オキナワンロックドリフターvol.96

寒さから早めに眠りについたものの、やはり俊雄さんとコーキー夫妻の一件を引きずり、眠りは浅く、身体もだるく、微熱がした。
しかし、今日は久住さんとのランチ、スティービーさんの読み聞かせライブがある。ノロノロと起きて顔を洗おうとして水道の蛇口を捻ると水が赤茶けていた。
仕方ないので洗顔シートで顔を拭き、だらだらと着替えて街を歩いた。
コザの街は『アノコザ』というアートイベントが行われ、街のあちらこちらにイベントのイメージカラーである黄緑色が散らばっていた。
しかし、疲弊して疲れた心模様を差し引いても、イベントに魅せるものがなく、ごく一部を除いて、自称アーティストたちの自己満足の塊を見せつけられているような気がして辟易した。
唯一惹かれたのは、ミュージックタウンにて展示されたオキナワンロッカーの写真展である。
那覇でベンチャーズのカバーを披露したオキナワンロックの創生者たちの写真、まるでグループサウンズのような髪型や衣装のオキナワンロッカーたち。
その中に俊雄さんの写真があり、私は居たたまれない気持ちで写真を見つめた。
「あっれー?あんた、この間会った人?」
やたら大きい声で尋ねられて、びくっ!と身体が震えた。見ると、背の高い、シンディ・ローパーを思わせる派手な服装をした女性が仁王立ちしている。花さんだ。
「あなたオキナワンロック好きなんだねー」
私はいきなりこれかよと思いながらとはいと即答した。
すると、花さんは「他にも色々あるよ、案内しようか?」と私の腕をひっぱりはじめた。え、なんで?これが見たいんですけど!
しかし、ちょうどいいときに携帯にメールがきた。久住さんだ。
「ちょっと失礼!着信がありましたので」
私は花さんの手を努力しつつ極力やんわり振りほどき、すたこら逃げた。
どうにかミュージックタウン内にあるサーティワンアイスクリーム近くまで逃げ、久住さんに連絡した。
久住さんはもう近くまで来ているという。久住さんから待ち合わせを指定されたので、私はミュージックタウンのゲート通り沿いにいることを告げた。
久住さんは数分後に到着。久住さんは中背中肉の温和な男性だった。
私は久住さんに一礼した。
久住さんの車に乗り込み、いざお昼を。と、その時、車検は絶対に通らない、今にも故障しそうなおんぼろ車が横ぎった。
おんぼろ車が停められ、運転手が出てくると、私はぎょっとした。なんと、かっちゃんこと川満勝弘氏ではないか。
かっちゃんは素肌にサイズが大きく穴だらけの白いシャツを着ていたのだが、それが以前より痩せた身体と相まって行者か流離う老いた旅人のように何故か神々しさすらあったのを覚えている。
私はぽつんと呟いた。
「痩せたなあ、かっちゃん」
私のその言葉に久住さんは返された。
「だね。かっちゃん、最近は酒でカロリーとってるような状態だから」と。
その言葉に私は久住さんをじっと見た。
「今、ジャックナスティーズ、いつ潰れてもおかしくない状況だからね。かっちゃん、そのうち店で寝泊まりするかもしれない」
久住さんは大きくため息をつかれた。
やはりか。2004年、ゲート通りで遭遇したかっちゃんの荒れた様子を思い出した。
車は発進し、久住さんはカーステレオのスイッチを入れた。
カーステレオに挿されたUSBから曲を選び、ネーネーズにした。
初代ネーネーズの澄んだユニゾンが14日から色々と目まぐるしく、それに翻弄された心をかなり和らげてくれた。
ランチは嘉手納にある海が見えるそば家に決まった。名前だけは知っていたが、店の外観は沖縄そば屋というよりサーフショップか海辺の喫茶店といった印象で、頭の中の情報が追い付かず、パニックになったのを覚えている。
「見た目びっくりしたでしょ?店内もカフェっぽいよ。でも、そばの味はお勧め。ミキさんはタコスはよく食べるみたいだけれどそばはあまり食べないみたいだね?」
久住さんに言われて確かにそうだなと思った。
「ようこそ、そばじょーぐーの道へ」
