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自作小説

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noteで書いている小説。主に、コンテストや企画への参加用です。
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2023年6月の記事一覧

勇気と無謀の違いは神様も教えてくれなかった (8)

 僕は夜明け前に宿屋を出た。日の出と同時に教会で朝のお勤めをし、掃除をした。  箒を動かしながらも、頭の中はミレイユとタクマインのことでいっぱいだった。  どうすればあの人たちに助かってもらえるだろう。あの人たちのために、僕には何ができるのだろうか。  タクマインの不調の原因は明らかになった。それをやり過ごすための薬を、医師が処方してくれた。あとはたぶん、時が解決してくれる。  本当ならタクマインに〈癒し〉を受けてもらいたい。  ミレイユとタクマインの心が少しでも神に向

勇気と無謀の違いは神様も教えてくれなかった (7)

「毎晩寝る前に、夫にこれを飲ませなさい」  ゼフォン博士はミレイユに器を持ってこさせ、瓶からつまみ出した白い小さな丸薬を一つ一つ数えながら入れた。博士の眼鏡がランプの灯を受けてぎらりと光った。 「最高に強力な眠り薬だ。これを飲んでおけば少々の痛みでは目は覚めん。……『禁断症状』から逃れることはできんが、症状が収まるまでの期間を、なんとかごまかしながら乗り切ることはできるだろう。わしにできるのはここまでだ」  ミレイユは神妙な表情でうなずいた。  彼女に見送られて、僕ら

勇気と無謀の違いは神様も教えてくれなかった (6)

 僕は寝室で聖句を唱えて守護天使バクティを具現化し、癒しを行った。男の血まみれの後頭部とミレイユの背中の傷はすぐに治った。  眠っている男を起こさないようにと、僕らは寝室の隣の居間へ移動した。ミレイユがランプを点すと、質の良い調度品でととのえられた室内の様子が浮かび上がった。  僕には、彼女に言わなければならないことがあった。部屋が完全に明るくなるのも待ちきれず、声を張り上げていた。 「申し訳ありません! 玄関のドアを壊してしまいました! 明日必ず修理に来ますので、どうか