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「脚本家の頭の中②」(渡辺あや①)【連載/逆光の乱反射vol.10】

『逆光の乱反射』は映画『逆光』の配給活動が巻き起こす波紋をレポートする、ドキュメント連載企画です。広島在住のライター・小説家の清水浩司が不定期に書いていきます。

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そう、今回に関しては私の中でもう迷うという段階ではなくて……それ以前に30代後半の頃、ものづくりに関しては一度迷った時期があったんです。

実は『逆光』以前にもあった渡辺の自主映画トライアル。30代後半いうと『ジョゼと虎と魚たち』でデビューした後で、『その街のこども』『カーネーション』に向かう間になる。

デビューして、いろんなプロの人たちから話を聞いて「映画というのは面白いだけじゃダメなんだ。自分が楽しいだけじゃダメなんだよ」と言われて。それで「そうか、私もニーズに合わせて作らないと!」という気持ちでやっていたら、脚本を書くのがどんどん楽しくなくなってしまったんです(笑)。そのときに一度、自主映画を作ったんですよ。自主映画って「自分がお金を出してでもこれを作りたい」って気持ちがないと成立しないわけじゃないですか。それをやることで「あ、こういうことをやっていいんだ」って思えたんです。「自分がお金を出したいくらい作りたい」って思っていいし、ものづくりって本来そうあるべきだなって。自主映画をやったことで自分の中で押し殺してたものが元の形に戻ったというか、自分を取り戻せた気がしたんです。そういう体験を以前にしてるので、今回も「私は間違ってないぞ」って気持ちはずっとありましたね。

そのときに作ったのが『カントリーガール』(11)という作品。渡辺は映画祭で知り合った、当時20代の小林達夫監督の才能に惚れこみ、100万円を出資。自ら脚本を書き、現場にも同行した。

その後、小林監督とは杉浦日向子原作の『合葬』(15)という作品でもタッグを組む。

自分を取り戻すための自主制作、そして才能ある若手とのタッグという『逆光』の原型は、実は以前にもあったのである。さらにコロナという状況が渡辺の背中を押した。

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コロナ禍以降、学校に行けなくなってる子の話をよく聞くんですよ。それってこれまで感覚を押し殺して世の中に順応してた人たちが順応できなくなってきたんだと思うんです。私としては、むしろそっちの方が健全なんじゃないかという気がして。あと、『逆光』の音楽を担当してくれた大友良英さんも、ほぼノーギャラでこの仕事を引き受けてくれたんですけど、そのとき「もうやりたいことしかやりたくないんだよなあ」って言ってて。コロナ禍で世の中が変わるような雰囲気を感じたんです。
それって生存本能みたいなものなんだと思うんですよ。危機だからこそ本能が目覚めるというか、それまで人間が開いてこなかった扉が開くというか。でもそれってすごく楽しいことで、自分自身が変わるのも楽しいけど、そういうことが起こって変わっていく人を見るのも何より楽しいんです。

そんなときに渡辺の前に現れたのが、須藤蓮だった。(まだまだ続く)

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映画『逆光』は現在、配給活動を支援するためのクラウドファンディングを行っています。


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