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#小説
小説「ぼくはわるもの」01
世界がひっくりかえるのを待っている。
五月、椅子の上で膝を抱えた弟はそう言ったのです。風船の空気が抜けてくような声が彼の顔を覆った前髪を微かに靡かせたのを覚えています。理解のできない言葉なのに怖がりな僕の体は鳥肌を立てていました。喉でつっかえた息を呑み込んで弟に目を凝らすと、頬まで髭を生やしているせいで表情はまったくもって分からなかったのですが、二つの黒く丸い瞳が潤んでいるようにみえました。
こ
世界がひっくりかえるのを待っている。
五月、椅子の上で膝を抱えた弟はそう言ったのです。風船の空気が抜けてくような声が彼の顔を覆った前髪を微かに靡かせたのを覚えています。理解のできない言葉なのに怖がりな僕の体は鳥肌を立てていました。喉でつっかえた息を呑み込んで弟に目を凝らすと、頬まで髭を生やしているせいで表情はまったくもって分からなかったのですが、二つの黒く丸い瞳が潤んでいるようにみえました。
こ