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『SKY THE SCRAPER』日常のモラトリアムからゲームが生まれる!?【受賞者ドキュメンタリー第2弾】前編


■古淵寮(Ryo Kobuchi)
本職はゲームデザイナー。
幾つかの大手ゲーム会社を渡り歩き、現在は株式会社トイジアムで働き中。約2年前からインディーゲームの開発を始め、会社としても個人としてもゲーム開発にどっぷり浸かった日々を送っている。

「SKY THE SCRAPER」は、ビル清掃とモラトリアムをテーマとした「ローグライクビル清掃アクションゲーム」だ。主人公のスカイは親の反対を押し切って独立。ビル清掃で家賃を稼ぎつつ、自分の中にある志を探していく。ビル清掃はプレイする度に現場が変化するローグライク(ローグライト)アクション。そして、仕事の合間の日々は賃金と時間を使って暮らすマネジメント系シミュレーションとして表現される。爽快なビル清掃の合間に、親から独立を責めるメールが届いたり、気晴らしに出かけたカフェで逆にテンションが落ちたりと、スカイの日々は自由だが不確かで、何が起こるか分からないのだ。
 そんな「SKY THE SCRAPER」について、古淵 寮氏に制作秘話を聞いた。会社員としてのゲーム作り、小説執筆、そしてインディーゲーム開発と、様々な創作を体験した古淵氏。「SKY THE SCRAPER」は氏のどういった部分から生まれ、どのようにして作られていったのだろうか?


■差別化とモラトリアム感。自分の中に潜在していたテーマが引き出され、「SKY THE SCRAPER」になった


――よろしくお願いします。まず「SKY THE SCRAPER」の制作体制について聞かせてください。

🔸古淵:ほぼほぼ私一人で作っています。一部のグラフィックは弟や外部へお願いしている状態ですね。

――現在は本業と「SKY THE SCRAPER」開発をどう両立されているのでしょう?

🔸古淵:平日はゲームデザイナーとして会社に週3日勤め、「SKY THE SCRAPER」の開発に2日使っています。土日はほとんど子供と過ごしていますね。

――週3日勤務というのは珍しいですね。

🔸古淵:当初は独立してインディーゲーム開発をしようと考えていたんですが、収入が途絶えるのはやはりリスクがありました。そんなときに知り合いであるトイジアムのCTOが相談に乗ってくれ、そこが個人の制作も支援する会社であり、フレキシブルな働き方をしている人も多いと聞き、週3日という形態で雇っていただくことになりました。そんな懐の深い会社はそうそうないと思いますし、とても感謝しています。

――グラフィックを担当している弟さんもゲーム業界関係者なのでしょうか?

🔸古淵:弟は全くの未経験ですね。絵を描いたりドットを打ったり、動画を編集したり、テストプレイやバグ発見など、アシスタント的な業務も手伝ってくれています。


――1人で作り続けるのと、弟さんがいるのとでは違いますか?

🔸古淵:もちろん作業の負担も減りますし、対話して作ること自体にすごく価値を感じます。弟とは何でも言い合える仲なので、私が話したことに打ち返してくれるだけ、安心感や気付きがありますから。

――エンタメ作り全般において、自分が考えたコンセプトを誰かに聞いてもらう「壁打ち」の重要性は指摘されていますよね。話すために考えを整理し、そこで自分自身が気づいていなかったことも見つけられる。

🔸古淵:そうですね。私はゲームデザイナーなのでゲームデザイン的な部分はすんなり決まりますが、絵や音といった部分では弟に頼っている部分も多いです。

――古淵さんのゲーム原体験について教えてください。

🔸古淵:分かりやすいゲームっ子だったので、小学生の頃からファミコンで「ドラクエ」や「スーパーマリオ」といった有名作品をプレイして育ってきました。弟が大きくなってくると「くにおくん」シリーズや「スーパーチャイニーズ」「聖剣伝説2」みたいな協力系ゲームも遊んでいました。

――協力系ゲームだったのはなぜでしょう?

