「踏み台にしかならんクラブ」のその先へ
松本に負けた。
これで3戦勝ちなしである。一時はクラブタイ記録となる5連勝を果たし、昇格に向けて勢いに乗ったかのように見えた愛媛FCだったが、そううまくはいかないのが現実というものらしい。
J3リーグは残り11試合、現時点での昇格圏との勝ち点差は9だ。目標である「1年でのJ2復帰」は、客観的に見て、かなり難しくなったと言わざるをえない。
昇格なんてやはり無謀だったのだろうか。営業収益も観客動員も十分でない地方クラブには、所詮J3が身の丈に合っているのかもしれない。そんな後ろ向きな考えが頭をよぎる。
愛媛FCを応援しているうちに、いつのまにか期待を捨てることで自分の心を守るようになってしまった気がする。
こういうとき、きっと「諦める」という選択肢を選ぶことが1番ストレスを溜めないのだろう。そうすれば、期待を裏切られることもないし、結果に失望することもない。試合のたびに一喜一憂しなくてすむ。
実際、そういう選択をしてスタジアムを去っていく人もいる。
けれども、私には諦めたくない理由がある。
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8月15日。
77回目の終戦記念日を迎えたその日、私は愛媛FCの新しい練習場、通称サンパークにいた。
数ヶ月前に開催されたクラウドファンディング「みんなで紡ぐ~愛媛FCサンパークプロジェクト~」のリターンとして、愛媛FC公式YouTubeの撮影アシスタント体験に参加するためだ。
このクラウドファンディングは、集めた資金をメディカル機器やトレーニング機器の購入に充て、サンパークの練習環境を整備するという趣旨で行われたものである。
これまで愛媛FCは天然芝の専用練習場を持たず、長年人工芝の練習場をアカデミー生と共用してきたが、人工芝は選手の身体への負担が大きく、負傷者が出やすいなどの課題を抱えていた。スポーツをしてこなかった自分にはピンとこないのだが、人工芝というだけで移籍交渉が不利になることもあるらしい。
そんな状況を打破すべく生まれたのがサンパークというわけだ。
7-2で大勝した翌日ということもあり、サンパークは終始和やかな空気に包まれていた。選手やコーチ陣の表情も心なしか柔らかい。
アテンド役の田村さんが「クラウドファンディングで支援してくださった方です。」と私のことを紹介するたび、みな丁寧な挨拶や感謝の言葉を返してくれるので少し恐縮してしまったが、なかには積極的に話しかけてくれる選手もいて、自然と頬がゆるむ。
「誰推しですか?」と声をかけてくれたのは、佐々木選手だった。勝手にシャイで人見知りな印象を抱いていた佐々木選手が自分から話しかけてくれたのが意外で、思わず田村さんに報告する。田村さんはにっこり笑って、教えてくれた。
「本当はシャイだけど、今年は副キャプテンに就任したから、サポーターと積極的にコミュニケーションをとろうと努めているんだと思う。」と。
田村さんは他にもいろんなことを話してくれた。
サンパークの芝は抜けにくいよう最先端の方法で根付かせていること、クラブハウスの壁面は社長の提言で愛媛FC仕様になったこと、一般の方が練習見学できる環境を作りたいこと。
ベテラン選手の存在がチームに良い影響を与えていること、選手たちが企画やイベントに協力的であること、ユースに将来有望な選手がいること。
そして、個性豊かなスタッフたちが、それぞれの得意分野で愛媛FCを盛り上げようと日々奮闘していること。
話を聞きながら、愛媛FCの向かっていく先へ思いを馳せる。サンパークの整備は明るい未来への第一歩なんだな、とじわじわ実感がわいてきた。
正直なところ、私は当初この企画に対して良い印象を持っていなかった。決して少なくはない目標金額を無事に達成できるという保証はないし、仮に達成できたとしても、クラブがその金額に見合う成果を得られるかどうか疑問だったからだ。
また、世のクラウドファンディングには支援者の善意によって成り立っているものも多いが、大好きなクラブにはそういうやり方はしてほしくない、という気持ちもあった。
でも、それは間違いだった。
蓋を開けてみたら、目標金額を上回る支援金が集まった。
トレーニングルームが充実したことによる定量的な効果はわからない。だが、選手たちがのびのびと楽しそうに走り回る姿や、グラウンドから引き上げた後もクラブハウスから絶えず漏れてくる賑やかな声は、サンパークで過ごす日々の充実ぶりを感じさせるには十分だった。
