オキナワンロックドリフターvol.104

その夜はコザミュージックタウン音広場にて無料ライブが開催されていた。

Mr.スティービーさん 、沖縄在住のアメリカ人によるバンド“Shima guys”.....そして、トリは8-ball ではなくて、日曜の夜に7thにライブをやっているSunday night project。
レイ・レオン兄弟が8-ballとは別に組んだユニットだ。さて、どんなものかお手並み拝見。その前に音をいじっているレイさんにご挨拶。昨年、8-ballがm.o.v.eとのコラボしたシングルをリリースしたときに髪を短く切られていたのだが、その髪は元通りに伸びていた。
やはり彼の顔には長髪が似合うからそれを見たときはやはりレイさんは長髪のほうがいいなとひとり頷いた。
私に気づくとレイさんは無防備に微笑えまれた。それを見た時、やはり、育ちに裏打ちされた笑顔なのかもなあと私はレイさんの笑顔に目を細めた。

さて、 Sunday night projectの演奏やいかに?お、以前よりも声の伸びがいいというのが最初の印象だった。甘くて艶っぽいけどいささかかぼそいレイさんの声がしっかりしてきており、私は身を乗り出した。

レオンさんのドラムもスパイシーさを増している。しかし、とんがった音ではない、厚みもある小粋な音だ。8-ballとはまた違うその音をしっかり耳に焼きこんだ。もうコザに通うのは最後かもしれない。潮時だと思ったからである。私はこの旅を最後にコザに永遠に足を運ぶことはないと思っていた。レイさんとレオンさんと話をしても、ミュージックタウンの音広場にて行われていたライブを見ながら漠然とした寂寞感に苛まれてばかりだった。

私はついでだからと思いきって、パークアベニューにある、かつて喜屋武マリーと呼ばれた女性、マリーさんの店“Asian Rose”へと向かった。

初めて見るマリーさんは、タンクトップにジーンズというラフな格好にショールを羽織っただけの姿でも艶やかな美しい人だった。しかし、煙草を吸うピッチがやたら早く、煙草の吸殻がカウンターに置かれた灰皿が積まれており、それがやさぐれた印象を残した。

「いらっしゃい。もうちょっと早くきてたらよかったね。ライブ今終わったばかりだから」

んー。いきなりこれとは、接客は私も苦手だから人のことは言えない。しかし、これは落第レベルだ。しかし、彼女はお構い無しに煙草を吸われている。
せめてドリンクくらいはオーダーしようと私はカウンターの、息子さんだろうか、ジャン・クロード・ヴァンダムを思わせる風貌と容姿の男性バーテンダーにモスコミュールをオーダーした。バーテンダーは無造作にシェーカーを振る。
カクテルができるまでの間、マリーさんに話をし、サインを頂いた。私がぶしつけそうに(実際そうだが)話すからなのか、マリーさんの態度はめんどくさそうで私の自尊心はへこんだ。
さらに、マリーさんは常連客の方がこられるとうってかわって楽しそうに笑い、その常連の方が作られたお菓子を頬張られ、私は失礼ながら「この店、長くもたない」と毒を吐きそうになった。
しかも、モスコミュールは身震いするくらいまずく、私は代金を払うとさっさと店を出た。この店には二度と行くことはないなと思った。
さて、どうしようか。モスコミュールで悪酔いしたから少し歩こうかな?
もう見ることもないだろうからコザをゆっくり散歩しよう。でも、寒いなあ。
そう思って、早速、コートを取ろうとコザクラ荘に戻ると、ソバージュのふっくりした風貌の女性と遭遇した。
彼女はどことなく、美保純さんを思わせる風貌だった。(そのかたは後にさる方から「年を取ったちびまるこちゃん」と呼ばれているかなりのコザアッチャーだと判明した。以降、この方を「まるさん」と呼ぶことにする)
まるさんは私を見るなり握手をした。
「あなたもコザ好きな人ね!わかる。ねえ、よかったら私と話をしない?」 
コザクラ荘の居間でふたりのんびりと話をした。彼女はいくつなのだろう?肌は白玉のようにつやつやしているが、私よりは年上のはず。
ということで、恐る恐る年齢を尋ねると意外な年齢が返ってきて私は驚いた。想像以上に年上の女性だった。
   後退りする私を見て、まるさんはコロコロと笑っていた。そして、私のことを少し話すと「ジミー宜野座さんのこと書いてた人でしょ?」とにこにこ。驚いた。まるさんは私のホームページを知っていたのだ。
さらに彼女はこうおっしゃられた。
「すごくいい文章だったよ。特に入浴剤渡してしまって、ジミーさんにナンパされちゃうエピソードが好き」
彼女はそうまたコロコロと笑った。甘くハスキーな声だった。ダイレクトに好意的な感想をもらうのは初めてでとても嬉しかった。
ここ最近、今まで私が書きためていたオキナワンロック関連の文章に対して疑問や悩みが渦巻き、さらに追い打ちをかけるようなバッシングが続き、さらに、15日の出来事がとどめをさし、滅入っていたから、まるさんの感想には救われた。
支援してくれる人もいればアンチもいる。けれど、オンライン、オフライン共にかなりひしゃげてしまうことが立て続けに起きてしまい、この旅を最後にオキナワンロックを追うのをやめようかと悩んでいる最中での、意外な人からの意外な言葉。

