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文福茶釜 黒川博行

素人をだますのは犯罪やけど、同業者をだましたら拍が付く

「あらすじ」
茶碗、茶釜、絵画、ブロンズ像などの骨董品をめぐる
だましだまされの人間模様。
登場する古美術に関する人々は
一癖も二癖もある面々。

美術雑誌「アートワース」の副編集長 佐保は
胡散臭い情報が入るたびに、金にならないかと
頭を働かせる、ちょっとずる賢い男。

佐保は上司菊池から
関西に本社を持つ一部上場企業の「星野産業」総務担当役員が
贋作家を紹介して欲しいという情報を得る。

星野産業は総会屋との手を切りたいがため
裏金が必要となった。
初代オーナーが所持していた絵画の贋作を作り
贋作を掴まされたと偽り、本物は画商に売って
二億の金を用立てたい。

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佐保は星野産業に足を運び、
現物の水墨画を見る。
贋作を作るために絵を借りる段取りまでつけた。

もちろん、素直に贋作を作るのではない。
京都の表具師、牧野を訪れ
水墨画を二枚に剥ぎ、上側の真本を市場に出して
下側の相剥本を売って牧野と折半しようと持ちかけた。

着々と準備を進めているさなか
星野産業の役員、工藤と連絡が取れなくなった。
直後、テレビで星野産業に商法違反容疑で
大阪地検特捜部と大阪府警が家宅捜索に入ったと知る佐保。

押収された段ボールの中には
佐保の名前が入った水墨画の預かり証がある。
相剥ぎしていることがバレたら…。
あわてて佐保は牧野に連絡をいれるのだが。

(注 : 表具師とは、掛け軸や額を作ったり、襖〔ふすま〕や屏風〔びょうぶ〕を仕立てたりする職人の事)

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「感想」

この本は地元の図書館のお正月企画
「だまされた !」というテーマの福袋に入っていた本です。

大阪在住なので、出てくる地名は
身近な所。
だまし合う、胡散臭い男たちの関西弁は
誇張している訳でもなく、ピッタリとハマっています。

私も大いに騙されました。
騙されて腹を立てている自分に気づき
黒川ワールドにすっかり引き込まれてしまっていました。

骨董品の世界は全く興味が無いので
こんなにも贋作が出回るのか…と
知らない世界を知るきっかけにもなりました。

某テレビ局の鑑定番組は
市場の価格よりも高く付けられる
ってなプチ情報も。
さすが関西在住の作家黒川さんやなぁ(笑)

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この本を読んで
関西人はこんな人ばっかりと思わないでくださいね(笑)

読んでいて中井貴一さんと佐々木蔵之介さんが主演の
「噓八百」を思い出しました。
これも贋作の茶碗が話なんですよね。

そして、この文章を書くのに調べてみると
文福茶釜も映画化されています。
佐保役に駿河太郎さん
菊池役に赤井英和さん
大阪の癖のある役者さんが演じています。
見てみたいなぁ~。

気持ちよく騙される本ですよ。

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264ページ
文春文庫
2002年5月10日初版
電子書籍あり

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著者 黒川博行
1949(昭和24)年、愛媛県生れ。
京都市立芸術大学卒業後、大阪の高校で美術の教鞭をとる。
「二度のお別れ」「雨に殺せば」でサントリーミステリー大賞佳作賞を連続受賞する。
1986年「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、
1996(平成8)年「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞を受賞。
2014(平成26)年『破門』で直木賞を、2020(令和2)年に日本ミステリー文学大賞を受賞した。
(新潮社プロフィールより引用)


著書
『疫病神』『国境』『悪果』『螻蛄』『後妻業』『泥濘』『桃源』『騙る』等多数

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