初めは高いと感じていた¥33,000のコースも、今となっては破格に思えてくる。
私たちには愛媛FCというクラブがある。そこには、クラブをより良くしていこうとイベントやグッズを企画したり、課題の解決に向けて対策を立てたり、サポーターの声に耳を傾けながら試行錯誤を重ねるフロントスタッフがいる。自らホームゲームの招待企画を提案したり、応援してくれている市町村をプライベートで訪ねてPRしたり、時には自力でスポンサーを獲得してくるなど、ピッチ外でもクラブのために自発的に行動できる選手もいる。
そんな頼もしい彼らと、同じ方向を向いて歩んでいく。その道を作るための投資だと思えば、支援者へのリターンは決して小さいものではないはずだ。
その長い長い道の先にある未来を、私は見届けたくなった。
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ところで、このnoteには少し過激なタイトルをつけた。「踏み台にしかならんクラブ」という表現は、アオアシのスピンオフ作品、『アオアシブラザーフット』から拝借している。作中で、愛媛FCをモデルとする弱小クラブに容赦なく投げかけられる台詞である。
こうした表現にショックを受けたり、反発したりする人もいると思うが、私は愛媛FCが踏み台であるという意見に対して異論はない。誤解を恐れずに言えば、踏み台であることは別に悪いことではない、とも思っている。
ポテンシャルの高い選手が出場機会を得られずくすぶっている…なんてことはどこにでもある話で、そのような選手たちに活躍の場を与え、ステップアップさせられるのであれば、たとえ踏み台だとしてもクラブには確かな存在意義があるからだ。
私たちが松本で敗戦の悔しさを噛みしめていたころ、広島では、昨年まで愛媛で武者修行をしていた川村拓夢がチームを勝たせるヒーローとなっていた。1年前、「チームを勝たせられなくて申し訳ない」と泣いていた彼が、強い覚悟を持ち、自らの得点でチームを勝利へと導いたのは、奇しくも松本の地であったことを思い出す。
この先も続いていく彼のサッカー人生において、愛媛FCは間違いなく踏み台であると思う。しかし、それは悲しむべきことだろうか。
踏み台であることを肯定的に捉えるのに、強がりが一切ないといえば嘘になる。だが、愛するクラブで成長した選手が活躍することは、活躍の場がどこであれやはり嬉しいし、胸を張って愛媛FCが育てたのだと言いたい。
試合後の私のTLにも、愛媛FCの敗戦の悔しさや不満と同じくらいたくさん、今はもう愛媛を離れた彼への賛辞や祝福の言葉が並んでいた。
一方で、ここまで書いてきたことと矛盾するようだが、いつか踏み台を卒業する日を夢見てもいる。
愛媛FCは、今はたしかに「踏み台“にしかならん”クラブ」かもしれない。しかし、より高いところへのぼれる踏み台としてその価値を提供し続けることができれば、きっとその存在意義は大きくなっていく。そうして、“にしかならん”を卒業し、やがて踏み台そのものを卒業できたら。
その先にある未来はどんなに輝いていて、どんなにわれわれサポーターや地域の人々に夢を与えてくれるのだろうか。想像するだけでわくわくが止まらない。
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今日はFC今治との対戦、伊予決戦の日だ。来場者数は今季最高となる9000人超えを見込んでいるらしい。
たくさんの人に試合を見てもらい、愛媛FCを好きになってほしい。そのために自分にできることはなんだろうか。
クラウドファンディングで踏み出した一歩を確かな未来へつなげていくために、これからも自分なりの方法でサポートを続けていきたい。
(おまけ)
写真をお願いしたら、「じゃあ2列で撮ろうぜ!前列は中腰な!!」とやたらはしゃいでいた、大澤選手&西岡選手&辻選手の図。
快くご対応いただきありがとうございました!
ちなみに文中で紹介したアオアシブラザーフットはこちら。
ひどい台詞を浴びせられたところだけ切り取ってしまって申し訳ないのですが、実際はとても素敵な漫画です。
地方クラブの厳しい現実を捉えながらも、そこに夢や希望を感じて生きている人々の姿もまたリアルに描かれており、クラブを問わずサポーターであれば共感できる箇所がたくさんあると思います。是非読んでみてください!
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