どうして十三機兵防衛圏でGWを消化してしまうのか
昨年の11月に発売されたヴァニラウェア開発のゲームは、桜井政博氏のコラムや口コミ等で爆発的に評判を広げた。流れ聞く話では「凄い、ネタバレになるから何も言えないが凄い」と「東雲先輩が凄い」という話のみで具体的な話には及ぶ事はない。
一体何だというのか。狙いすましたかのようなGW前の25%セール。ヴァニラウェアのゲームはそこそこやっているし、せっかくだから買ってGWに触ってみようか…とプレイする。
そしてGWで消化しようと用意した映画は部屋の隅で埃をかぶり、リングフィットアドベンチャーのリングは僕に愛想を尽かした。
確かに凄い…凄かった。ヴァニラウェア社長の神谷氏が述べたように「好きなもののモザイク画のような作品」で間違いなく、これにかけられた熱量たるや想像だに出来ない。プレイ中、画面の奥から開発者たちの息切れの声が聞こえてきそうなぐらい鬼気迫ったものを感じた。
「語る事はない、とりあえずプレイしろ!」と言わしめる本作をあえてADVパートの中身を語らずに面白さを伝えようと思う。
キャラクターを「追い」「想う」
本作は13人の生まれも育ちも違う少年少女が、機兵と呼ばれるロボットに乗って街を怪獣から守るというストーリーである。
ADVパートを「追想編」。RTSパート「崩壊編」として分けてプレイ出来る。進行状況にもよるが、基本的に好きな方を好きな分だけプレイ可能。
得た情報をアーカイブとして整理できる究明編もある
シナリオの特異さ等を考えなければ、王道的なシミュレーションゲームだ。シナリオパートと戦闘パートがお互いのテンションを高め合う。FEシリーズは言うに及ばず、多くのゲームで形態が見られるシステムだろう。
なら本作を特殊たらしめているのはオマージュに溢れた緻密な群像劇のみなのか?
プレイする内にわかったのは、時系列を分断した事によって成り立つADVとRTS。二つのプレイ体験の有機的な繋がりだった。
ネタバレ禁止のシナリオ体験。という謳い文句での口コミが各所で見られる。確かに、膨大な人間関係と世界観設定によるシナリオは、ヴァニラウェアの幻想的かつ美麗なビジュアルに彩られて、それだけでも唯一無二の輝きを放っている。
物語が現代日本でも特徴的なビジュアルは健在
だが、それだけでは足りない。本作ではADVパートにおいて他のゲームとは一線を画する要素がある。
それは「結末が判明している事」だ。
普通のSRPGならばシナリオ→バトルの繰り返しで時系列は一直線で進んでいくだろう。
だが本作において、追想編と崩壊編は完全に分かたれている。何故ならば、崩壊編は追想編の後の時系列だからだ。
これはプレイすれば冒頭で判明する事柄なのでバラすが、追想編は「何故機兵に乗るに至ったかを語る」ものであり、RTSパートの崩壊編は機兵に乗った後の話である。
崩壊編でも戦闘前と後に軽い会話シーンがあるが、得られる情報はごく一部であり、想像力が掻き立てられる。
だからプレイヤーは追想編で各々の主人公の「戦う理由」を探さなければならない。同時に、追想編で得た主人公達の動機を崩壊編で昇華させなければならない。
語られる過去、動機はキャラの魅力を深める。
双方のパートを進める事により、それらの情報が次第に統合され、全体像が見えてくる。主人公達の成り立ち、世界の仕組み…複雑に絡んだそれらを追想編で紐解き、崩壊編で彼らの結末を導く。
シナリオとバトルを時系列を細切れにして能動的にプレイヤーに整理させていくという手法は目から鱗だ。シナリオが読むためだけのものじゃなくなって、さながら一種の推理ゲームのように考察を交えて進む事になるから、作業感が薄くなっている。
めいいっぱい「崩して」「壊せ」
つまり、本作においてシナリオとバトルは明確な両輪であり、シナリオと同程度にはバトルも重要になってくる。
当然だ。
追想編は崩壊編への大いなる前座だから結末に至る崩壊編がお粗末だとやる気がゴリッと削がれるに決まってる。
本作の崩壊編はタワーディフェンスを基盤としたRTSだ。画像を見てもらえばわかるように、表示されるUIや画面は非常に簡素。追憶編のビジュアルとは好対照な画面だ。
シンプルイズベスト。心の奥底にいる「男子」が身悶えする
味気ない印象も受けるかもしれないが、追想編をプレイしていると逆に補完の余地が多く、色んな想像を楽しめる形態である事がわかるだろう。
勝利条件は大体が敵の全滅かターミナルと呼ばれる防衛を一定時間守る事。敵はポコジャカと出てくるが、こちらの手駒は最初から最後まで13体のみ。
そして
ワラワラ出てくる敵を! 鉄拳で! チェンソーで! ミサイルで! ビームで! ファンネルで! バカスカ倒す!
