こわいゆめをみせて 『暁に-Till Dawn』展感想

怖い話が大好きで、怖いテレビがきらいだ。好奇心だけはたっぷりなのに、視覚的にわかりやすく訴えかけてくるのは覿面に怖い。悪夢になりそうな。

中川多理さんの人形展に行ってきた。長いステイホームの夜をこじ開けられた格好で、当初WEBサイトで行われた展示を直に見られることが嬉しいやら、コロナの云々が不安やらで行ってきた。

中川さんのお人形は少しこわくて、構えないと飛び込めないふかいふかい海だ。

久しぶりの浅草橋の街は少しだけ静かで、私はやっぱり道に迷った。この角を曲がったらあの円窓、と思って赴くのだけど、何でだか、だいたい少し前で曲がってしまう。

受付のある二階にいたのは今回のメインであろう、高岳親王航海記をモチーフとした2体と、ギャラリー蔵の過去作の子たち。原作の本も買ってわくわく読み、毎日WEB展示を散々食い入るように眺めていたせいか、自分の中で理想の展示風景が出来上がってしまっており、少しくのっぺりした顔で2階の展示を眺めていたように思う。作者との解釈違い、って同人界隈でよく聞くけれどもそういうことかしら。

もう死にそうな、すごく静かな親王だった。

春丸ちゃんのお乳が片方、玉ねぎのような球体関節で、なんとも気になっていたのだけれど、帳の降りた中にいた彼女にはあまり近づけなくて残念だった。

一階の一部屋にはヴァンパイアたち。

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お人形の写真をとってはいけなかったのでそれはぜひWEBサイトをみていただきたいのだけれど、お人形の細部が見える前にぐっと掴まれた。枯れ葉混じりの添花の迫力もすごくて。

ドラキュラの花嫁ルーシーの目に惹かれた。ほとんど白のような薄い青に赤い虹彩線が滲んで。もう戻ってこられないひとの目!ご自分でグラスアイまで作られるらしい、そんなの世界を作れるのとほとんど一緒じゃないか。なんて楽しそうなんだろう。開き目のヴァンピールの黄色がかった目も物凄い。焼き物のような油絵のような不思議な色で、この世のものでないのにじっとりと湿り気を感じる。正直目だけ(でも)欲しい。

そして伯爵はなんと裸足なの、節の立った足のエロティックさに、みてはいけないものを見た気持ち。

1階のもう一つの部屋にいた『兎の胞衣を被る子』たちのひとむれが、このたび一番好きな組み合わせだった。足や腕のかけた子が、柔らかそうな布に包まれ毛糸で縛られている。この布が胞衣だろうか。

中川さんが参考にしたという本も借りて読んだ。海鳴社の『胞衣の生命』。

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胞衣は生き返ってきて産婦の命を奪うこともある、という伝承が載っていた。この柔らかい灰色とピンクが、よみがえることもあるのだろうか。いつもなら悍しく痛ましい男性器すら、半透明のつららのようで涼やかに美しい。


パラボリカ・ビスさんはこの展示で最後、閉館されるらしい。

名残を惜しんでいる方がTwitter上にもたくさんいらして、そこに名前を連ねるには私はあんまりにも浅い。通い始めてまだ1年もないし、その間に逃した展示もいくつもある。

それでも去年の夏の展示は流れない強い針として私に刺さっているのはたしかだ。やっぱり中川多理さんの人形展『小鳥たち』の記憶。あの日、透明な窓の外はうだるように暑かった。セブンイレブンで買ったほうじ茶のペットボトルを握りしめていた私は、水滴が落ちそうで慌ててリュックサックにしまった。小鳥の冷たいような肌に触れてみたかった。

きっといつかあの肌に触れられる人になろうと思った。このたびも、そう思った。


毎日つけている手帳のその日。絵心も批評心もないひどい帳面だけれど、ここに行ったこと会えたことを忘れないように祈りとして。

高岳親王は小説の中で幾度となく夢を見て、最後は夢のように虎にくわれてしまう。天竺への夢がかれの夢ならば、私の夢は人形への夢であってほしい。悲しいかな、あまりそんな夢は見ないけど。

悪夢でもいいから、冷たい肌のかれらに何度でもまた会えますように。

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追記

兎の胞衣の子たちについて、ききかじりで新作ではないと書いてしまいましたが、ただしくは新作だそうです。


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と、ご本人からご訂正いただいてしまい…修正しました。不確かなことを申し訳ありません。後追いなのだからよく調べなくてはならない、気をつけてゆきます。


そしてエゴサーチお早い!リプライ嬉しい!ふうー!!


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