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架空小説書き出しまとめ②

・なにもかもあべこべ。右も左も上も下も、全部ぐちゃぐちゃになった世界で、あの子だけが真っ直ぐ立っていた。
もう顔も覚えていないあの子にどうしても会いたくて、私はいろんな方法で夢を見た。紛れもない私の初恋である。
『ウタカタ』より

・彼女が最初にこの橋を渡った時、その瞳は希望に満ちていて、少しの不安さえも気持ちを高揚させる材料となった。
次に彼女がこの橋を渡った時、かつてあった希望は形を変え、その瞳に色濃く影を落としていた。
『潮騒』より


・あ、と気づいた時にはもう遅かった。私の身体はなんの抵抗もなく水底に沈んだ。
静かになった水面には、歪んだように笑う金色の鯉が優雅に泳ぐ姿が映し出されるのみであった。
『水底より愛を込めて』より


・あの日が落ちたら、もう終わりにしよう。
ここに来た時はまだ日はまだ高かった。いつまでも鳴らない携帯電話を、それでもまだもしかしたらと淡い期待を持って握りしめる。
これが俺の人生最後のチャンスだったのだ。
『ホップ・ステップ・チャンス』より


・見たこともない鳥だった。
最寄り駅までの道、いつも渡る橋の上から見えた生き物から目を逸らせなかった。
あれは何処から来て、何処へ向かうのだろう。
気づけば足は違う方向を向いていた。元気だけが取り柄の私が学校を休んだのはこの日が初めてだった。
『空の帝国』より


・木は見ていた。その国の始まりを。小さな集落が大国になっていく様を。
木は見ていた。その国の終わりを。戦によって人々が殺し合い、そして滅んでいく様を。
木は見ていた。これまでの全てを。
しかし木は話さない。ただ黙してそこにあるだけである。
『興亡』より


・俺の姉がどんな奴かを端的に言うと、「絶対に嫌だと拒否する弟を無理やりジェットコースターに乗せ、泣きながら降りて来たソイツを慰めもせず、指をさして笑う奴」だ。
だからそんな姉が、久々に帰ってきたのにも関わらず一言も発さず部屋に入っていったのを見て、これは本当にただならぬことが起こったと悟ったのである。
『緊急復讐計画』より


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