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【受賞団体インタビュー】大賞:薄根地域ふるさと創生推進協議会(沼田市)

群馬県地域づくり協議会事務局です。令和5年度地域づくりAWARDで大賞を受賞した「薄根地域ふるさと創生推進協議会」のみなさんにインタビューを行いましたので、その様子をレポートします。


1.受賞の感想

【事務局】このたびは受賞おめでとうございます。受賞の感想をお聞かせください。

 まさか受賞できるとは思っていなくて、大変光栄に思っています。どのように私たちの取組をプレゼンしようか、資料づくりは苦労しましたが(笑)。受賞できて本当に良かったです。受賞は励みにもなりますし、「地域の人みんなで取った賞」ということで、地域の連帯感を高める上でも意義があると思います。また、私たちの取組をみんなに知ってもらえる、その宣伝効果も大きいと思っています。

ヒアリングに対応していただいた「薄根地域ふるさと創生推進協議会」のみなさま

 令和4年に、「つなぐ棚田遺産」に登録されてから、問い合わせや取材が増えてきました。最近は少しずつですが、取組が評価されてきたなという感想を持っています。これまでも取組を知ってもらうため、市の広報に掲載してもらうなどの努力をしてきましたが、やはり新聞の影響は大きいです。新聞に私たちの活動が掲載されるようになると、地域の人の反応も変わってきますね。

【事務局】地域の人の反応はどのように変わってきたのでしょうか。

 最初と全然違いますよ(笑)。最初はやっぱり「そんなことやったって東京から人なんか来ないよ」という感じでした。2年目から棚田のオーナー制度(※1)を始めて、最初は8組だったオーナーが、いまでは32組まで増え、現在の受入体制、環境では限界に近付いており、対応に苦慮しています。こうした実績に加え、新聞などで取り上げられたことで、地域の人達の反応も変わってきて、協力・応援してくれる人が増えてきました。
 今年の田植え体験は参加者が94名、スタッフも含めると120名くらいで、地域の一大イベントになっちゃって。地域としては嬉しい悲鳴です。

※1 棚田オーナー制度
個人オーナー制度は、ご家族で参加可能で、年4回のイベント(田植え、稲刈り等)を通してお子様の農業体験と理解を深めることができます。法人オーナー制度は、専用区画での作業を通して、社員の交流等に活用いただけます。

棚田オーナーによる田植え体験

2.活動を始めたきっかけ

【事務局】活動を始めたきっかけを教えてください。

 6年前、地元石墨町をどうしようかと話が持ち上がって。そのとき、元々あった振興協議会メンバーだけでなく、若い人や女性にも加わってもらい、みんなで色々な案を出し合いました。そこで出たアイデアの1つが、「元々ある棚田を活かすこと、そして棚田でホタルを飛ばそう(かつての風景を取り戻そう)」というものでした。やはり自然が一番良いということで、活動を始めることになりました。
 とはいっても、いきなり活動を始められるものではなく、地域の人に「ただの好き者が始めた活動」だと思われては、地域全体を巻き込んだ活動に発展していかないので、最初の1年くらいは地域のコンセンサスを得るために、各種講演会などで説明したり、地域の人達にも公民館に集まってもらって、説明を重ねたりしてきました。こうした地道な取組もあって、地域の人たちの理解も得られ、協力の輪が広がっていきました。

【事務局】活動の中で、苦労したことや印象に残っていることを教えてください。

 最初は耕作放棄地を借り上げて、自分たちで整備するところからでした。数十年も放置されていたため、田んぼはヨシだらけで、木が生い茂っていたので、開拓するのは非常に大変でした。
 また、最初は拠点もなく、人もいなかったのですが、2年目に空き家になっていた古民家(現在の活動拠点:くわのみハウス)を借りることができました。自分たちでリノベーションを行い、その後、地域おこし協力隊の隊員がここを拠点に活動してくれることになり、そこから活動がぐっと広がっていきました。拠点ができたことが、活動を進める上で大きなターニングポイントになったと思います。

活動拠点「くわのみハウス」

 印象に残った点だと、長年この地域に住んでいると、坂ばっかりで何か作るにも生産性が悪いし、手間もお金もかかるので良いことなんてないと思っていたのですが、都会から来る方々からすると見方や考え方、価値観が全然違うのですよね。この自然、景色が素晴らしいと言ってくれる。そういう見方もあるのかと思い、自分たちで薄根地域のことを改めて調べてみました。
 古文書を紐解き、この地域の歴史や資源を調べたほか、まだ使える空き家がないか、自分たちで空き家調査も行いました。こうした取組によって現在の活動拠点「くわのみハウス」も見つかりましたし、いまの活動を進める上で非常に役に立っています。