🔸古淵:対戦ものだと喧嘩してしまうからですね。思春期になると選ぶゲームも大人びてきて、その時遊んだスクウェア(現スクウェア・エニックス)さんの「ファイナルファンタジー」や「LIVE A LIVE」からの影響が、私のストーリーテリングの太い軸にはなっていると思います。大学生になるとゲームをやらない時期があったんですが、友達と「真・三國無双」なんかを遊んだことからゲーム熱が再燃し、今はオープンワールドRPGやシューターなど色んなジャンルをプレイしています。時代ごとに自分の中での流行みたいなものがあるのかも知れないですね。

――そうした学生生活を過ごした後、ゲーム開発をお仕事に選んだ理由は?

🔸古淵:ゲームが好きすぎたので、そもそもゲーム開発以外の仕事を考えていませんでした。高校進学の際も、プログラマーになるために高専へ行こうとしましたが、父親から「高校まではもう少し広く学べ」と止められて、しぶしぶ普通高校へ通った位ですし。

――かなり早い段階から志望がハッキリしていたんですね。

🔸古淵:大学では情報工学科を選んだんですが、そこで本当にデキる人たちを見てしまい、自分には無理だと打ちのめされました。でもどうしてもゲームを作りたかったので、企画職を募集している会社を探し、無事ゲーム会社に就職することができました。

――当時はどういったゲームを作られていたのでしょう?

🔸古淵:ジャンルでいうとアクションやRPGが多く、PlayStation 2や、ニンテンドーDSなど色んなプラットフォームを触らせてもらえました。特に当時は新ハードのローンチに合わせて、新機能を活かしたゲームの開発の機会には多く恵まれ、凄く楽しかったです。あとはIPもののゲームを手掛けたこともありました。ファンの方が「原作のネタ、そう料理したんだ」っていわれるようなものを作ることもモチベーションになっていたと思います。

――ゲームの企画を立てる際に重視していた点はありますか?

🔸古淵:大事にしていたのは「差別化」です。どうせやるなら、ちゃんとしたものにしたい。既に世の中にあるようなものなら、自分が作る必要ないんじゃないかって思っちゃうので。

――なるほど。お題というワンアイデアを大事にすること。独自性を追求したゲームデザイン。そして他との差別化。インディーゲーム開発にも通じるところが多いと感じられました。では、「SKY THE SCRAPER」における差別化とは?

🔸古淵:ビル清掃なら他と被らないだろうと思ったところはあるかも知れません。そうしたアンテナは常に張っているので、ありきたりな題材だったらスルーしていたと思います。

――ビル清掃のディテールもリアルでしたが、これは実体験なのでしょうか?

🔸古淵:私の知り合いにビル清掃の経験者がいて、取材させてもらいました。ワイパーを洗うためのバケツが剣の鞘みたいになっていて、ハーネスと鞘を身に付けてワイパーを振りかざした姿がゲームの主人公っぽく見えたんです。いかに効率よく窓を拭くかという部分も攻略的だし、これはゲームになりそうだと思ったんですね。

――確かに、特殊な装備を着けて危険に挑むというのはゲーム的に感じられます。

🔸古淵:知り合いとDiscordでゲームをしながら喋っている時にビル清掃の話を聞き、その時は「ゲームであったら面白いよね」と雑談で終わっていたんです。しばらく経ってからこの話を思い出し、Unityでビル清掃のアクションゲームのプロトタイプを作りました。この時は単に知り合いに見せて面白がってもらっていたんですが、自分の中ではすごく達成感があったのでもっと膨らませたいと思いました。

――当初はアクションゲームとしてスタートし、その後にマネジメントパートが加えられたわけですね。

🔸古淵:ただ、マネジメントパートで描かれる物語とアクションパートは表裏一体のような関係で、アイデアが両方同時に出てきました。どちらか片方だけのゲームにしようと思ったことはないですし、どちらが大事だということもないです。アクションゲームだけで作るという選択肢はあるでしょうが、それだと最後まで作りきろうとはならなかったんじゃないでしょうか。個人的な好みとしても、RPGでありつつシミュレーション的な側面のある「ペルソナ」のようにハイブリッドなゲームが好きなので、自然とその形になったのかも知れません。

アクションパート
マネジメントパート

――ビル清掃とモラトリアム感、アクションとシミュレーションの両方が揃って初めて「SKY THE SCRAPER」ですよね。アクションパートはシンプルで分かりやすいですし、マネジメントパートも感情移入しやすいのがポイントだと思いました。アクションパートではミスして落ちると働けなくなって収入が途絶える。マネジメントパートでは、家賃の支払い日が迫ってくる中、父からはスカイの独立に反対するお叱りのメッセージが来たりする。寄る辺なき日々の不安感が表現されていると感じました。

