東京のアパート(最寄駅:牛込柳町) (秋山拓)
やあ、オサム。
僕の話を聞いてくれ。空っぽの風船を膨らませる時、僕たちは息を吹き込むだろ? 人間が、息を吸って吐くだけの生き物だなんて言う奴がいるけれど、そいつらにとって風船は分身みたいなものだって、君は思うかい?
もしそんなことを言う奴がいるとしたら(ハハハ、僕はただ息を吸って吐くだけの人生を送ってるんだ! なんて具合にね)そいつは偽物だよ。
そいつにとっては風船の方が本物だって、僕は思うね。
だって風船はそいつより純粋に息を吸って吐いているじゃないか。(まあ、吸って、というよりも吹き込まれているわけだが)しかも風船の中にあるのはただの空気じゃないんだぜ?
君の意見を聞かせて欲しい。
追伸、
この手紙には僕の吐息を込めることにするよ。君が少しでも僕を感じるように。
真っ白な日差しの下、渚より君を思って。
レイ
最愛の友オサム
やぁ。君を愛しく思いながら僕は今さらに南の方に来た。君からの便りが来たらまた移動しようと思っている。
前の手紙から季節が進んだが君は変わりないかい?
君は僕が旅に出たと思っているのかも知れないがこれは旅じゃないんだ。旅というのはいつかは帰るものだからね。
君ならわかってくれると思う。
母さんには「空は繋がっているじゃないか」とでも笑って言っておいてもらえると助かる。
君が僕を忘れていないか心配なレイ
我が友オサム
キレイな紅花をありがとう。しっかり押し花になっていて鮮やかだから懐かしさで胸焼けがしたじゃないか。まあ、それでも僕にだって郷愁を感じる部位が心にあったみたいで驚いてる。さすがだな。
新しい街は随分と開明的な人が多いみたいでなかなかに気に入っているよ。ここなら僕も楽しく暮らせそうだからしばらくは下宿でも探しながら知り合いでも作ろうかと思う。
しばらくは留まると思うから好きな時に手紙を送って大丈夫だ。
輝ける日々より親愛と共に
レイ
心優しいオサム
いつでも送っていいと言ったが流石にズケズケ来るじゃないか。その君の優しさが僕の家族に爪の先ほどでもあれば僕はまだそこに居たかもしれない。
新しい土地で遠い故郷だからこそ落ち着いていられると思うと出てきた甲斐もあったってもんだ。そして離れたからこそ実感する友の優しさが何よりありがたいよ。
こちらは良い人に見つけてもらってその人のところに厄介になることになった。しばらくはその人の鞄持ちをしながら世間を学ぶつもりだ。
追伸、
ハガキに住所を書いて同封する。君の気が向けばうちの誰かに渡してくれて構わない。
君の優しさに敬意を
レイ
長井の家からもらった本の中に便箋が挟まっていました。おじいちゃんの棺に入れたものと同じ相手からのものだと思います。
私が持っているのも忍びないので仏壇に上げてあげてください。
企画: 03. 見知らぬ土地からの手紙
SCOOLに宛てて、様々な遠い土地から手紙が投函され、ここに集いました。
手紙とは不思議な連絡手段です。手紙は、それを受け取る人にとっては、遠く離れた場所で書かれ、何らかの具体的な運搬手段を通じて、ある時間経過を伴って、此処に辿り着きます。その手紙を通して、受け取る人は、自分がいる世界とは異なる世界を感じることができます。
SCOOLに展示された手紙の総体は、いわば、どこか今よりも前に書かれた遠く離れた土地の物語の集積です。手紙の文章を読んでいただきながら、手紙が投函された、ある場所、ある過去に思いを馳せてみてください。
企画作品一覧
修了展示 『Archipelago ~群島語~』 について
佐々木敦が主任講師を務める、ことばと出会い直すための講座:言語表現コース「ことばの学校」の第二期の修了展が開催された。展示されるものは、ことば。第二期修了生の有志が主催し、講座内で執筆された修了作品だけでなく、「Archipelago ~群島語~」というコンセプトで三種類の企画をもうけ、本展のための新作も展示された。2023 年8 月10 日と11 日に東京都三鷹のSCOOL で開催。
『Archipelago ~群島語~』展示作品はこちらからご覧ください。
「群島語」について
言葉の共同性をテーマとし、言語表現の新しい在り方を試みる文芸誌『群島語』
2023年11月に創刊号を発表。
今後の発売に関しては、X(Twitter)や Instagram で更新していくので、よければ是非フォローお願いいたします!
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