3.体験事業について

【事務局】様々な体験事業を実施されていますが、主要な事業についてお聞かせください。

 現在、一番人気があるのは味噌づくりです。参加者も体験事業によって全然違って、棚田オーナーは県外の方が3分の2を占めますが、味噌づくりは、地元「利根沼田地域」の方がほとんどになります。味噌づくりは、大きな鍋や釜が必要で、豆も4時間くらい煮るので、個人でつくるのは大変です。体験事業ではみんなで協力して作業するので、参加者は楽しいようで、子供から高齢者まで参加者同士の交流が生まれるなど、とても良い場になっています。そのため、リピーターが多く、そこから口コミでどんどん参加者が増えていっています。

一番人気の味噌づくり体験

 棚田オーナー制度も、今年から企業がオーナーになってくれるなど、幅が広がってきています。企業とすると、ここ数年はコロナ禍で社員の集まる機会をなかなか持てなかったようですが、田植え体験を通じて社員同士の交流が図れたようです。ワイワイ楽しみながら田植えしている姿を見て、私たちもこういう使い方もあるなと感じたところです。企業も地域のためにという気持ちを持ってくれて活動してくれるので、ありがたいです。
 また、里山の自然環境の保全とホタルの復活を目指して、地元の薄根小学校の児童に協力してもらいカワニナの養殖を始めました(※2)。こちらは意外と早く自然環境が改善され、カワニナを放流して3年目にはある程度のホタルが飛び始め、今では「ホタルまつり」を開催しています。

※2 カワニナ養殖事業
地元の薄根小学校の協力のもと、児童たちによる養殖を行っています。11月にはカワニナの放流会を実施し、放流とあわせて、棚田の紹介を行っています。

薄根小学校児童による「カワニナ」の放流

そのほか、稲刈りが終わると少し手が空くので、地元住民やボランティア、地元の薄根小学校、薄根中学校、尾瀬高校の生徒たちに協力してもらい、棚田にソーラーライトを設置して、イルミネーション点灯イベントも開催しています(※3)。
 このように多くの方に協力してもらいながら、活動が実施できています。

※3 イルミネーションイベント
棚田の景観を冬にも活かせないか、との発想から2022年11月~12月の約1か月間実施しました。ソーラーライト2,500本を設置し、電飾は2社、個人1名、協議会1、職場3団体が展示しました。期間中の来訪者は約500人となりました。今年も実施予定です。

棚田でのイルミネーションイベント

 【事務局】活動を進める上で大切にしていること、工夫している点があれば、教えてください。

 人のつながりを大切にしていること、地域を守るという活動コンセプトを明確にしていることは挙げられると思います。あと、「みんなでよく話し合いをしているよね」と言われますが、確かによく集まって話をしていますね(笑)。積極論、消極論も含めて色々な意見が出てきます。その上で、メンバーそれぞれの長所を活かした役割を与えて活動しています。そこが上手く回っているポイントでしょうか。

4.今後の展望

【事務局】今後の展望をお聞かせください。

 現在は、3つのことを考えて活動しています。
 1つ目は、ボランティア頼みの活動から脱却したいと考えています。活動に出て来てくれた方には賃金を出して、地域にちゃんとお金を落とすようにしたいと考えています。そのためには、売上げを上げていく必要があって、現在の売上げ総額が約600万円。これを3年間で1000万円まで上げるという目標を立てています。
 2つ目が、棚田の「法人オーナー」を増やしたいと考えています。地域の人口が減ってきている中で企業の協力はありがたいと思っていて、幅広く声がけを行っていく予定です。
 3つ目が後継者を育てていくこと、人の育成です。私たちの活動の後継者を育てていくことはもちろんですが、それと並行して田んぼを守ってくれる農業者も育てていく必要があると思っています。農業者については、「ホリデーファーマー制」という制度を作りました。いきなり、仕事を辞めてこちらに来てもすぐに農業だけでは食べていけない。そうすると活動が長続きしないので、「まずは休日だけ農作業を体験してみませんか?」というものです。農作業に自信がついてきて、地域の人達とも上手くやっていきそうだなと思ったら、その後、移住について考えてもらえればと思って、新たに制度を設けました。まだ実施者はいませんが、農業をやりながら自然の中で暮らしを楽しんでもらいたいと思って準備を進めています。

5.メッセージ

【事務局】最後に読者に対して、メッセージをお願いします。

 外から人が入ってくることで、新しい風が吹き、新しい視点で物事が見られるようになります。私たちにとっての日常やこれで良いのかな?と思うことも、変に手を加えず、そのままの方が良かったりします。同じものでも、見せ方によって伝わるものが違います。このように、外からの人が入ってくることは、活動の幅が広がり、地域の活力にもつながるので、我々としてもありがたいと思っています。私たちの活動に興味のある方は、ぜひ遊びに来てください。

(群馬県地域づくり協議会事務局 栗原、田辺、星野)

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