🔸古淵: 「やってやるぞ」みたいな気持ちと、一方で抱える不安といったモヤモヤした感情がテーマになっています。恥ずかしながら私自身が10代後半~20代前半に抱いていた感情でもあり、ようやく大人になって向き合えるようになってきたので、今度は逆に記憶から消えていく前に作品として残せればいいなという思いはあります。志はあるんだけれど、それが何であるかはハッキリとしていない。でも大抵の人間はみなそうで、だからこそ多くの人に共感を得られるんじゃないかという気持ちもありました。

――モヤモヤした感じはすごくありますよね。特にマネジメントパートでは、ギャンブルにうつつを抜かしたり、テンションを上げるつもりで行ったカフェで嫌な思いをするなど、リアルさがある。

🔸古淵:ゲームというのはシンプルにしないと遊びづらいところもありますが、一方で人生ってそんなに単純なものではないとも思うんです。何か分かんないんだけど、どんどん日だけは進んでいって、やがて時間切れで着地する。どこに着地するか、どう決着するかは自分がやったことの結果として出てくる、という体験を描きたかったんです。

――時間の大切さについては、以前に発表された「TIME PRISONER」(※)でも描かれていましたよね。続く「SKY THE SCRAPER」でも、過ぎゆく時間の大切さが表現されていますが、これは意識して同じ題材を描いたということだったのでしょうか?

※:「TIME PRISONER」
iOS用「ライフハック型放置ゲーム」。時間の大切さを体感することがテーマになっている。
主人公は時計の牢獄に入れられてしまい、刑期までの時間をそこで過ごす。
刑期はステージが進むとどんどん増えていき、中には30分かかるものもある。牢獄内の時間はリアルタイムで過ぎていき、できるのはたまに出現する「ヨユーロ」(お金)をタップして拾うだけ。刑期が終わったタイミングで牢獄の外に出ないとゲームオーバーになるため、ある程度集中してプレイせざるを得ない。「ヨユーロ」が増えることを嬉しく感じつつ、過ぎた時間も勿体なく思えるという不思議な体験ができる。

🔸古淵:特別に意識したわけではないんですが、個人的な課題感みたいなところからテーマを持って来るとこうなりがちなのかも知れません。若い頃の焦燥感や虚無感、20代の頃のうだつの上がらなさみたいな世界観で何かをつくりたい。そんなぼんやりとした思いが自分の中で眠っていたところにビル清掃の話を聞き、引きずり上げられてきたゲーム像が「SKY THE SCRAPER」なんだと思います。

――プレイを進めていくと、スカイはどのように変化していくのでしょう?

🔸古淵:スカイには「愛」「芸」「知」「悪」というパラメータがあり、どういった比重にしていくかで、アクションパートでの攻略性やゲームの結末が変わります。パラメータは「アクティビティ」や日々の行動によって変化していくので、プレイする度に展開が変わっていくところも楽しんでみてください。

――パラメータの名前が一風変わっていますが、なぜこのような形にしたのでしょう?

🔸古淵:数については、4つであれば対比としてバランスが取れるし、ゲームとしても扱いやすいだろうということで決まりました。パラメータの名前は、プレイヤーさんの想像が膨らみ、上げるとどんなスカイになっていくかが想像しやすいもので、かつ私がスキルを考えやすいということで今の形になっています。

(後編へ続く…)

※『後編』では、「応募時の企画書で意識した点、GYAARCon仲間は戦友?」等をお話いただきました!

▼作品紹介:SKY THE SCRAPER
ビル清掃をしながら不確かな夢を追い、日々を生きる若者:スカイを描くローグライク”ビル清掃”アクションゲーム。高所作業のスリルと、汚れを落とすスッキリ感が魅力の清掃アクション。限られた期間を有効に使い、少しずつお金と志を高めながらスカイの進路を2ヶ月以内に見つけだそう。
誰もが一度は感じたことのある、行き場のない焦燥感。この悶々とした日々を抜け出し、その先に見える未来を自らの手で切り拓け。

Steamストア:SKY THE SCRAPER (steampowered.com)

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