焼き芋
お正月だから神社に足を運んだ。
最寄りの寂しい神社。いつ行っても人っこ一人見かけないから、散歩ルートに指定している憩いの地。ふらっと立ち寄って賽銭でも投げましょう、と着のみ着のまま向かったら驚いた。
参拝客がうねるような長蛇の列を成している。ディズニー級。見渡す限りファミリー。並べば小一時間ぐらいかかりそうだった。初詣フィーバーを侮っていた。
しょうがないので初詣を断念して、お参りせずに立ち去ろうとする。鈴付き縄をジャラジャラさせて適当な小銭を投擲するの、おじさんになっても全然楽しいから辛かったけど、我慢しました。
子供づれの家族で来ていたら参拝リタイアって選択肢はなかっただろうな、なんて考える。寂しいけど気楽でいい。
せっかく神社に来たのだから、参拝はせずとも境内を回ってみた。すると、ちょっと妙な光景が目についた。境内の片隅に誰も参拝していない小さい社がある。中にはうす汚い、おそらくマイナーな神具のようなものが祀られていた。行列の参拝客は目もくれない。片隅にひっそりと。お賽銭箱は置いてあった。近づいて中を覗くと小銭が片手で数えられる程度しか見当たらなかった。
ここにしようと思った。行列の参拝客を尻目に、一人で二拍二礼(たぶん作法を間違えている)、細かい小銭を数枚投げた。
売れっ子ユーチューバーやVtuberにスパチャをすると、膨大なコメント量を捌く主にそんなに相手してもらえない時がある。でもまだ人気がない泡沫配信者に投げ銭をすると本当に喜んでもらえる。その理論でなんとなく、寂れた社の神様の方が願いを真剣に叶えてくれるような気がした。とびきり美味しい天ぷらが食べれますように、と祈った。
お正月がお休みだなんて本当に久しぶりだ。年末年始のムーブを10年近くやっていなかったので、いろいろ忘れている。
冷蔵庫が空っぽだった。スーパーに行けばいいだろうと向かったらお休みだった。スーパーも元日は休むんだ。知らなかった。でも休める社会でよかったな、なんて負け惜しむ。
とにもかくにも、飯がない。最終手段としてコンビニ弁当はあるが、さすがにちょっと味気ない。外食を歩いて探す。全くない。
凍える手を擦り合わせながら しばらく歩くと、駅前に来てしまった。ふと目の前に一台の小型トラックが停まっている。焼き芋屋だった。
軍手をして売ってるおじさんに話しかけたら、言葉少なめに芋の説明をしてくれた。なんでも「紅はるか」という芋種がべらぼうに甘いらしい。言われるがままそれに決めた。セクシー女優みたいな名前だし。
誰もいない路地に出て、歩きながら包んである新聞紙を剥がすと、芋特有の甘ったるい匂いがムワ〜っと充満した。堪らずひとかじり。あ、甘っ!!?ホックホクなのに蜂蜜ぐらい甘い!びっくりした。しかし、こうも甘いとさすがに塩味が欲しくなる。
コンビニに立ち寄り、切れてるバターとおいしい牛乳500mlを買う。行儀が悪いけど、切れるバターを手でちぎって芋に乗っけた。バターが溶けたあとの焼き芋はてらてらと艶っぽく光っており、しょっぱくて甘くて食指が止まらない。我慢できず、溶けかけバターの塊ごと芋を口に含む。ぐあーっ!濃厚!!これこれ!思わず天を仰ぐ。お正月に食べたものの中で一番美味しかった。
家に帰ってバキ童チャンネルYouTubeのプレミア公開に立ち会った。「ワタシってサバサバしてるから」の解説。
お正月感がまったくない動画だったけど、2000人ぐらいの人がリアルタイムでみてくれていた。色んな人がいる。お正月らしく過ごさなくたっていいよな。来年も積極的に焼き芋が食べたいよ僕は。
身に覚えのない慰謝料にあてます。