明け方

「成人式で会ったのが最後になっちゃった。」
「お父さんはずっと発電所で働いていて、帰ってくるなって。お前は絶対帰ってくるなって。」


何が起きたのか分からなくてテレビをつけた
炎に包まれながら飲み込まれるように流れていった
車も家も木も人さえも

スーパーで籠いっぱいに食料品を詰め込んだ人々を見た
野菜も肉も牛乳も品切れ
冷凍できるように食パンを一袋買った
電気もガスも水道も止まらなかった
東京は晴れていて
非日常に街ごと浮かんでいるみたいだった

原子力発電所のニュースが放送される
一生帰ることのできない土地が同じ日本にある

東京で知り合ったピンク髪の女の子は
泣き出したり、怒るわけでもなく
ただ、ほんの少しだけ家族と地元の話をしてくれた
「みんな、あそこで働いているから。」


募金箱が減り、ニュースが減り
スーパーには食べ物が溢れ
原発反対のコールが増えた


わたしだけが浮かんだまま
時間がするする流れていく
ピンク色の髪の毛が目の前をよぎる
土を拒否したニュースを知る、再稼動を知る、安全性を唱える政治家、危険性を訴える漫画家、原産地を確認して棚に戻された野菜、新しい土地ではじかれる子ども、発癌リスク、何も知らされず労働を強いられる外国人労働者、西へ転居する人々
天災だけではない土地

希望と協力と寄り添いながら生きていくことについて考えるたび
浮かびながら口をつぐむ
わからないんだ わたしは 本当の幸いが どこにあるのか

あれから何度目かの朝が来て 浮かんだままの日々が始まる


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