにも注目してほしい。おばあさんは大きな桃が流れてきた時、すぐに桃を持ち帰ることを思い立つ。この行動からもおばあさんが繰り返し川で洗濯をしてきたことが窺える。

 例えば、おばあさんが家事の初心者で川で洗濯するのが数回目だった場合。そのような状況下であれば、大きな桃は目には入るかも知れないが、持ち帰るという発想にはならないはずだ。なぜなら、川で洗濯をするのは重労働だし、家事に慣れていない場合、桃に油を売る時間はないからだ。そもそも一般論として、大きな桃が流れてきた時、自宅に持ち帰る人は少数派だと思う。川までの道も厳しいだろうし、赤子一人が入っている桃は3000グラムを超える重さのはずだ。

ではなぜおばあさんはいとも簡単に桃を持ち帰る選択をしたのだろうか?

私はこう考えている。川上から不思議なものが流れてくるのは初めてではなかったのではないか、例えば川上から奇妙な野菜が流れてきたことがあったとする。おばあさんは「なんだ」とは思うが、家には持ち帰らない。そしておじいさんに一部始終を話す。おじいさんは、「なんでうちに持ち帰らなかったんだ」と言う、おばさんは「そんなことを言うならあなたが洗濯をしなさいよ」とちょっとした口論になる。このような会話が以前にあったと仮定すれば、おばあさんの桃を持ち帰るという行為はとても自然に感じる。大きな桃をスルーしておじいさんに小言を言われるのも嫌だし持ち帰ろう。そういう経験的発想が物語を導いているのではなかろうか。このように普段から行っている行動を高い精度で行えるようにしておくことで、万が一のイレギュラーにも柔軟に対応し、ピンチになりうることもチャンスに変えることができるのだ。

 もちろん、習慣の重要性を感じるのは桃との出会いだけではない。物語に出てくる食べ物

『きびだんご』についてもおばあさんたちの生活習慣から生まれた賜物なのだ。

 『きびだんご』という食べ物、桃から産まれ、桃太郎と名付けられた青年が、鬼を退治しにいく時におばあさんが持たせる旅のお共である。もちろん時代的背景もあるだろうが、私個人としては鬼を退治しに行くとなればもっとよいものを食べたいと思う。きびだんごとは稲科の植物キビの実を砕いて粉にしたものを団子にしたものだ。想像するに鬼は人智を超えた存在であるはずだ。そういった存在を敵にまわす時に団子がお共とは心もとなく感じるのは私だけだろうか。

 でも仮にお共におばあさんが、奮発して寿司を握ったとするとどうだろう。寿司によって桃太郎の機運は高まるかも知れない。ただ、普段から桃太郎は寿司を食べ慣れていないはずだ。そのような特別な食事は体に異変をきたすことがある。皆さんの中にも旅行先で体調を崩したという経験のある方もいるのではなかろうか。

 一方『きびだんご』は普段から桃太郎も食べ慣れている食事に違いない。こういった食事の方が桃太郎のパフォーマンスを完璧に発揮できる食べ物なのだ。一流のアスリートは自らのパフォーマンスをどんな場面であっても出し切るためルーティーンを決めておくことがあるという。桃太郎にとってこのきびだんごがルーティーンの一端を担っていたと考えるのは想像に難くない。

 このように、

今回私は、『桃太郎』を読んでいかに日々の生活が重要かということに気付かされた。

私は今まで人生一発逆転のチャンスを今か今かと伺う日々を送ってきた。チャンスを待つということは、自分は楽をして運の良い偶然を引き出そうとすることだ。初めは『桃太郎』もそのような偶然を手にした人物の話だと思っていた。しかし今回のように『桃太郎』を客観的に読み取ると、そこには地味だけど重要なおじいさんやおばあさんの日々の生活の積み重ねが見えてきた。私は自分の今の生活が嫌いではない。いつか自分だけの桃が流れてきた時、冷静に手元へ引き寄せられるよう。日々正しい選択をして生きていきたい。


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