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小値賀 | 日記

初めての小値賀

 九州西部に位置する長崎県五島列島。ユネスコ文化世界遺産に登録された潜伏キリシタンの教会郡があり、美しい海があるということは知っていたけれど、都会で生まれ育った私にとって、離島は異国も同然。そんな五島列島のなかでも、一番人口が少ないという小値賀島に、学生時代に働いていたアルバイト先の先輩、みぞさんが移住した。SNS越しに見るみぞさんの暮らしは、色鮮やかでなんだか楽しそう。私のなかで小値賀への興味がムクムクと膨み、去年の梅雨の時期にはじめて小値賀を訪れた。

 まずは東京から飛行機で博多へ向かう。博多はまちの中心部から空港も港もアクセスがいい。空も近く、海も近い。町全体が何だか開放的。日が暮れるのもゆっくりで、のんびり川沿いを散歩。小値賀へ向かうフェリーの出港時刻は23時45分。それまで思う存分博多の夜を楽しんで、フェリー乗り場の向かいにあるスーパー銭湯ひと汗流す。あとは船に飛び乗ってグウグウ眠っていれば、目が覚めるころには小値賀島に到着だ。行き道から、もう楽しい。

 人口2500人足らずのこの島には、TUTAYAやスタバはもちろん、コンビニも電車もない。あるのは圧倒的な自然のみ。近くから牛の鳴き声が聞こえる。みぞさんの家は、鬱蒼とした木々の茂みの奥にある、小さな木造の平屋だった。軒先では玉ねぎが吊るされて、紫蘇やハーブが育っている。鉢植えにはいろんな形のサボテンが飾られていて、ガラガラと引き戸を開けると、もわんとスパイスの香りがした。一泊二日の滞在期間中、みぞさんは島の面白い人たちを次々に紹介してくれた。島を巡っていると「みぞー!」と何度も声をかえられた。移住したこの島で、みぞさんがどんな生き方をしていたのかが少し見えた気がして、ちょっとうらやましかった。

 帰りのフェリーの出港は午後13時。帰りのフェリーがお昼の時間でよかった。船のデッキにでると、島で出会った人たちが港から手を振ってくれているのがよく見えるから。博多に着くまで5時間の船旅。どこまでもなだらかな海を眺めながら、さっきまでいた小値賀のことを思い出していた。博多に到着するころには、水平線上に夕日が赤く染まっていた。

 興奮冷めやまず、その3ヶ月後に再び小値賀へ訪れた。みぞさんが私を小値賀と繋いでくれたおかげで、小値賀のみんなとは不思議な縁が続いている。私のなかで小さな小値賀島は、とても大きな存在となっている。遠い西の果てに、美しく大切な場所ができた。


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