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「脚本家の頭の中③」(渡辺あや①)【連載/逆光の乱反射vol.12】

『逆光の乱反射』は映画『逆光』の配給活動が巻き起こす波紋をレポートする、ドキュメント連載企画です。広島在住のライター・小説家の清水浩司が不定期に書いていきます。

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どうしようかなぁと思ってるときに面白そうなヤツが目の前をウロウロしてて。「この人に何かやらせたら面白いんじゃないか? 何か投下したら爆発するんじゃないか?」ってエネルギーのポテンシャルを感じる子で。それでパッて捕まえたんです(笑)。

渡辺あやと須藤蓮、2人の出会いは、彼女が脚本を務めたNHKドラマ『ワンダーウォール』(18)までさかのぼる。

須藤にとっては初となる「ちゃんとセリフのある役柄」。ちなみにその映画版のコピーには「大きな力に居場所を奪われようとしている若者たちの、純粋で不器用な抵抗。その輝きと葛藤の物語」とある。ここで注目してほしいのは、この作品で渡辺は「若者たち」に視線を向けているということである。作家・渡辺という流れで見れば『ワンダーウォール』を起点にして、その実践版が『逆光』であり、今春放送されたNHKドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』がより攻撃的な発展版と解釈できる。

渡辺が『逆光』制作に至った背景には、『ワンダーウォール』で経験した挫折も色濃く影響している。2020年4月に映画版が公開となった『ワンダーウォール』はコロナ禍の波を直接受けた。この作品も『逆光』同様、スタッフやキャストは知恵を絞った手作りイベントで映画公開を盛り上げようとしていたが、コロナによって次々と頓挫。結局劇場公開は尻すぼみで終わり、そこに出演していた若手俳優たちも仕事の予定を失ってしまう。

そんなときに「自主映画を撮りたい。脚本を書いてくれませんか?」と言ってきたのが、キャストの1人である須藤だった。渡辺にとって須藤はどこか気になる存在だった。

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蓮くんには『ワンダーウォール』で初めて会ったんですけど、どこかしんどそうだし、苦しそうに見えたです。彼は一見のびのびしてるように見えるけど、自分に何が求められてるか敏感に察知して、応えられる器用さがないのにそれに応えようとするところがあって。役者として慣れない現場に入っている彼が、私にはしんどそうに感じられたんです。
ただ、そのしんどそうな感じはどこか見覚えのあるもので。「そういうしんどさって、ある意味その人のポテンシャルだな」とも思うんです。たとえば私は森山未來くんと『その街のこども』(10)というドラマをやったんですけど、彼はその前年に震災のドキュメンタリーのナビゲーターをやってて。それは未來くんが震災で家族を亡くした方の元に行って話を聞くというものですけど、未來くんは自分が震災で辛い体験をしてないので、話を聞きに行っても何も言えないんです。他のタレントさんだったら器用にやれちゃうかもしれないところを、未來くんは「自分の言葉で話せないなら自分が何かを言う資格はない」って思ったんじゃないかと思うんです。それが悔しくて泣いたりしていて、私には途中から被災者の方というより、むしろ未來くんのドキュメンタリーのように見えてきたんです。
私は蓮くんにもそれに近いものを感じて。私自身もまた人が傷つかないようなところで自分だけがやたら傷ついて、「この傷つき機能って何だろう? こんなのなければいいのに。これがあるおかげでみんなが行けるところに自分が行けないじゃん!」って思うことがあったんです。蓮くんもひとかどの収入とステイタスを得ることがもっとも成功者と思われる価値観の中で生きてきて、その繊細さや表現力を「余計なもの」として押し殺してきたんだと思うんです。
で、そういう人って最終的にはモノを作るしかないというか。そう考えると、そのしんどさってある意味、自分のやりたいことがわからない、エネルギーを持て余してるということでもあるんですよ。その人が悩んでることや苦しんでることは、むしろその人のポテンシャルの在りかでもあるんです。

そこから渡辺は須藤とタッグを組んで進んでいく。時に厳しい言葉をかけたこともあるし、彼を泣かせたこともある。渡辺あやのやり方は相当のスパルタ式である。

よく私が注意したのが、彼は小器用なところがあるので、インタビューなど借り物の言葉で済ましてしまうことがあるんです。でもそんな言葉なんて誰にも響かないわけで。私は「君はものすごく面白い言葉を持ってるから臆せずそれを言った方がいい。作り手としてやっていくなら、そこは絶対引いちゃいけない」ってことを伝えたんです。それができるようになったことで、彼はどんどんラクそうになっていきましたね。普段から自分として存在して、それを周囲が受け入れてくれる体験をするわけです。自分がちゃんと自分のサイズでいることが誰の迷惑にもならないし、むしろそれが場全体をいいものにできるんだってことがわかった。それで自信をつけてきた感じはありますね。

そして映画は無事に完成する。東京での関係者試写のとき、渡辺がインスタグラムに挙げたコメントが印象的だ。

東京試写会@渋谷ユーロライブ、お越し下さった皆さま、会場代をカンパ下さった皆さま、本当にありがとうございました。
上映後のホールで、これまで俳優として須藤蓮がお世話になってきた東京の諸先輩クリエイター方(名だたる)に、彼の初監督作が「新たな作り手の誕生」として受け止められている様子はたいへん刺激的でドキドキしました。
稀有な瞬間。立ち会えて幸運です。
(渡辺あや)
#映画逆光 #須藤蓮 #渡辺あや #渋谷ユーロライブ

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あのときは本当に感動的でしたね。だって彼、いいもの撮りそうにないじゃないですか?(笑) それこそ誰も思ってないわけです。でも彼はいろんな人に可愛がられてて。NHKのディレクターの井上剛さん(『いだてん』『その街のこども』担当)や岩崎大整さん(『ワンダーウォール』の音楽担当)など、彼を可愛がってた人たちが「ビックリした!」「映画めっちゃいいね!」って言ってくださって。初めて同じ作り手として認めたとき、男の人はこんな感じになるんだな、本当に「監督・須藤蓮」が誕生したんだなって思って。それはとても感動的な光景でしたよ。

才能を信じた渡辺と、その期待に応えた須藤。2人の師弟愛の結晶した瞬間が、東京の関係者試写会だったのだ。(つづく)

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