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「公開3ヶ月前①」(須藤蓮②)~【連載/逆光の乱反射vol.4】

『逆光の乱反射』は映画『逆光』の配給活動が巻き起こす波紋をレポートする、ドキュメント連載企画です。広島在住のライター・小説家の清水浩司が不定期に書いていきます。

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最初の出会いから1ヶ月、次に須藤蓮と会ったのは4月20日のことだった。
ただその間、広島での配給に関するオンライン会議には顔を出していたので、正確に言えばまったく会っていないわけではない。だが彼にとって2度目の来広となるこの日、待ち合わせ場所の横川シネマで対面した須藤蓮は雰囲気が変わっていた。

一言で言えば、地に足が着いたというのだろうか。前回は初めての広島、初めての試写、出会う人も初めてばかりで、「はじめまして」「一緒に何かやりましょう」「えー、嬉しい。わー!」といった躁状態のカオスがあった。須藤も広島サイドの人間も出会いの興奮に酔いしれ、どちらも浮足立っているところがあった。

ところがこの日会った須藤は、浮かれた躁の部分を削ぎ落としたような印象だった。まず広島市での公開劇場となる横川シネマの支配人・溝口徹と上映時間や上映回数について細かい内容を打ち合わせる。その口ぶりは慎重で、数字の計算は素早く、スキのない若手起業家のようである。その一方で「ここ何人で満員ですか? 70席? まず初日から4日連続で満員にしてみせますよ!」とビッグマウスが飛び出すことは変わらない。しかしそれも根拠のない自信ではなく、どこか現実を見定めたような言い方に聞こえる。

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私たちは横川シネマのロビーで1ヶ月ぶりに向き合った。劇場ではフランスの映画監督、ロベール・ブレッソンの特集上映が行われていて、平日の午前中にもかかわらず熱心なシネフィルたちがチラホラ姿を見せていた。

あれからの1ヶ月……まず尾道と広島と受け取ったものが膨大すぎて、それを具体的プランにどう落とし込んでいくか頭を悩ませていました。てんやわんやの状態からそれを道標にしていく過程というか。前回の広島滞在は余裕がなくて、自分でも何が起こってるかわかってなかったんです。ただ、やっとその全体像が把握できて、今は風呂敷を広げていく状態から精度を上げていく状態に変わってきた感じ。「本当にこの人と何かやれるのか?」「実際に何をやるのか?」とかを詰めていく段階に入ったんです。あと、この1ヶ月で作品に対して自信がつきましたね。もう迷わないと思います。いろんな人からもらった感想が自分の中で消化できて。観た人の語りに終わりがなくて、語り飽きない作品であることは間違いないと思いましたよ。

自信がついて身の丈が見えた。混乱が落ち着き、やるべきことが明確になった。そんな新たなステージで須藤が口を酸っぱくして語ったのが「結果」に対する責任だった。

今はもう不安はないです。まったくないです。今は劇場の集客だけが未確定要素。プランはいいはずなんです。あとは結果が出せるかどうか。そして収益を分配できるか。これが新しい動きになりうるか……僕ら『ある程度入ればいい』ではやってないですから。
だってここで面白くならないと火が消えてしまう可能性があるんです。それは『ワンダーウォール』で感じた危機感で。あの映画はコロナっていう風が吹いた瞬間、すべての火がパタパタと消えていったんです。イベントができなくなって、途方に暮れているうちに尻すぼみどころか火も付かないうちに終わってしまった。東京の公開初日に劇場には2人しかいなかったし、舞台挨拶にも10人しか集まらなかった……『逆光』はあの苦しさに対するリベンジでもあるんです。
僕、これまで広島で映画興行した人の中で一番面白いことやってる自信があるんです。若者でこんな仕掛け方やってる人、いないじゃないですか? それがちゃんと結果につながることを見せないと、「いろいろやったけどやっぱり難しいよね」で終わってしまうと思うんです。だからこの勝負は勝たないと意味がないんです。草の根で動いたことがお金を生んで、劇場にもそれが回って、下の世代も「俺らもこういうふうにやったらカッケーじゃん!」みたいになって、いろんな人が自分たちで仕掛けはじめる、能動的なマインドに替わっていく……目指しているのは、そこなんです。

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今回の勝負は広島です。ここがうまくいけば全部うまくいくし、ここがダメなら全部ダメ。東京や京都でまったく新しいことをやるには予算的にムリがあるんです。たとえば予算が300万円あるとしたら、そのうち200万円は広島に突っ込んでます。配給としての実験は広島がすべてなんです。広島がある意味のクライマックスで、ある意味のスタート。広島の興行が起爆剤になって、どれだけ東京に波及するか――。
だから僕は広島に賭けてます。広島と心中する覚悟です。ここは作品に対して一番厳しい意見が飛んでくる場所でもあるし、作品が一番愛される場所でもある。現にこれだけ配給を手伝いたいと言ってくれる大人がいるわけで、そこは信じたいと思うんです。

とにかく『逆光』を商業的に成功させること――須藤の関心はすでにその一点に移っていた。確かに須藤も言うように、日本のほとんどのインディーズ映画は「できてよかったね」で終わってしまうところがある。作り手にとっての自己満足。参加者にとっては思い出づくり。作っている最中は祭りの楽しさが繰り広げられ、あとは野となれ山となれ……しかし「それを一回やってしまったら、次が撮れなくなると思うんです」と須藤は話す。「気持ちで手伝ってくれるのは一回だけですから」。

だからこの興行は成功させなければならない――その危機感の原点が彼と本作の脚本家・渡辺あやの出会いのきっかけとなったドラマ&映画『ワンダーウォール』にあったというのが興味深い(つづく)。

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