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「公開3ヶ月前②」(須藤蓮②)~【連載/逆光の乱反射vol.5】

『逆光の乱反射』は映画『逆光』の配給活動が巻き起こす波紋をレポートする、ドキュメント連載企画です。広島在住のライター・小説家の清水浩司が不定期に書いていきます。

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今から映画公開まで3ヶ月……3ヶ月もあれば広島に200人友達作れるし、その200人が全員劇場に足を運んだら横シネは3日間満員になりますよね? それが役者にできなくて監督にできることなんです。血みどろになって「俺の映画を見に来てくれ!」って言える。やはり作品の責任者じゃないと、言葉って心に響かないんです。だから僕は一作品の責任者の立場がほしかったんです。自分の言葉ですべてを説明できるし、責任もとれる。それがずっとやりたかったんだと思います。

『逆光』を語るには『ワンダーウォール』を欠かすことはできない。あの作品が生んだ出会い、高揚、失望、問題意識、悔しさ……そうした体験が須藤と渡辺にタッグを組ませ、『逆光』に駆り立てたと言っていい。『ワンダーウォール』から続く2人の意識の流れは、今の日本社会や映画業界に対する興味深いカウンターの推移として捉えることができる。

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一方で今回の配給プロジェクト、広島においては「地方から東京への逆転現象を起こすぞ!」と盛り上がっているフシがあるが、当の須藤はもっとドライな視点でこれを見つめている。

宣伝配給は「東京⇒地方」に流れるのが普通で、今回はそれを「地方⇒東京」に逆行させるって言ってるけど、それはわかりやすい言い方なだけで別に逆行させることが重要ではないんです。むしろ僕にとって大事なのは「広島の宣伝は広島の人たちとやる」ということ。衣装は衣装部の人とやる、それと同じですよ。だってその道のプロなわけじゃないですか? 東京から見ても広島のことはわからないし、広島の横川シネマにどんなお客さんが集まるかは支配人の溝口(徹)さんしか知らないんです。それがわかるのはその人の才能で、僕らはそれを借りて配給をやりたいんです。映画の制作と同じですよ。僕は衣装部の才能を借りて、自分の映画表現に落とし込む。そこでお互い歓びを分かち合えれば一番いいですよね。

出会いの中で人の才能を見抜き、それをこちらに貸してもらう。周囲の人の能力を思う存分発揮させ、その上で互いに手を組む。くしくもクラウドファンディングの序文で渡辺あやは、「対象の潜在的な美点を見抜き、最大限に開花させる力」こそが須藤の卓越した才能だと書いている。“人たらし”であると共に“人いかし”というのが、彼の本領かもしれない。

『逆光』という作品自体、そういうふうにできた作品ですからね。とりあえず尾道に降り立って、出会った人たちからチカラを借りて、なんとか完成した。僕の中にはそのやり方しかないんです。そのやり方でしか楽しめないんだと思います。だからこれは僕が何者でもないからできる実験なのかもしれないです。無名だから面白いし、ヒリヒリする。だって僕が売れっ子の監督や役者だったら関わる人も変わってきますよ。逆に言えば、売れてないからこそ今回関わってくれる人には信頼が置けるんです。今回チカラを貸してくれた人には、僕がどれだけ大きくなっても永遠に義理を返し続けるつもりです。そう考えると今回の活動は、僕にとって“ずっと大事にできる人探し”でもあるのかもしれません。

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今回の広島滞在は2日間。この2日で須藤は再び打ち合わせを繰り返し、さらに新規の人間とも会談を重ねた。

須藤は前回の広島試写を見た映画監督志望の男性が『逆光』に触発され、会社を辞めて映画を撮ることを決意したという話をとりわけ嬉しそうに語っていた。男性は須藤の1つ下の23歳。きっとこうした同世代に及ぼすリフレクションが、彼がもっとも求めている「最終結果」なのだろう。

そんな彼にとって『逆光』広島公開初日は、くしくも25歳の誕生日と重なっている。

人生1/4の節目に勝負を仕掛けるって痺れますよね。映画を撮るより怖いです。映画では「これくらいのものはできる」って想定はあったけど、映画自体は別に革命は起こしてないですから。でもこの配給は僕にしかやれない。それを収益・集客という結果で見せられるのか……。

「その日」は刻々と近づいている。勝負の7月22日、須藤はどんな誕生日を迎えるのだろう?(この項、完)

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映画『逆光』は現在、配給活動を支援するためのクラウドファンディングを行っています。↓ ↓ ↓ ↓ ↓



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