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墓地に囲まれた町 (今津祥)


 風呂場でシャワーを浴びているところを想像してみてください。シャワーの音だけが鼓膜に響き、風呂場の匂いだけが嗅覚にまといつき、シャワーを浴びる皮膚は暖かいお湯の温度だけを感じている。
 目を瞑ってみてください。
 そうして、今あなたが住む場所とは違う場所にいると想像してみてください。おばあちゃんの家かもしれないし、旅行先のニューヨークかもしれないし、友達の家かもしれない。シャワーを浴びている時だけのタイムスリップ。
 わたしはよくこういう遊びをします。
 そうやって遊んでいる時だけは、自分が遠い土地にいることを忘れられるからです。
 1年前に手紙を出した時も伝えていたかもしれないけれど、私はいま、墓地に囲まれた町に住んでいます。どうやらもうしばらくはここから離れることはできないようです。問題の根源がどこにあるのか自分でもわからなくなってきてるから、詳しい理由は、また日本に戻ったら、あなたにも分かるように丁寧に伝えたいと思っています。

p.s.
 写真には近所の繁みの葉っぱが映っています。もしかしたら、植物は意外とあなたの住む街とあまり変わりないかもしれませんね。
また連絡します。





企画: 03. 見知らぬ土地からの手紙

 SCOOLに宛てて、様々な遠い土地から手紙が投函され、ここに集いました。
 手紙とは不思議な連絡手段です。手紙は、それを受け取る人にとっては、遠く離れた場所で書かれ、何らかの具体的な運搬手段を通じて、ある時間経過を伴って、此処に辿り着きます。その手紙を通して、受け取る人は、自分がいる世界とは異なる世界を感じることができます。
 SCOOLに展示された手紙の総体は、いわば、どこか今よりも前に書かれた遠く離れた土地の物語の集積です。手紙の文章を読んでいただきながら、手紙が投函された、ある場所、ある過去に思いを馳せてみてください。

企画作品一覧



修了展示 『Archipelago ~群島語~』 について

佐々木敦が主任講師を務める、ことばと出会い直すための講座:言語表現コース「ことばの学校」の第二期の修了展が開催された。展示されるものは、ことば。第二期修了生の有志が主催し、講座内で執筆された修了作品だけでなく、「Archipelago ~群島語~」というコンセプトで三種類の企画をもうけ、本展のための新作も展示された。2023 年8 月10 日と11 日に東京都三鷹のSCOOL で開催。

『Archipelago ~群島語~』展示作品はこちらからご覧ください。



「群島語」について

言葉の共同性をテーマとし、言語表現の新しい在り方を試みる文芸誌『群島語』
2023年11月に創刊号を発表。

今後の発売に関しては、X(Twitter)Instagram で更新していくので、よければ是非フォローお願いいたします!

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