マンソンファミリー悪魔に捧げたわたしの22ヵ月を読んでみた。

2019年は、クエンティン・タランティーノ監督作、『ワンスアポンアタイムインハリウッド』を見て、すっかりはまった一年となり、以来、好きが高じて色んな調べものをするようになりました。
さらにマンソンファミリーについても調べるようになり、某フリマサイトでこの本が格安で出品されていたので注文。
読みましたが、かなり堪える本でした。
著者のダイアン・レイクは、家庭を維持する責任から逃れた夢見がちで行き当たりばったりな父親と流されやすい母親が家庭を放棄したことと、幼少時に祖父から手を使った性的な虐待を受けたことで基盤が形成されず、拠り所を探していた。そんな中、ヒッピーの少女たちが集団でたむろするバスに乗ったことであれよあれよとチャールズ・マンソンをリーダーとするコミューンの一員になってしまう。
最初はその擬似家族的な温もりに安らぎを見いだしたものの、マンソンの自己顕示欲と身勝手な思いつきにより、時にはマンソンや彼の支援者に身体をもてあそばれ、少し他より反応が鈍ったり、とろい行動をした途端に体罰を受け、ダイアンを含むファミリーの一員はマンソンの一挙一動に翻弄されてしまうという内容。
かなり、きついです。もし、あなたが支配型の毒親、クラスを自分の王国だと勘違いしている教師、パワハラ上司と無関心な職場の同僚、DVないしモラハラ傾向の強いパートナーに傷つけられた過去があるならば、95パーセントの確率でフラッシュバックを起こします。読む人は心して読んでください。私は読んで具合が悪くなりました。
ダイアンがマンソンの咄嗟に思い付いた無茶なルールについていけず、痛め付けられるくだりは、父親や小学校高学年の頃の担任が私にして自尊心を砕いた仕打ちを思い出し、マンソンがまだ年端のいかないダイアンにハードな性的行為を要求するくだりは、既に成人はしていたものの、モラハラ気質なかつてのボーイフレンドが付き合っていた時に私にした仕打ちと重なり、読んで嘔吐しました。
しかし、ダイアンの元来の聡明さと心の片隅に残っていた猜疑心のお陰か、不幸中の幸いなことにマンソンはダイアンを冷遇しだしたので、ダイアンはマンソンが育成した殺人部隊・クリーピークロウリーから外されます。さらに、酷くなる環境に疲弊し、偶然見つけた灌漑用の水路でぼろぼろの状態で水浴びしていたのを市井の人に発見されて保護されたことが幸いし、ダイアンはゲイリー・ヒンマン殺害事件や、後にテート・ラビアンカ事件と称される、シャロン・テート殺害事件、ラビアンカ夫妻殺害事件に関与せずに済みました。
その後、マンソンファミリーは砂漠に逃げたのですが、警察に一斉検挙されてマンソンファミリーは瓦解します。ダイアンは未成年ということが判明し、保護され、薬物中毒からの更正を主とした病院での治療、愛情深く優しい養父母に引き取られたことで、自分の人生を取り戻しつつあったものの、マンソンの公判が近づくにつれ、マスコミにより、ダイアンがマンソンファミリーの一員だったことが暴かれて、平穏な生活が荒らされてしまいます。
そのくだりは、どこの国もマスコミや野次馬みたいな人たちは……と憤りを感じます。
しかし、公判で証人になることを決意したダイアンの姿を法廷にて見つけたマンソンやかつての仲間たちが彼女を嘲ったり、せせら笑うことで動揺させ、裁判を有利にさせようとするところに寒気がすると同時に、それをきっかけにマンソンファミリーによるマインドコントロールが解除され、マンソンが脅威ではなく、自己顕示欲が強い小男に見えていくさまはダイアンに喝采をあげたくなります。
その後のダイアンは、成長されたお子さんに、かつてマンソンファミリーにいたとカミングアウトしたり、苦楽を共にした旦那様と死別されたりと色々あったようですが今は穏やかな幸せの中にいることでほっとしています。
そして、個人的な感想ですが、マンソンファミリーというとシャロン・テート事件ばかりクローズアップされますが、この本は、どのようにチャーリー・マンソンがデニス・ウィルソンやテリー・メルチャーと出会い、繋がりを持ち、どのようにして彼らにカットアウトされたのかがわかり、ビーチ・ボーイズのファンの方にはある意味お薦めです。
少なくともダイアンの視点ではありますが、デニス・ウィルソンは、ドラッグへの逃避はともかく、性的なことに関してはきちんとした分別のある大人で、繊細で優しい人として書かれているからです。
あと、なかなかテート・ラビアンカ事件に埋もれがちなゲイリー・ヒンマン殺害事件の被害者であるゲイリー・ヒンマンの生前についてもしっかり書かれており、マンソンの気まぐれかつ冷淡な仕打ちや性的虐待に傷ついたダイアンに対し、ゲイリーがいかに親切に寄り添っていたかがわかり、なかなかマンソンファミリーの関連書では書かれない「生きているゲイリー・ヒンマン」を垣間見ることができます。

そして、カルトや高圧的な人たちに苦しめられた人には救いのヒントを、そして今苦しんでいる人にはどうやって抜け出し、自分を取り戻していくかのサバイバル法を学べる本でもあるのです。 

(文責・コサイミキ)

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