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世界一マズいジャム

世界一マズいジャムを入手した。
オーストラリアにルーツのある後輩が度々ベジマイトの話をしていた。
ベジマイトが不味いマズいまずいと言われていることは知っている。
「さざなみさんも食べたら絶対うまいって(思うって)!」「マズいっていうやつがおかしい!!!」「ほんと(マズいって言うやつは)ナメてる」と、とにかく味に絶対の自信があるようだった。
私は毎度毎度「じゃあなぜサジェストのトップに”マズい”が来ちゃうのか」と言っていた。
そんな後輩が、私の退職のプレゼントをくれた。
「さざなみさんがほしい、って言ってたの用意したからさ!」
「えっ君にほしい物って今まで言ったことあったっけ……?」
「ほしいって言っては……ないけど、でもきっと喜ぶ!いや、喜ばないかも!でもきっと好きだから!」
こんなやり取りでもらったのが世界一マズいと評判のベジマイトだ。ようこそオーストラリアからはるばる小樽へ。

画面が暗いのは許してほしい
隣にあるのはいつもよりちょっと安かったロイブ

黄色い蓋とパッケージ、そして茶色い瓶。なんだろう、食べ物というよりサプリっぽい見た目だ。
後輩は言っていた。「小さいやつ買っても、バカしょっぱいんでなくなんないっす!」と。瓶としては小さい。が、ジャム類としては大きい瓶である。つまり全然小さくないじゃないか。
まず、スクリュータイプの蓋を開けて。

下の部分は永久にくるくる回るだけだった

開かないんだなぁ。なんで?捻ったら蓋の下のところはプチプチ外れるはずじゃないか。なんでちょっと残るの。
仕方ないので爪で無理やり外して蓋を開ける。
なんの匂いかわからない匂いがする。酵母の匂いってこれなのか。
なんか……発酵している匂いだってことはわかる。味噌とも違うけど嗅いだことのある匂いだと一番近い。今日もう一度匂いを嗅いだら金魚エサの匂いもした。食欲をそそられる匂いかと問われれば、まったくそそられない。
いや、醤油だって味噌だって、加熱して香ばしくなるとおいしそうな匂いになるじゃないか。
一番オーソドックスな食べ方はバタートーストに塗る、らしいのでやってみることにした。
冷蔵庫の上段で1枚取り残されたロバパン本仕込(6枚切り)をトーストする。私はちょっと焼き目がしっかりしたトーストが好きだ。
そこにバター……は高いのでバター風味マーガリンを塗る。これならちょっと多めに塗っても経済的。あと植物油なのであんまり重くない。食べるプラスチック?プラスチックなのに食べれるなんてお得だね!
その上からベジマイトを塗る。
というわけで塗ったものがこちら。

食べきれなかったらどうしたんだろう、私。

調べたところ、透けるほど薄く塗れ、と書いてあった。
ヌテラとかのイメージだとダメらしい。これでも頑張って薄く塗った。
塗った後のスプーンをなめてみた。
勝手に口が波線になる感じの味だった。なんか、なんだろう。なんだったんだろう。味噌に似てる、っていうのは理解できた。
しかし色々なサイトで言われていた。「味噌や醤油をじかになめてウマいって思わないでしょ」と。
もっともである。
一口かじってみる。
うん。うん。うん。なんだ、急におとなしくなったぞ。
あんなに暴れん坊みたいな匂いを醸し出していたのに。
急にマーガリンと合わさった途端「しょっぱくないでしょ?におい?ちょっと特徴ある?でもおとなしい調味料なんです……」みたいな存在感になった。
特大のしょっぱいが、ちょっとのしょっぱいによって中和されたのだ。
これは料理の豆知識みたいなので見たことがある。
味噌を入れすぎた味噌汁を薄めるには、濃い味噌汁よりも低い塩分濃度の味噌汁を入れると中和されるらしい。やったことはないが、多分そういうことなんだろう。
そしてマーガリンの風味のせいか、かなり食べやすい。匂いもあまり気にならない。
想像しているより格段においしい。

