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怪談 超ショート あっという間に読める恐怖の物語。

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実体験、体験者からの伝聞、創作など、様々な怪奇と不思議な短編をまとめました。 #ショートショート #短編 #怪談 #不思議 #恐怖
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2022年1月の記事一覧

「太りやすい体質」後編・・・怪談。急に学校に来なくなった転校生の家に。

『太りやすい体質』後編 M女子高に転校してきた雨野富士子は、モデルばりのスレンダーなスタイルと、カールした黒髪に似合わないドジっ子で、瞬く間にクラスの人気者になり、同級生から「フチコマ」と呼ばれるようになった。 その様子を里沙は忌々しく思っていた。いつも一緒にいるぽっちゃり仲間の美々までもがフチコマ信者になってしまい、親友を奪われたような気持になっていたからだ。 ところがある日急に、フチコマは学校に来なくなり、 美々に、『一緒に様子を見に行ってほしい』と頼まれた里沙は、

「太りやすい体質」前編・・・怪談。スレンダーな転校生の目指したものは。

2月も終わりに近づいた頃、M女子高に一人の女生徒が転校してきた。 あと数週間で学年が変わる時期に転校生があるのは非常に珍しく、 生徒の間に波紋を広げた。 だが、彼女が黒板の前に立った時の衝撃は、その比ではなかった。 身長175センチ、体重32キロ。 モデルばりのスタイルと、小さな頭。 少し硬めにカールしている黒髪の間から見える、 切れ長の目と薄い唇も相まって、近寄りがたい雰囲気を感じさせた。 ところが、 「名前は、雨野フジ、痛テッ。フチ、フチじゃない。待って。フチコ待っ

「ベランダで」・・・怪談。よーく考えてみて・・・。夫の不倫を知った妻は。

『ベランダで』 「正彦さんと別れてください」 雨の中の買い物をどうしようかとも寄っていた時に、かかってきた電話は 私の平穏な生活を一瞬で曇らせた。 電話は一方的に言いたいことを言うとそのまま切れた。 仕事の取引先だった女。 出会った時から「愛はもうない」と夫は言っているという。 今も週に2度は会い、最近は月に一度は二人で旅行に出かけている。 真面目だと思ってた夫の浮気を一方的にまくし立てただけだが、 私には効果的だった。 夫は「前科」がある。 娘の芙美を妊娠してい

「憑依思念(後編)」・・・怖い人の話。男のプロポーズに返された言葉は。

『憑依思念(後編)』 人間の脳は、理解しがたい出来事に遭うと、 その全能力を駆使してそれを分析しようとする。 そのため脳は、『表情を変える』『言葉を発する』といった 日常的な指令さえも出すことが出来なくなってしまう。 「鈴音さん以外には考えられません。僕と結婚して下さい」 港に面した公園で、市川雄太は勇気を振り絞って求愛の言葉を発した。 だが、それに対する森野鈴音の返事は、想定外の混乱を彼にもたらした。 「雄太さん。ありがとう。私・・・私には、 あなたよりふさわしい

「憑依思念(前編)」・・・怖い人の話。港に面した夜の公園で男は勇気を振り絞って。

『憑依思念(前編)』 「いよいよかな」 森野鈴音は、心の中で覚悟を決めた。 今夜のディナーはフランス料理、ワインも奮発していた。 「食後の散歩をしましょう」 普段以上にスーツをびしっと決めた市川雄太は、 恋人を夜景が美しい港の公園に連れ出した。 つき合い出して半年になるが、雄太はまだ手を握るくらいしか、してこない。 雄太がそれ以上を求めてこないであろうことは、 付き合い始めて数分で分かった。 『純潔って鈴音さんはどう思われますか?』 配偶者に求める最大の条件が

「今夜あなたが浮気する相手は」・・・不思議な話。倦怠期を迎えた夫婦がとった予防法とは。

私、伴野麻砂美は今夜浮気をする。 ただし、相手は夫の駿也だ。 私たちは月に一度、浮気ごっこをする。 40歳の声が聞こえ始め、倦怠期を迎えた私たちは、夫婦生活に刺激が欲しくなり、浮気防止を兼ねてこんな遊びを始めた。 お互いに普段とは全く違う服装を着て、 バーや公園で待ち合わせ、別の人間として偽のナンパをする。 一種のコスプレ遊びで別人になる訳だが、夫婦でやってみると、別人になるのは意外と楽しく、どんどん凝った格好になっていった。 バブル期ファッションから始まり、 純和

