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【Wintermute,dawn感想考察】冬はもう明ける【ストレイライトコミュ】

序文

 本当に、とんでもないものを描いてくれた。
 あさひの為のイベントと言って差し支えないほどの、濃密な4年間の思い出でぶん殴られた気がする。

 芹沢あさひと言えば、みなさんご存知シャニマスの中でも随一の天才として描かれている女の子だ。
 それ故か第一印象としては少し思考回路が分かりづらい、とか浮世離れしているというものになりがちだと思う。

 自由に、気ままに、アイドルを楽しむあさひ。

 じゃあ、その『自由』って何?

 今回のコミュは、今までのあさひの在り様を変えてしまう、そんなイベントだった。

※この記事には、以下のネタバレが含まれます。

Wintermute,dawn(ストレイライトコミュ)
IF(!Straylight)(ストレイライトコミュ)
S.T.E.P.(あさひ)
ファン感謝祭(ストレイライト、あさひ)
Anti-gravity(あさひP-SSR)
ちぐはぐ姫(あさひP-SR)
ニューロマンサー(ウィリアム・ギブスン著)



あさひと社会

人間は社会的動物である

アリストテレス

 引用を使うとなんかそれっぽい記事になるよね。

 登場してからこれまで、様々なシーンで奔放な少女として描かれて来たあさひだが、S.T.E.Pでアイドルとして踏み出すために学校という決められた枠を飛び出したという経緯が描かれていた。
 それは、学校という社会があさひにとっての檻になっていたからであり、そこにあった『決まり事』というものが窮屈で、行きたいところに行けないもどかしさが彼女を苦しめていたからだった。

 そして、この構図は今回のコミュの序盤においても見受けられたものだった。

 海外という『枠の外』(ダンスの先生からの提案、別プロダクションからのオファー、海外旅行の街頭広告)、それと対比するようにして描かれる、身勝手な学校の同級生や頭の固いディレクター。
 奇しくもアイドルになる前と同じように、彼女が所属する社会が、またあさひを悩ませる事態を招いていた。
 同級生が求めるサイン(ちぐはぐ姫True参照)、海外留学をオファーしてきた男性の言動など、あさひにとって理解の難しいものが彼女の行動を制限する。

「なんで…………息切れるんだろう、このくらいで――――」

Wintermute,dawn『ざざ、ざざざざ』(芹沢あさひ)
あさひが窒息しかけていることを示している(と思う)

 そして、ここでコンテンポラリーダンスの先生の言葉があさひにとってとても大事なものとなる。

「そう。何を食べるか、何をするか
何をやめるか――――
そこに答えなんてないのよ
あるのは選択することだけ」

Wintermute,dawn『ざざ、ざざざざ』(コンテの先生)

 自由を求めていたあさひが、何を選ぶのか、何を選ばないのか。


しがらみ

 人間が社会で暮らしていくにおいて、色々なしがらみが存在する。それはあさひにとっても同じだった。

 コミュの至る所で見かける「約束」という言葉のしがらみ、14歳の女の子には当然ある学校というしがらみ。そこから離れて自由になれたと思ったら、今度はプロデューサーから貰ったGPSというしがらみが彼女を離さない。

 せめて、と向かった屋上すらも鍵がかかっており、あさひが求めていた自由は存在していないように描かれていた。本当にこの場面は見てて苦しかった……

 『放浪、または見えないしがらみ』というサブタイトル。これはやってますよシャニマスさん……

 そしてとうとうステージの上で集中を保てないほどに限界を迎えたあさひは、どこかに出かけようというプロデューサーの提案に、遠くへ行きたいと答える。

 そこであさひが独白したのは、あんなにもキラキラしていると常々口にしていたステージに対し、何もないという今までのあさひから考えたら到底予想も出来ない言葉だった。マジで血吐くかと思った


ファン感謝祭との対比、愛依と冬優子の成長

 今回のコミュ『Wintermute,dawn』は、OPからしてファン感謝祭を意識した作りとなっている。
 まず最初にファン感謝祭の時と同じ番組からのオファーに始まり、あさひだけが仕事の為に別行動をする構図、そして3人での練習時間を取れるか心配する冬優子。

 ただ一点明らかに前提として違うのは、愛依と冬優子が一緒に立っているステージで「何もない」とあさひが感じたことだった。

 そして、そんなあさひを見て、今の2人が何もしないわけないのである。

 ファン感謝祭では、失敗をした後に愛依と冬優子は言葉を交わしてあさひと対話を試みているが、今回は失敗をする前に2人は行動を起こしている。

ファン感謝祭『error code:017』
Wintermute,dawn『遭難の準備』

 そして、あさひとの対話の仕方も、3人の関係性と同じように変わっているのだ。ここが今回のストレイライトにおける肝だと思っている。

 感謝祭の時は、言葉を尽くし、行動を尽くし、そして相互理解に至っている。
 しかしながら今回は、あさひに対して2人が行ったのは挑発だ。

Wintermute,dawn『コンパス』

 感謝祭での一幕、プロデューサーが発していた言葉を覚えているだろうか。

「背中を見て、それを追うのは楽かもしれない
道はもう作られていて、同じようになぞればいいだけだから
――でも……
本当は自分で、拓きたい道があるんじゃないか?」

ファン感謝祭『error code:017』

 この言葉を前提に二人の言葉を考えると、最高にイカした発破のかけ方であり、挑発であり、ラブコールだ。
 
もう、あさひの背中を追っていた冬優子ではないのだ。背中に憧れていた愛依ではないのだ。


自由とは

 今回のイベントでは、『あさひにとっての自由とは』という命題を扱ったものだと勝手に解釈している。今までのあさひは本当に自由だったのか?違うのであれば、自由とは何か?

