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ジョセフは若い頃ならばダービー兄に勝てたのか?

ダービー兄戦のジョセフを不甲斐なしと評する声はよく聞く。それに伴って弱体化と呼ばれる事も多く、若い頃なら勝てたというが、本当にそうだろうか?

結論から言うと勝てない。

第3部のテーマとは?


説明の前にまず1~3部のテーマ性の変節を語らねばならない。
荒木飛呂彦という作家の白眉さは、部を経るごとに必ず前部のテーマを深化あるいは対立する要素を持ってきてアップデートを図る所にある。

まず第1部とは一言で表すと勇気の話である。
強大な敵を持つ吸血鬼ディオに、ジョナサンは己を奮い立たせて強大な敵に立ち向かっていく。波紋を用いてその場の環境を利用する戦法は現在でも続くジョジョの礎の一つとなっている。

続く第2部では波紋という要素をどのように昇華させたのか。
吸血鬼との戦いで必要だったのは勇気だった。だが、次の柱の男は吸血鬼以上に圧倒的な力を持ち、ただ挑み立ち向かうだけでは難なく返り討ちにあってしまう。
そこにジョセフが持ち込んだのは駆け引き、相手を騙すというダーティーさだ。直情的な性格の多い波紋使いにジョセフの性格は異端で、とぼけた様子からは想像できない策略を用いて柱の男たちを翻弄した。
ジョセフのキャラクター、相手をハメて自分の調子に持ち込むスタイルは、そのままスタンド編への萌芽となっている。

そして第3部。
ジョセフは駆け引きにより勝ち抜いてきた。しかし、果たしてそのスタイルを敵味方全員がやってきたら……?
パワー勝負の臨界点はカーズ戦により到達され、続くスタンド編となる3部は路線を大胆変更し、単一の能力を持つ人間たちがそれぞれ有利になるように心理戦や駆け引きを用いて戦うものへと変貌した。

VSダービー兄が第3部でもベストバウトに入るのは、この戦いが第3部における精神の戦い、プリミティブな部分を混じりっけなく語っているからだ。
ギャンブラーたるダービー兄は基本的に勝負に己の腕以外を使わない。精神力、イカサマ師としての実力を駆使して承太郎たちに戦いを挑んだ。

つまり、ジョセフ以上の心理戦やイカサマを用いる敵が出てきた時、どう戦うかという考証があの戦いには内在している。

ジョセフ・ジョースターという主人公


ここで2部と3部を通してわかるジョセフのパーソナリティについて振り返ってみよう。

①予想外の奇策で相手を翻弄する事が得意。
②お調子者で、時にそれが真意を悟らせないカモフラージュとなっている。
③しかし、本当に調子に乗ったり油断したりして窮地に陥る事がある。
④予想外の出来事に対しては動揺しやすい。崖っぷちに立たされた場合に顕著になる傾向。


第2部の活躍の大きいお陰か、ジョセフは謀略において一級品のイメージが強い。しかしながら、実はジョセフは完璧な策士と称するには劣る点がある。

ジョセフが得意なのは明らかである絶望的な状況を覆す事であり、逆に相手の隠された意図を見抜く力にいま一つ欠けているのである。
例えば、ヘルクライムピラーの修行でジョセフはヘルクライムピラーのトラップを見抜くどころか積極的に踏み抜いてしまうミスを犯している。
リサリサVSカーズでもカーズの意図を全く感知できていないし、他の戦いでも虚を突かれて動揺する場面も少なくなかった。
アラビア・ファッツの太陽戦でジョセフだけが翻弄されたのも弱体化でも何でもなく、もともとそういう性質なのである。

このように策士=心理戦最強と考えられがちであるが、ジョセフは本当は「一杯食わされた後の挽回」に長けている。ヘルクライムピラーのミスを自分のプラスに換えたように。
さらに言えば、ジョセフは第2部で同質の敵と戦っていないのもポイントだ。柱の男は強大だったが、基本は多彩なスペックを利用して圧倒するのが戦法で、ジョセフのように「騙し」を主体としてない。

第3部のジョセフの登場エピソードはそれなりにあるが、主だった戦闘を行ったのはエンブレス戦、バステト女神戦、DIO戦である。
特にエンブレスとバステト女神に注目すると、面白い共通点がわかる。どちらも時間経過で状況が悪化していくスタンドだ。このタイプのスタンドは本体があまり駆け引きを行わない。時間稼ぎすれば事足りるからだ。ジョセフはこのように能力偏重で圧倒してくる相手を得意としている。

ダービー兄に勝てる「強さ」


ここまで語った所でVSダービー兄を見てみよう。

ダービー兄はことギャンブルに関しては卓越しており、イカサマの腕も超一流と言って差し支えない。
イカサマを仕掛ける事も見抜く事もダービー兄にとっては容易な事である。

ここまで書くとイカサマの攻守を極めたダービー兄とジョセフの相性が悪いのがわかるだろう。先ほども言ったようにジョセフはイカサマを仕掛ける事は得意でも相手の手管を看破する力が若干弱い。

加えて予想外の出来事に戸惑いやすい性格も加味すれば、表面張力ギャンブルの流れも全く不自然ではないし、ジョセフの強さがナーフされたわけでもない事がわかる。順当にダービー兄が強すぎるという話だ。

では、承太郎はどうしてダービー兄に勝てたのか?

承太郎はダービー兄に対して別にイカサマ勝負で勝ったわけではない。店の周りにいる全員がダービーとグルという所は結局見抜けなかったし、そもそも承太郎はジョセフのようにイカサマ勝負を仕掛けてもいない。

承太郎はジョセフの敗北を見て、イカサマで勝てる相手ではないと判断した。そして、承太郎が持つ、ダービーやジョセフにない強みとは何か?

言うまでもなくそれは強靭な精神力だ。精神性をテーマにした第3部を体現したようなキャラクターであり、スタープラチナの精密さの元となっている性格でもある。

たとえ母親の命すらチップにしても顔色一つ変えない豪胆さは、ついにダービーからDIOの情報を引き換えに肝っ玉勝負という承太郎のフィールドに持ち込んだ。自分のフィールドに持ち込めるか否かがスタンド戦の勝利の秘訣だ。

ジョセフ以上のイカサマ師がいるのがVSダービー兄の前提なのだから、どう足掻いてもイカサマ勝負で勝てるわけがない。
第1部の「勇気」、第2部の「策略」、そして第3部の「己の特性を突き通す精神力」。
第2部から第3部の移ろいがダービー兄戦には詰まっている。

補足をすると、後のVSダービー弟はダービー兄の影絵のような関係である。
ダービー弟のアトゥム神は相手の心理を部分的に覗ける厄介な能力であったが、その便利さ故にダービー弟はその力に頼り気味になっていた。

裏を返せば、ダービ―兄と違って何をしているかが明らかな敵である。

そんな相手に承太郎と呼応してハメる事は容易い事だっただろう。



ジョセフの第3部の活躍がナーフでも何でもなく、第2部からの一貫性のある描写である事がわかるはずだ。ジョセフにはジョセフの強みや弱みがあり、それは必ずしも弱体化と単純に語る事はできない。
第3部ではコメディリリーフになりがちなジョセフだったが、承太郎一行の旅で最初から最後までチームのトップとして存在感を放っており、例え戦闘回数が少なくても、その資質は褪せずに旅の一助になった事に間違いはない。

ジョジョ稀代の策士として語られると同時に、歴代主人公の中でも特に感情の変動が激しく、それに左右されやすいアンバランスさが魅力でもある。様々な面を見せられる多様なキャラクター性が第4部まで登壇できた要因の一つであると思う。



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