そうか。私がこれまで歩いた5年間は不毛地帯ではなかったんだ。
足跡にはちゃんと花が咲いていたんだ。
来月から私は9年遅れの大学生だ。学生生活が軌道に乗るまではコザやオキナワンミュージックとは少し距離をおくことになるだろう。しかし、完全にやめるということは当分ないだろうなと私は苦笑した。突っ走り、泣いて笑ってぶつかったあの5年間にささやかながらも結果が生まれたのだから。
私はまるさんに一礼すると、また夜のコザの街に出た。
もう一度、レイさんとレオンさんに会おうかなとなんとなく思った。
すると、4年前のレイさんの笑顔が脳裏を過った。

「僕の花がこれから開くの?」

4年前の夏、8 8 Rock day。New紫のライブに落胆したが、唯一、レイさんのベースの音に救われ、レイさんのベースを手放しで褒めるとレイさんはそう語って手を花の形にして微笑まれた。その笑顔も大輪の花がほころぶような鮮やかさだった。
それ以来、私はレイさんの活躍を願っていた。
最初はジョージさんの息子というポジションでしか見ていなかったレイさんの活躍をいつの間にか追うようになった。
しばらくコザをうろついた後、ミュージックタウンでのSunday Night Projectでの音が後を引いたので、せっかくだからと7thにて8-ballのライブを見にいくことに決めた。
8-ballについて。以前の音は正直な話、あんまり好きではなかった。うまいけれど、私には合わない。少しは聴くけど毎日聴くにはしんどい。そんな音だった。ひさびさの8-ballはどんなものかと期待と不安の半々で行ったら、店に入るなり花さんに遭遇した。しまった!
しかも、花さんはかなりの赤ら顔だ。かなり泥酔している。さっそく「まぁぃきぃ~」と絡みだす。嫌な予感しかない。酔いどれ顔で抱きつく花さん越しに8-ballの演奏を見ることにした。花さんは私に絡み付き、さながら白いアスパラガスに巻き付かれている気分になった。

偏見と先入観をこそぎとって、目を閉じていざライブ観賞だ。

やはり、メジャーデビューによるさまざまな経験をつんだからだろう。8-ballの音は格段にその厚みと雄々しさを増していた。彼らがそれにより、得たもの、失ったものは私にはわからない。しかし彼らの音は以前よりも魅せられる音をしていた。レオンさんのピリ辛なドラムも、クリスさんの相変わらず音数は多いものの華のあるベースも、レイさんの以前よりも余裕を感じる歌声も。特にレイさんが余裕たっぷりにデスボイスを出したときには驚嘆した。
白眉は、圭一さんのギターだ。うまいけれど感情がない。はじめに圭一さんのギターを聴いたときにはそんな印象しかなかった。
圭一さんの音楽のジャンルとは違うアーティストのサポートのお仕事をされている圭一さん。その仕事がいい意味で変化を与えたのかもしれない。表現力が飛躍的に伸びていた。