ライティングがよくない部屋に住んでいるので。
お気に入りのハシビロコウの皿である。かわいい。


後輩にLINEで「思ったよりおいしかった」と送った。
「美味しかったらよかったです!」と返事が来たが、彼は「思ったよりおいしい」を「手放しにおいしい」と勘違いをしているようだった。

仕事から帰った同居人氏にもベジマイトを進めた。
フォークの先にちょっとだけ付いたベジマイトを舐めると神妙な面持ちで黙っている。やはり同居人氏にはまだ早かったようだ。そして多分、同居人氏にベジマイトトーストの時代が訪れることはないだろう。
何も語らない同居人氏の表情が雄弁に語っていた。
その後同居人氏は「どうやって調味料として使っていくか考えている」と語った。

翌日、珍しい物はシェアしたい血族の私は妹にベジマイトがある旨伝え、実家に持ち込むことにした
「あ~聞いたことはある……」
と言う妹にパンを用意して待っててくれ、とLINEを送りお裾分けのお菓子と共に実家へ乗り込んだ。
実家に着くと妹にベジマイトを差し出す。
流石有名ジャム。見たことがある、と妹。
妹が用意したのはベジマイトだけを塗ったパンのかけらと、生の食パンの4分の1にマーガリンとベジマイトを薄く塗ったもだ。残りのパンは保険のパンということらしい。わが妹ながらしっかりしている。
匂いを嗅いで怪訝な顔をする妹。「嗅いだことがあるけどなにかわからない」と言っているところに「金魚のエサ」と囁くと納得していた。
ベジマイトのみを塗ったパンを口にした妹は「んん~ああ~……?」ともごもごしている。
ベジマイトとパンだけだとモチャモチャ感が強いようだ。
「マーガリンとベジマイト……しょっぱいとしょっぱいで食べやすくなる理屈がわからない」と言いながら続いてマーガリンベジマイトパンを口に運ぶ。
「!?わかった……しょっぱくない……!」と今度は好印象だった。「食べやすい」とも言っていた。
残った保険パンにチョコソースを塗っていたので試しにそこにもベジマイトを足してみた。完全にドリンクバーに来た中学生である。
「ちょっとお姉ちゃん~」と言われたが食べてみるとこれがどうして、とてもおいしい。マーガリンの比にならない食べやすさだ。
「おいしい……プレスリーみたい……」と妹もご満悦だ。
プレスリーとはブルーベリージャムとピーナツバターにベーコンを足したサンドイッチだそうだ。エルビスプレスリーの好物だったらしい。
甘じょっぱいにも対応できるとはおそるべし、ベジマイト。

ベジマイトは何かに合わせることでその真価を発揮するものなのだろう。
通常のジャムやマーガリンのように食べることは難しいかもしれない。
妹と例えていたのが「こいつ遅刻するし、部屋汚いし、書類なくすし全然ダメな奴なんだよ~」と紹介されてよくよく話を聞くと「行政書士と司法書士と弁護士と医師免許持ってます」みたいな奴だった。というような調味料だ。そのままの状態のスペックと、何かと組み合わせた時のスペックが違いすぎる。プライベートはぐにゃぐにゃだけど仕事がすごいできるみたいな、表の顔と裏の顔といった感じがする。
その日の晩、マヨ照り焼きを作ろうと思いマヨと、使い道に困ったヨシダソースと、ベジマイトを少し入れて作ってみた。
若干匂いはあったが、味に猛烈に干渉することもなくおいしくできた。
隠し味にいい調味料である。
カルディには売っているようなので気になった人は買ってみてほしいが、最初に述べた通り、量が多いので本当に使いきれるのか熟考したうえでの購入をお勧めする。
また、そのまま食べきれないときにどうしたらいいか調べてから買うことも重要だ。
そしてプレゼントにするには本当に自信があって、絶対に渡しても大丈夫、という信頼関係ができあがっている人に渡そう。
強く進めることはできないが「料理が好きな人が調味料として家に置いておくのはアリ」が総評だ。

くれぐれも退職する先輩に渡すことは避けるのが無難である。

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