『Aサイン物語』(初演版)を今さらながら観賞してみた。

オキナワンロックと関わってもうすぐ20年になります。
いろいろありすぎました。いろいろ……。
さて、一度は観たものの、当時は俊雄さんの逝去等立て続けにふさぎこむことがあり、オキナワンロックやコザについて見るのも嫌になって手放したオキナワンロックミュージカル『Aサイン物語』の初演版が無性に観たくなり、メルカリやラクマ、ヤフオク等にないかチェックしていました。

なんと!しかも、2011年4月に上演された再演版のDVDまでということで即決購入。
DVDが届いた日はちょうど仕事が休み、しかも台風で身動きできなかったから自宅で観賞することに。さて、久々に見る『Aサイン物語』初演版はいかに?



このミュージカルは1960年代のオキナワンロック全盛期から現在(2010年)の今はかつての栄華の面影はなく、素通りの街と揶揄されるようになったコザの推移を描いています。
物語の狂言回しかつナビゲーター的役割を担う役であるバンドボーイのキー坊を演じられているのは司会業として活躍されている梅田潤さん。正直、この方の台詞回しの巧みさがなければこのミュージカルはちんけな歌謡ショーでしかなかったです。暴言覚悟ですが梅田さんがいたからかろうじて観られました。
一幕は演者によって演技力等の触れ幅がありすぎるのがあからさまで頭を抱える程。元来の生真面目さから演技をきちんとされているコーチャンやがめついクラブママを熱演されたジャズシンガーのルミさん、MCやDJで鍛えられた声量とパフォーマンスで魅了するマスミ・ロドリゲスさんは申し分ないけれど他ミュージシャンの台詞がぼそぼそして聞き取れず、生の舞台でこれなら致命的。
第二幕はキー坊やバンドマン、店の一番の若手ホステスがコザで一番賑わっているクラブチャンピオンに敵情視察するシーンがあるものの、ここでも演者の歌唱力に隔たりが。
当時はプラザハウスの企画部長、今は浦添市の唐真コンサルタントの企画部長をされておられる、フィリピン人プロモーター役のジュン・パンギリーナン氏と名前は失念しましたがアフリカ系アメリカ人のミュージシャンの方による見事な"What a wonderful world"にうっとりしたのもつかの間、かっちゃんが割り込んで唄うシーンがあるけれどはっきり言って蛇足でしかなかったです。2004年あたりからかっちゃんのステージングの劣化が囁かれていましたが映像で見ると痛々しい程。特に冒頭のかっちゃん登場シーンではかっちゃんが転倒するアクシデントがあり、見ているこちらは肝が冷えてしまいます。あと、コーチャンが「朝日の当たる家」を弾き語りするシーンがありますが、厳つい顔に反比例した甘く優しい歌声は衰えていないものの、動作やドラミングの緩慢さや落ちた声量に、後の癌再発による闘病と2016年の逝去を予期させるものがあり、胸が痛くなります。
ルミさんによるソウルフルな「男が女を愛するとき」やマスミ・ロドリゲスさんによる歌唱力はやや粗めなもののパフォーマンスの華やかさで魅せる「あなただけを」はなかなか聴かせるものがありますが、ミュージシャンによって優劣の差が顕著過ぎるのはどうかと。
そしてエピローグになる、現在のコザを描いた第四幕。沖縄を離れて内地に帰り、携帯の営業マンとして再び来コザしたキー坊とクライアントとして再会したかつてのフィリピン人プロモーターとの会話のくだりはメタ発言通り越してコザとオキナワンロックミュージシャンの困窮ぶりを生々しく描いていてやめてくれー!と頭を抱えたくなる程。でも事実なのがなあ。そこまではよかったものの、新しいコザのロックとして期待できるバンドを紹介するシーンははっきり言ってステマ乙としか言い様のない恥ずかしさ。
さらにそのバンドがデスメタル+スラッシュメタル寄りの音楽性なのでオーディエンス、特に中高年層置き去りにしまくり。音楽だけ披露していればよかったものの、そのバンドのボーカルのMCの自己陶酔炸裂さがやたら鼻についてお寒いことに。
「君は葉っぱかキノコでもやっているのか?」とアジテーションさながらのMCを披露するボーカルの頭をはたきたくなったとはしたなくも毒を吐かせていただきます。
しかも、ステマ演出はこれだけでは終わらず、新生コンディショングリーンの御披露目がクライマックスなのも疲労感でため息が出るほど。しかも、その新生コンディショングリーンが有耶無耶なまま空中分解したのも疲れを倍増させます。
シンキさんのギターのいぶし銀の音色は健在ですし、若手である前濱吉郎さんのギターもラフではあるけれどブルージーな中に熱さがあり、また聴きたくなる力があります。
が!それをぶち壊しているのはフィナーレでこのミュージカルの総合プロデューサーである某オキナワンロックの重鎮氏を真ん中にして演者全員で合唱する"Born to be wild"。
なんだろう。バカ正直に書かせてもらうと恥ずかしい!
アットホームをアピールしているブラック企業の宴会にうっかり紛れ込んだか、ゲストがいまいちな時の『ザ・夜もヒッパレ!』の収録を目の当たりにしたような居心地の悪さ。

あなたたちは楽しいだろうけれどと……ともしリアルタイムで生の舞台で観ていたらオキナワンロックの未来についてはノーフューチャーだなと遠い目をしながら夜空を見上げて呆れていただろうなと思わずにいられないそんなミュージカルというより芝居を少し交えた歌謡ショーでした。


(『Aサイン物語』(再演版)レビューに続く)

文責・コサイミキ

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