これがまぁ何と楽しい。UIが単純だから余計な視覚情報に気を取られる事はないし、真剣に敵を倒す快感へと集中できる。敵を倒した時は小気味よい爆破SEと共に火花のようなものが四方に散らばり、倒した事をシンプルに感じられて気持ちがいい。
広がる火花とダメージ表記
戦況はリアルタイムで進んでいくが、一点特殊な所があって、コマンド選択時と攻撃時はタイム進行が停止するシステムを採用している。
特に攻撃時でこちらが一方的に止まっている敵を殴れるシステムはリアルタイムの枠組みから外れるものの、ゲームに適度な戦略性を与えており、ストレスを回避する仕組みになっている。
敵が止まっている状態を攻撃するから外れる事はないし、攻撃によって移動時間を短縮するという戦術も可能だ。
もちろん、バトルやシナリオで集めたポイントで機兵や兵装を強化する事も可能。
増加、強化していく敵に対してこちらもモリモリ機兵をパワーアップさせていき、さらに大勢の敵を一網打尽にする…。ハクスラの原理的な快感を綺麗になぞらせてくれる。
崩壊編だけでもちゃんとゲームとして成り立つシンプルさと完成度を持っている。出来る限りの簡略化を目指したシステムゆえにプレイスキルが上がるとやや単調になってしまう感は否めないが、そこも含めて無双ゲーに通じる草刈り遊びを楽しめる。
物語を「究め」「明かそう」
時系列を断片化し、プレイ体験の全く違う追憶編と崩壊編に分け、情報の拾い集めによって両極端な双方のプレイを断絶させずに結びつける…。
言うは易しだが、実際シナリオ制作にめっちゃ苦労したそう。
冒頭で「開発者の息切れが聞こえた」と言ったのも、シナリオ中にちょっと「無理したな」って思わせる箇所が幾つか感じたからだ。
通してプレイしたシナリオの感想は「主役の動機と世界の仕組みは大まかに理解できたが、人間関係のアレコレとか細かな設定を資料を参照しても把握しきれていない」
正直これだけの複雑さで13人の主役がやってる事が判明できるだけでも大したものだし、重要なのは先も述べた通り主役の動機を探る事だから、細かい点には目をつぶるべきだろうが、流石に時系列細切れと登場人物の多さによる情報の煩雑さには若干の疲れを感じた。
とはいえ、そのリスクを超えてまでもプレイに没頭したのは、彼ら13人の由来を探り、行く末を導きたかったからの一言に尽きる。
最終決戦、画面を埋め尽くす敵と膨大なミサイルによって起こる処理落ちすら演出の一部であるかのように感じるほど、最後は彼らの物語に入れ込んでしまっていた。
これは間違いなくテレビゲームという媒体でしか不可能な体験だ。まだ手にとってない方は是非体験版からでもプレイしてもらいたい。そして、かけがえのないGWを十三機兵防衛圏で費やしてほしい。GW終わったが……。
右の子は男です。すごい
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?