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情報科目の真実〜「プログラミング教育」は文科省のお茶にごし〜


はじめに

ちょうど一週間ほど前に情報科目が共通テスト入りが報道されましたが、これを詳しく解説した報道は思いの外少なく、プログラミング教育の必修化という言葉だけが一人歩きしている印象があります。
今回は、文部科学省の発行した「【情報編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説」をもとに、今般高校指導要領に必修科目として組み込まれる「情報科目」の課題について考えていきたいと思います。

情報1・情報2とは

まず初めに、新たに新設される情報科目は2つに別れます。
情報1は改訂前学習指導要領の社会と情報と情報の科学を足して2で割ったような科目で、情報メディアの特殊性、情報社会でのマナーや法規制を学ぶ、セキリュティの重要性について主に勉強します。
そしてその後に情報2で本格的なプログラミングを教えることになっています。しかし情報2は必修でないため、多くの大学が導入に二の足を踏んでいるのが実情で、河合塾が全国の公立高校を対象に昨年実施した「高等学校 新教育課程調査結果」によると実に7割の高校が情報1のみを開講し、情報2を開講する高校はたった2割、情報2を全生徒に受講させる高校は1つも存在しないという結果となりました。
ここで一つの疑問が生じます。今回必修化されるのは情報1のみだったはずです。一体いつからコンピュータを学ぶことが「プログラミング教育」となったのでしょうか。

情報1にもプログラミング教育はあるにはあるが…

さて、情報1ではプログラミング学習が全く行われないようなことを書いてきましたが、もちろん各社報道が間違っているわけではありません。
しかし情報1で行われるプログラミング学習の質は決していいものではありません。まず他の入試科目である数IIBや現代文Bの2分の1の時間しか情報科目には割かれません。これは保健体育や家庭科の単位数と同等レベルであり、依然として文部科学省の情報科目軽視が窺えます。
また、ただでさえ少ないその少ない単位数も全てプログラミング教育に使えるわけではありません。
前述のように情報1はプログラミング学習を主眼に置いていないため、4章の内の1つの章のなかで、それもコンピュータの仕組みを学習しながらのプログラム学習になりそうです。このような劣悪な環境下で一体どれだけのプログラミング教育が行えるのでしょうか。

今後のプログラム教育は「情報2」が鍵となる

さて、情報1ではプログラミングをほとんど扱わないということがわかりました。
それでは、今回惜しくも必修化の対象から外されてしまった情報2ではどのうなのでしょうか。
実を言うと、情報2ではかなりプログラミングの比重が高くなっていて、5章の中の実に4章で何かしらのプログラムに触れると思われます。
授業のレベルも段違いで、例えばプログラミングはもちろん、システム開発の役割分担や機械学習のためのデータの加工についても学習するとされており、実習として掲示板をはじめとするWEBサイトやお年寄りの見守りのためのIOT等の設計を推奨しています。
どうやら情報1と情報2のレベル差はひよこと恐竜レベルのものであると言って差し支え無さそうです。
もっとも、情報2も情報1と同じく単位2の科目なので、このボリュームを授業時間中に教え切るのは、もともと情報2を選択する学生の志が高いことを考慮しても厳しいと思います。
その一方で、教科書の一部分でも学習させることができれば履修者の大学での学習の心強い見方となることは間違い無いでしょう。
これは情報2の質の高さに目をつけた東京大学や東京工業大学、京都大学らが「大学入学共通テストの「情報」に関する要望」を連署で提出し、情報2の必修化と共通テスト出題を求めているところからも明らかです。

結論〜情報必修化の意義〜

以上概観してきたように情報1はプログラミングのための科目と呼ぶにはいささかお寒い状況で、厳しいことをいうならば一般的なプログラミング入門書の冒頭20ページレベルです。今回の改訂も、プログラミング科目である情報2を必修化する準備の準備だと捉えれば決して無意味なものではないのでしょうが、文部科学省には「情報2の単位数を他入試科目と同等の4単位以上とすること」「情報2を必修化し、共通テストに盛り込むこと」まで検討していただきたいです。
文部科学省は、次の改訂を慣習に従って10年後に行おうを考えているはずです。しかし、諸外国とIT人材レベルの差がこれまで以上に開くことが予想される2030年代に、本邦は果たしてその遅れを取り戻せるのでしょうか。
最後に。ファンタジックな話で恐縮ですが、私はいつも優秀なプログラマを魔法使いに例えます。それは現在の高度情報化社会においては、優秀な一人のプログラマが普通のプログラマ1000人がやってもできないことを平然とやってのけるからです。
北朝鮮のプログラマ部隊が2000億円もの暗号資産をハッキングによって入手したという話や、たった二人で開発したGoogle検索が世界中に普及したなど、この手の話は枚挙にいとまがありません。
優秀なプログラマ=魔法使いが育たない日本が、激動の国際社会を生き抜くことは果たして可能なのでしょうか。指導要領の可及的速やかな改訂が望まれます。


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