 偉人の言葉を拝借してしまうが、今回のテーマについてこれではないかと自分は考えている。

ほとんど人間は実のところ自由など求めてはいない。
なぜなら自由には責任が伴うからである。
みんな責任を負うことを恐れているのだ

ジークムント・フロイト

 自由には責任が伴う。それは、今までのあさひには無かった発想なのだと思う。
 しかしあさひはアイドルだ。誰かの想いを受け取り、背負い、選んで進んでいかなくてはいけない。

 Wintermute,dawnでは一貫して、重力や身体の重さについて述べるシーンがある。それは、G.R.A.DやLanding Pointにおいて彼女がファンからの想いを受け取るようになったからなのではないか。
 その重さに気付いたのではないか。
 そしてその重さ故に不自由さを感じ、今回で真の自由に手を伸ばしかけているのではないか。自分はそう結論付けている。

 そう考えたのは、ストレイライトの元ネタと言われている『ニューロマンサー』からの発想だ。

 サイバーパンクの始祖と言われているこの作品は、現実世界と対をなす形でネット世界が存在し、意識をネット世界へと入れ込むことが出来る。

 結論だけ先に述べてしまうと、この物語は、とある別のAIと合体することで、凄まじい進化を遂げることの出来るAIが裏で糸を引き、現実世界で人間を集めてその合体を手助けさせるというものだ。
 そのAIの名前はウィンターミュート。つまり今回のコミュの題材である。

 ウィンターミュートはネット世界に存在し、とある別のAI(ニューロマンサーという名前)は現実世界に存在している。

 つまり、ウィンターミュートは、進化するためにはネット世界だけでなく現実世界で他人の手助けが必要だったのだ。


 何が言いたいか、察しのいい方はもうお分かりだと思う。
 あさひが進化するためには、自分の世界だけではなく現実世界における他人の想いを受け取る必要があったのだ。

Wintermute,dawn『コンパス』
意図的に名前の排除された独白

私たちという名称に対する「私」という一人称
私たち=ウィンターミュートとニューロマンサーという考察


 そして『Wintermute,dawn』の意味。dawnとは、夜明けの意。つまりはあさひのこととも言い換えが出来る。一つの意味として、『ウィンターミュート=あさひ』という意味。
 IF(!Straylight)であさひに割り当てられた、シロという配役が、ネット世界におけるAIだったのも一つの裏付けになりうるものだと考えている。

 もう一つは『Wintermuteが起きた』。これから、ニューロマンサーと統合していく、ウィンターミュートとしてのあさひが起きたという序章の意味合いなのではないかと考えている。

 P-SSR『Anti-Gravity』のTRUEコミュ『冬を裂く獣』にて「突き破ろうとする春のような獰猛さ」という表現がある。
 また一つ、大きく壁を破ることになりそうなあさひにとってあまりにも相応しい表現だと、私は思う。

 エンディングコミュの題名『おもいならば、この先』
 感じていなかった想いの重さ。それを背負う選択をした彼女は、この先さらに進化していくのだ。

芹沢あさひP-SSR
Anti-Gravity『冬を裂く獣』

蛇足の考察

 今回のS-SSRの題名は『真空の庭』。ステージが描かれているイラストだ。(今から述べる考察とは関係ないがステージ上のモニターのあさひがウィンターミュート、後ろ姿のあさひ(不自由なあさひ)がニューロマンサーを示しているのではないかと考えている)

 つまり、ステージ=真空の庭と考えてもいいだろう。
 真空と言われて、真っ先に思い浮かんだものがあった。

 宇宙だ。

 宇宙には何もない。そして寒いし、苦しいし、地球の引力にも引っ張られる。
 しかし、星をめざす上で必ず通らなければいけないところなのだ。



更に蛇足、本編で書けなかった細々とした考察

 1・最後まで人物の全体像が不明であった『すい姫』について。
 彼女の役割としては、あさひの周りを取り巻く環境に置いて、親しい人間を除いてただ一人嘘がなく、理解のできないことをしない人間(サインを書かないという所も含めて)として描かれている。そしてそれに対するあさひも好意的な反応だ。
 「周りが大変そう」という本来皮肉めいた言葉も、周りからの想いに気付かせる一つのパーツになっている。

2・サインについて
 サインというものについては「ただの字」とあさひが評していたがその「ただの字」を『真空の庭』のコミュ1『借り』でクラスメイトに渡すシーンがある。
 P-SR『ちぐはぐ姫』にて、サインとは受け取った人の心に残るものであるとの話がある。人の想いを背負う覚悟をしたあさひがサインを渡すという事実、ここはとても大事な場面なのだと思う。

3・コンパスについて
 あさひにとってストレイライトがコンパスになりうる、というのは本編を読んだ方であれば予想は付くだろうと思う。

 幼い頃、ひとりでいる方が自由だと感じていた頃のあさひは「コンパスなんていらない」と言った。
 そして今回、あさひは自分から複雑なコンパスを手にした。複雑で、何の機能がついているかもわからない本格的なコンパスだ。
 ここからどんな方向に行くかもわからない、どこまでいけるかもわからない未知を進んでいくあさひにとって、この上なく相応しい象徴となりうるものなのだと思う。

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