見出し画像

『スケバン美玲』 第3話

【本文】
○山尾銀行・店内
呆然とする田宮と富永。
美玲、人差し指を田宮に向け、小さく手招きするポーズ。
田宮、慌てて金庫のある通路へ逃げる。

富永「総師範って……まじか」

ヨーヨーを拾う美玲。
富永に尋ねる。

美玲「なんでここにいるんだ」
富永「あ、DVD返せ!」
美玲「ふふ、気づかなかっただろ。なんかあったとき、置き去りにされちゃ困るからな」

倒れている川上が目を覚ます。
そっと、銃に手をのばす。
美玲と富永、それに気づかず、

美玲「でも必要なかったな。雑魚すぎる」
富永「総師範だもん……」

美玲、DVDを富永へ投げる。

美玲「返してやんよ」

川上、瞬時に銃を取り美玲に向ける。

富永「危ない!後ろだ!」
美玲「ワーチャー!」

川上の腹を蹴る美玲。
悶える川上。

美玲「このゴロツキめ。許さんぜよ!」

川上の銃を蹴る。

富永「さ、さすが……」


○同・金庫室
田宮、扉を開ける。
大量の札束が置かれている。

田宮「うへへ、これで一生遊べるぜ!」

札束に抱きつく田宮。


○田宮たちの車・車内
裏通り。
運転席に座る三浦が、ラジオニュースを聞いている。
『速報です。南区山尾銀行で強盗事件発生』と伝えている。
三浦、トランシーバーに向かって

三浦「おい、そろそろ警察がくるぞ!」


○山尾銀行・店内
受付カウンターの上に座る美玲。
足をブラブラさせリラックス。
その下に隠れている塚田、そっと銃を取り出す。
トランシーバーから三浦の声が流れる。

富永「俺たちもそろそろ出るぞ」

裏口へ向かう富永。
受付カウンターの下から塚田が立ち上がる。
『キャー!』と銀行員たちの悲鳴。
塚田、美玲の背後から銃を頭に突きつける。
腕を美玲の首に回す。
塚田、富永に向かって

塚田「富永、久しぶりじゃねえか」
富永「塚田か」

舌打ちする富永。

塚田「さんざん悪さしてくれたな!」

暴れる美玲。

美玲「離せ!お前風呂入ってないだろ、臭う」
塚田「う、うるせえ!相棒ごとまとめて逮捕してやる」
富永「いやこいつは相棒じゃない」
塚田「しらばっくれるな!二人で強盗やったろ!」
美玲「あてえ、違うから!」

美玲の訛りを聞いて塚田

塚田「ふ、チャイニーズマフィアってわけか!」
美玲「台湾じゃ!」
塚田「さすがは世界を股にかける賞金ハンター。手段を選ばねえな!」
富永「だから違うって」

奥から女性の鳴き声が聞こえてくる。
若い女性銀行員が大声で泣き出す。
隣に座る支店長に抱きつく。

支店長「おい、ここ職場だぞ。やめろ!」
女性銀行員「最後くらいいいじゃない。どうせもう死ぬんだから」

泣き叫ぶ女性銀行員。

支店長「死なないから!大丈夫だよ!」
女性銀行員「不倫とかどうでもいいじゃない!」
支店長「おい、やめろ!」

大勢の視線を集める支店長。

女性銀行員「奥さんより好きなんでしょ?私が一番なんでしょ?」

泣いてマスカラが落ちている。
パンダ目の女性銀行員。

女性銀行員「最後くらい一番って言ってよお!」
支店長「もうお願いだから……」

呆れた様子の支店長。
白い目で見られている。
苛つく塚田。
支店長と女性銀行員に向かって

塚田「おい、お前らうるさいんだよ!」

塚田が目をそらした隙きに、肘打ちをする美玲。
悶える塚田。
銃を取り上げる美玲。
後頭部をチョップ。失神する塚田。
美玲、女性銀行員に向かって

美玲「あんた、妻子持ちの恋にマスカラは禁物だよ」

さらに泣く女性銀行員。


○同・表
複数のパトカーが銀行の前に停まる。
パトカーのサイレンが鳴り響く。


○田宮たちの車・車内
裏通り。
サイレンを聞いて焦る三浦。
トランシーバーに向かって

三浦「おい、まだか!もうやばいぞ!」


○山尾銀行・店内
美玲、富永に言う。

美玲「あてえ、そろそろ行くよ」

富永、神妙な面持ちで

富永「やっぱり、一緒に行かないか?俺らと」
美玲「……」
富永「三人で世界を転々としないか?」
美玲「……あてえは……やめとく」
富永「……そうか」
美玲「……一人が心地いいんじゃ。ずっと一人だったし」
富永「……わかった。じゃあまたどこかで」

