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自作小説

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noteで書いている小説。主に、コンテストや企画への参加用です。
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2023年7月の記事一覧

勇気と無謀の違いは神様も教えてくれなかった (11)

 ヴォルダは急にしゃがみこんだ。彼の作り物めいた笑顔が近づいてきた。 「科学者としては、理屈で割り切れないものを信じたくはないのだが……村の教会であなたの起こした奇跡には感心しました。すばらしい力だ。その力を、私と工房のために役立ててくださる気はありませんか? 例えば、〈生命の欠片〉を長い間服用して弱った職人を、神の御業で元の体に戻してやるとか……報酬は思いのままですぞ」 「! ……あなたのような罪人に加担するつもりはありません!」 「断れる立場だと思っておられるのですか?

勇気と無謀の違いは神様も教えてくれなかった (10)

 数刻後。ヴォルダと別れた僕らは工房の中庭に立っていた。  外からは巨大な直方体に見えた工房の建物だが、実際は中庭を囲むコの字型をしていることがわかった。中庭は咲き乱れる色とりどりの花に埋めつくされ、殺風景ともいえる工房の外見からは想像もできない華やかさだ。  工房の建物の、コの字の開口部を塞ぐようにして、住み込み職人の宿舎らしい建物とひどく古そうな石造りの建物が一列に並んで建っていた。  花畑の織りなす明るい色彩模様の中で、ロランが僕を振り返った。 「ここからは別行動

勇気と無謀の違いは神様も教えてくれなかった (9)

 それから数刻もしないうちに、僕らは町外れを歩いていた。タクマイン家の前を通り過ぎると、家並みが途切れた。目の前にだだっ広い平原が広がる。  少し離れたところに、巨大な建物がそびえ立っていた。  それは、タクマインがかつて勤めていたガラス工房だ。  ロランはガラス工房の経営者に話を聞きに行くつもりなのだ。 「おまえ、オーランド・ヴォルダのことをどれぐらい知ってる?」  いきなりロランにそう尋ねられ、僕はとまどった。 「ヴォルダ? ……誰だい、それ?」 「このぼんくら