久住さんはそう微笑むとメニューを手渡された。
私は、荒れた肌にコラーゲンがいいかもと思い、軟骨ソーキそばを、久住さんは肉は赤肉で沖縄そばにした。
運ばれてきたそばを食べながら、久住さんとゆんたくした。
そばは美味しかった。よく煮込まれた軟骨ソーキのとろとろ感、出汁の旨味、そばの歯ごたえと喉ごし。
誂えたように好みの味で、やっと食事をおいしく味わえた。満足そうに食べる私を見て苦笑いしながら久住さんは、現在進めているお仕事の話をされた。秋に放送予定の沖縄ご当地ヒーローを手掛けている最中だという。
「超神ネイガーみたいなものですか?」
私が尋ねると、久住さんはにっと微笑まれた。
「そう、やっぱりミキさんは特撮詳しいね。ネイガーのスタッフも関わってるんだよ。こっちは、琉神マブヤーって名前だけれどね」
久住さんは、そのご当地ヒーローの写真を見せてくださった。
最初に見た印象は、百獣戦隊ガオレンジャーをごてごて飾り付けたみたいな造形のヒーローだなというのが本音。
しかし、久住さんはプロジェクトを始めたばかりのこの当地ヒーローのコンセプトを熱く語られた。
武器は使わないのというのが、強気だ。
武器を使うヒーローにすれば、本土のおもちゃメーカー等のスポンサーがつく。しかし、武器を使わずに、戦うと言うより敵にお灸をすえるヒーローというのが沖縄ならではのヒーローだからと久住さんは目を輝かせながら語られた。
さらに、秋田のご当地ヒーロー『超神ネイガー』の主題歌はアニメ・特撮ソング界の重鎮である水木一郎氏が唄われているのだが、久住さんはマブヤーの主題歌は沖縄のミュージシャンに唄わせたいと話され、私たちは誰がいいかなとあれこれ考えていた。
と、そんな時。電話が鳴った。私の携帯からだ。
見ると、着信は正男さんからだった。久住さんに、「失礼!」と言いつつ、私は電話に出た。
正男さんの心配そうな声が電話から聞こえた。
「まいきー、あれから、ちゃんと寝られた?今、どこにいるの?良かったら僕とお昼でもどうね?」
しまった。正男さんが誘ってくれたのに。しかし、今は久住さんと嘉手納でランチだ。
私は申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら返した。
「ごめんなさい。今、友人と食事に行ってまして、嘉手納なのですよ」
正男さんは「そっか。友達と食事できているのなら何より。昨日のまいきーの取り乱しぶりが痛々しくてずっと気になっていたからよ。心配になって。よかった。じゃあ、月曜日にまた電話して。会食の打ち合わせしよう」と、安心された声で電話を切られた。
久住さんから「誰から?」と尋ねられたので「正男さんから」と返した。久住さんはSNSでの私の日記から、私が城間兄弟と連絡を取り合っているのを知っているからだ。
「城間兄弟とやり取りを続けているってすごいね。大変だったでしょう?」
久住さんにそう問われて私は正直に答えながらもきっぱり言った。
「悲しいことに、それでも好きなんですよ。もう病の域ですよね」
その返答に、久住さんはこう返された。
「それがミキさんだからね。仕方ない」
有無を言わさぬ返答に、苦笑いしていると久住さんからもう一度メニューを渡された。
「まだ話を続けたいから氷ぜんざい頼もうか?氷ぜんざいおいしいよ」
久住さんお勧めの氷ぜんざいを追加オーダーした。
私たちは金時豆がふっくら煮られ、練乳がちょうどいい匙加減でかけられた氷ぜんざいを食べながら、マブヤーについての話をじっくりした。
さて。2008年秋にスタートした琉神マブヤーは、ご存知のとおり、ご当地ヒーローとしては異例のメガヒットとなった。しかし、いいことだけではなく、それにより、沖縄、そして、ヒーローものジャンルにとって功罪相半ばするのだが、それはまた別の話。

(オキナワンロックドリフターvol.97へ続く……)

(文責・コサイミキ)

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