ああ、こういう音にめぐり合えるからコザアッチャーはやめられない。
こういう音があるからオキナワンロックを好きでいられる。乾杯。その音に敬服し、オーダーしたミネラルウォーターを掲げた。
演奏後、泥酔した花さんが寝ているのでどうにか蛇のように巻き付いている花さんの腕を解いて、レイさんに近づいた。そして、今回の旅の戦利品であるオリジナル紫メンバーのサインが書かれたレコードを見せた。 すると、レイさんは目を見開き、「負けた! 俊雄おじさんからもらったらぼくもコンプなのに」と悔しがられた。
「いいでしょー」
照れ隠しで、不遜にも、レイさんに思い切り憎たらしく言ってみた。
そして、レイさんと少し話をした。
今となってはかなり虚しいが、当時のレイさんは年々少なくなるコザの街という名のパイをいかでかして大きくしようと模索していた。それを語るレイさんの横顔が忘れられない。
  私はレイさんにお礼を言うと、7thを去り、夜の散歩を再開した。

パークアベニューを歩いていたら、意外な方と遭遇した。元アイランドのメンバーのツグアツさんこと當間嗣篤さんだ。ご自身が営むドラムスクールの生徒さんを送っている最中だったのだ。目の前のツグアツさんはなかなかの男前で、私はあたふたした。

「は、はじめまして!ツグアツさん!」

私は、偶然とはいえ、初めて会えたアイランドの元メンバーを目の前にしたせいか、すっかり挙動不審だった。
ツグアツさんは「はじめまして。俺を知っているんだね」と返された。
  私はすっかりテンパってしまい、コンビニで買い、手をつけずにバッグの中に入れていたままにしたペットボトルのさんぴん茶とお菓子をツグアツさんに手渡した。明らかに危ない人である。
   しかし、ツグアツさんは「ありがとう!」と返され、握手をしてくださった。少しゴツゴツしたドラマーならではの手だった。
    まるさんの言葉と、最後の最後のサプライズであるツグアツさんとのつかの間の交流が私の気持ちを軽くしたからなのかもしれない。その夜はジミーさんの夢を見た。

ジミーさんは、夢の中、今のゲート通りの静まりの中で路地裏に座ってぽつんと明かりの消えた通りを眺めていた。傍らには相変わらず、ビールの缶が散らばっていた。私に気づくと、ジミーさんは、はにかむような困ったような顔で笑った。そして手を振るとまたいずこへと去っていく。そんな夢を見た。

ジミーさんに会いたいと思っていたからその夢は優しく、心地よい目覚めへと誘ってくれた。

翌朝、ちょうど目を覚ました時、まるさんとばったり会った。既に彼女は身支度をしていた。離島に行くので早くチェックアウトするらしい。
少し時間があるからと私とまるさんは話をした。その際に、まるさんはうちのオキナワンロックコンテンツのメインである城間兄弟のことを尋ねられた。
まるさんから、地元の人ですらあの二人がまだ塀の中にいると信じている人がいることを聞かされかなり驚き、悲しさとやりきれなさに笑うしかなかった。
さらに噂だけが先行していることにも寂しさが募った二人のしたことを思えばしかたないかもしれないけど、彼らを好きな者としては悲しかった。
落胆をどうにか抑えて私の視点で見聞きした彼らの近況をまるさんに知ってる限り話した。
彼らの今までや、出会ったときのことも、可能性は低いけれど0ではない復活のチャンスも。
その日がくるまではサイトを閉められない。
そう語ったときに見た彼女の瞳はまっすくだった。そして、まるさんは私の手を強く握り、こうおっしゃった。

「文章書くのをやめちゃだめよ。きっとあなたの文章は誰かの道標になるから」

まるさんは離島に行くということで、早々とチェックアウトされ、朝靄のコザの街を去られた。私はキャリーバッグを引きずりながら去るまるさんの背中を見送った。
あれから、まるさんには会っていない。お元気だろうか?いまだにコザに通われているのだろうか?

まるさんのふっくりした笑顔と甘くハスキーな歌うような声を思い出す。

(オキナワンロックドリフターvol.105へ続く)

(文責・コサイミキ)

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