第1話 赤玉パンチ
赤玉はやさしいよ。
スーパーのお酒コーナーで、バイト先の先輩のゆるい声を思い出す。
私は下戸人間で、基本的はソフトドリンクばかりだけど、お酒への好奇心はちゃんとある。22歳、色々試したいお年頃。
ワインというと、幼い頃に読んだ絵本に登場する動物たちを思い出す。動物たちが美味しそうに葡萄酒を飲む姿は、大人になった今も思い出すたびに心をくすぐり続ける。
売り場の棚にちょこんと座る500ミリリットルの紙パック。イメージカラーの赤に白の気泡が描かれ、黄色の吹き出しに「おすすめは1:2」の文字。
赤玉パンチ。なるほど、パンチって炭酸のことか。
確かに、炭酸で割るなら気取った足つきグラスをくるくるしなくて済む。一気に親しみのある飲み物に思えて、そのままの足でオリジナルブランドの炭酸水をカゴに入れた。
失敗しても赤ワインなら料理に入れちゃえばいいし、なんて心に予防線を張りながらも、丸底グラスを出しちゃっている。このグラスは口当たりがよくて、お気に入りのなのだ。カラロンと氷を揺らして炭酸水を多めに注ぐ。小さなグラスは生温い風でもう汗をかき始めていた。
高窓から注ぐ光に、幼き日に憧れた赤色が光る。ソファに座るのも惜しくなって、キッチンでさっそくひとくち。
ぱちんと弾けて、葡萄とアルコールの香りが広がる。でも、ガツンと鼻を殴るような強烈さではない。葡萄ジュースのような喉を絞る酸っぱさも、もったりとした甘さもない。ちゃんと苦味も辛味もあって、ちゃんとお酒だった。全然お酒に詳しくないくせに、教科書通りという言葉がぽわんとした頭に浮かぶ。
割ってもワインなので、しっかり酔いが回った。それでも、またひとつ自分が飲めるお酒を発見できたことが嬉しい。
その日の夜、あの絵本の世界で動物たちと葡萄酒を飲み交わす夢を見た。
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