走って裏口へ向かう美玲。
立ち止まり、振り返る。
富永に向かって

美玲「……悪くない悪党も、いるんじゃな」
富永「仲間は助け合うもんさ」

パトカーのサイレンが鳴り響く。
裏口へ走る美玲。


○同・表
機動隊が銀行前を包囲している。


○表通り
街中の雑踏に紛れる美玲。
足早に歩いていく。


○走る車・車内
富永と里子が話している。

里子「あの人はどうしたの?」
富永「一人でいるとさ」
里子「……そっか」

窓から外を見つめる富永。

里子「せっかく仲良くなれそうって思ったのに」


○山尾銀行・表
手錠をかけられた田宮、川上、三浦。
警官とともにパトカーに乗り込む。
新田川、塚田を見つけて言う。

新田川「お手柄じゃねえか、塚田!」
塚田「はい!しかしまたしても、富永を逃してしまいました……」
新田川「まあ、戦いは続くな」
塚田「次は相棒ごと逮捕してやりますよ!」

塚田の肩をポンと叩く新田川。


○新生ビルヂング・ユニオン工業・表
顔の堀が深い清掃服を着た中年男性。
玄関のチャイムを押す。
真希子がドアを開ける。

清掃員「あの、突然すみません、白石真希子さんは?」
真希子「わ、私ですけど……」
清掃員「あ、吉沢亮と竹中直人と真矢みきを足して3で割ったとお伝えすればわかると伺ったんですが……」
真希子「あ、間に合ってますんで……」

そっと扉を閉じる真希子。


○大通り
『便利屋てっちゃん』と描かれた車が、新生ビルヂングの前を走っていく。


○駅・ロッカー前
美玲、メモ書きを見ながらロッカーを解錠している。
中にはボストンバッグ。
開けるとたくさんの札束と、偽造された美玲のパスポートと手紙が。
手紙には『台湾で幸せになっておくんなまし』と書かれている。
手紙に涙がこぼれ落ちる。

美玲「帰ったって一人じゃ……冷酷男……」

泣きながらバッグを持って、改札に向かう。


○駅・改札前
改札の前で立ち止まる美玲。
時計を見つめる。
急いで引き返し、駅の外へ出る。
走って大通りへ向かう。


○大通り
美玲、手を上げてタクシーを拾う。
乗り込んで

美玲「豊海港へ。すっごい急ぎでお願いです!」


○高速道路
走るタクシー。
美玲を乗せている。
遠くには豊海港に停まる客船が見える。


○豊海港・客船ターミナル・チケット売り場
息を切らしながら、販売員に尋ねる美玲。

美玲「1枚、お願じゃ!」
販売員「あいにく満席となっておりまして……」
美玲「一人だけじゃ!」
販売員「そういうわけには……」

そこに杖をついた白髪の老人が通りかかる。
美玲に話しかける。

老人「お嬢ちゃん、また会ったね」
美玲「あ、あのときの」
老人「チケットかい?」
美玲「そう!持ってるんか?」
老人「親戚が倒れてしもうて、キャンセルしようと思ってたとこなんじゃ」
美玲「あてえ買います!いくらじゃろう?」
老人「お金はいらんよ」
美玲「え?」
老人「助けてくれたお礼じゃよ」
美玲「え!ありがとう!」
老人「こちらこそ。名前は……なんじゃったか」
美玲「美玲。台湾出身の!」
老人「そうだ、そうだ。じゃ、ボン・ボヤージュ、美玲さん」

チケットをもらう美玲。
走って乗り場へ向かう。


○同・同・乗り場
客船が出港の汽笛を鳴らしている。
美玲、大声で乗組員に言う。

美玲「ちょっと待っておくんなましー!」

息を切らし、入り口でチケットを渡す美玲。
急いで乗り込む。
ゆっくりと船が動き出す。


○客船・デッキ
海の上。
遠くに客船ターミナルが見える。
デッキで一人、周りを見回す美玲。
富永を探す。
乗組員が美玲に声をかける。

乗組員「すみません、江美玲様でしょうか?」
美玲「あ、はい」
乗組員「201号室のお客様からメッセージを預かっております」
美玲「え?」
乗組員「こちらをどうぞ」

美玲にメッセージカードを渡す乗組員。
カードを開くと
『仲間へようこそ。富永より』と書いてある。
振り向く美玲。
そこには杖を持った富永が。
白髪のかつらを脱ぎ捨てる。
その隣には微笑む里子。

富永「名前を明かすようじゃ、半人前だな」

美玲、走って富永に抱きつく。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?