「ヨクボーバス」・・・不思議な話。遅刻寸前、バスで眠ってしまった女子高生は。

『ヨクボーバス』 「あちゃ~。寝過ごした」 目を覚ますと、バスは見知らぬ停留所を出たところだった。 「朝トラブルると、その一日は調子が悪いな」 今朝、ママと交わしたバトルが原因だ。きっとそうだ。 寝起きの娘には、もう少し優しくするべきなんだ。 「紗代! あなた最近、寝すぎるわよ。朝も遅いし、かと言って夜も早く寝てるでしょ。学校から帰ってきてもすぐソファーで寝てるし」 「陸上部がハードなのよ。それに眠れなくてノイローゼになるよりマシでしょ」 「いくらクラブ活動が忙

「ミウラ・チャット」・・・真夜中のSNSで起こった事とは。

『ミウラ・チャット』 午前7時にセットした目覚まし時計が鳴るより早くスマホが鳴った。 「朝からすまん」 同期の湯川だった。 「佐野はひと月前の『三浦チャット』に参加してただろう」 「ああ。でも俺はほとんど見てただけで、二時間くらいで抜けたけど」 「おれもその後すぐ抜けたんだけど、チャットの記録見たか?」 「いや。忙しくて見てないけど、誰か書き込みで告白でもしたのか?」 「そんなんじゃねえよ。とにかく見てみろよ」 俺はスマホをテーブルに置いてPCを立ち上げた。

「いざないの湯」・・・怪談。大自然の中でカメラマンが誘われた癒しの湯とは。

18歳になったばかりにしては、その女の子は奇妙な落ち着きがあった。 旅行雑誌の読者モデルで、『多津のぞみ』というレトロ趣味の芸名を使っていた。おそらく派遣してきたタレントプロダクションの老社長が適当に付けたのだろう。 まあ、珍しくも無いことだ。 長年、旅行雑誌専門のカメラマンをしていると、このモデル、適当に扱われているな、と感じる事は多々あるが、お互い様の面も少なからずある。 ファッション誌と違い、旅行雑誌の読者モデルは入れ替わりが早い。 理由は移動時間も含めて拘束時間

「はがたの栗」・・・怪談。東北地方に伝わる不思議な言い伝え。

『はがたの栗』 今から百年ほど昔のこと。 夕刻から降り出した雪が、身の丈ほども降り積もった吹雪の夜でした。 奥州道から少し外れた小さな山村で 一人の娘が、幼い命を終えようとしていました。 娘の病は重く、高いお金を出して医者を呼んでも、 『もう長くない、やりたい事、好きな事をやらせてやりなさい』 と、さじを投げられてしまいました。 それでも父の悟助は、家中のおもちゃを百合の周りに集めて 声をかけ続けるのでした。 「ほら。百合。お前の好きな赤ベコじゃ。 こっちには、

「よんできろ」・・・怪談。江戸時代。酔った勘定方が遭遇した不思議とは。

『よんできろ』 幕府勘定方の佐野竜太郎は、 酒が回るといつも説教を始める癖があった。 「算盤には、一文の狂いもあってはならない」 「帳尻の合わない勘定は、たとえ上様であっても受け取ってはならない」 などと、出来もしないことを長々と説教するために、 『お説教の安売り』と陰で揶揄されていた。 ところが、その日は珍しく他人を褒め続けていた。 「とにかく、伊和谷鉄心って侍は、夫婦そろって評判がウナギ登りなんだよ。ひっく。わかる?」 近頃、同僚夫妻の仲の良さが、江戸城下で話

「水飴と石段」・・・怪談。菩提寺の石段の陰で話し合う夫婦。

       『水飴と石段』 浄法寺の長い石段の下で待っている二台の人力車を眺めながら、 友司は深いため息をついた。 雨上がり森から涼しい風が通り抜けていく。 その心地よさを感じていても、友司の心は晴れなかった。 『飴を選ぶときに指をくわえるのが、友恵の癖だったな』 階段脇にある駄菓子屋の緋毛氈の色が、目に飛び込んでくる。 「また、昔の事を考えてるの?」 いつのまにか友司の隣に、若い女が立っていた。 「恵美・・・」 「あの娘、何でもすぐに決めてしまうのに