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鈴木愛奈の歌声が紡ぐisolationの世界~楽曲分析編~


ご挨拶

 まずは本記事をご覧いただいた皆様に最大限の感謝を。
こちらの記事は声優アーティスト鈴木愛奈さんの楽曲「isolation」を楽曲分析の観点から掘り下げて行き、楽曲に対しての解像度をより深めようという趣旨の下で執筆しております。
今読まれている皆様は鈴木愛奈さんに興味があるか大好きな方がほとんどかと思いますが、もし初めて知ったよという方がいましたら是非この機会に鈴木愛奈さんの「isolation」を聴いてみてください。
本記事が皆様の楽曲理解の一助となりましたら幸いです。

*鈴木愛奈 オフィシャルサイト

isolationとは?

2021年12月1日に発売された鈴木愛奈2ndアルバム「Belle révolte」に収録されている楽曲である。
新進気鋭のサウンドクリエイター夢見クジラ×大沢圭一が生み出す唯一無二の世界観を鈴木が美しくも力強く歌い上げた本作。
疾走感あふれるセンチメンタルチューンは筆者を含め、ファンの間で絶大な人気を誇っている。

*夢見クジラ - 作詞・作曲担当
*大沢圭一 - 編曲担当

序章:タイトルの意味と歌詞考察

isolationとは《孤独 , 孤立 , 分離 , 隔離》を意味する英語名詞である。
本作では孤独という意味合いで使用されていると推察される。

実際の歌詞はこちらから
以下、歌詞についての筆者の解釈を綴るが、自己イメージを壊したくない読者は回避を願いたい。


歌詞には"君"と"私"の二人の人物が登場する。
Aメロの"秋が終わる頃"という言葉から、枯れた木々や葉、冬の訪れを想起させ、物悲しさや冷たい空気感といった印象を聴き手に与えているが、
それによって"君"と"私"の距離感や関係性も自ずと見えてくる。
解釈はそれぞれだが、二人は友達以上恋人未満の異性、
"私"は女性で、"君"が男性。
"私"が"君"に対して寄せる片思いの恋慕を歌った曲だと受け取った。
そして、"君"には"私"以外の意中の相手がおり、"私"は二人の関係性が壊れることを恐れ、想いを伝えられずに寂しさや自己嫌悪を募らせていく。
孤独を紛らわせたい"私"は"一緒に居たくて"君"を呼ぶが、それは本来望んでいる二人の時間ではなく、友人同士の距離感であり、埋められない孤独感で苦しみ続ける"私"がなんとも儚く情緒に訴えかけてくる。
いつの日か"君"と添い遂げられることを願いながら……(ここまで全部妄想


といった具合であるが、実に切ない。
よくある男女の恋愛模様ではあるが、多くを語らず聴き手の感性に委ねることで如何様にも解釈ができる素晴らしい歌詞である。

さて、次はいよいよその叙情的かつ内省的な歌詞を包む楽曲の構造を見て行きたい。

第1章:メロディから導くキー

本作を分析するにあたって、音楽理論の予備知識がない読者でもなるべく分かるように噛み砕いて解説をしていくが、もしそれでも分からない場合はご容赦願いたい。

まず主旋律のメロディを拾ってキー(調)を割り出していく。
一般的にキーは一定の音程間隔の7音で構成され、どの音が使われているかが分かればアタリを付けられる。
上記の作業は楽器がなくても出来るが、ギターやピアノがあると作業がし易い。
Aメロの音を拾った結果、ラ・シ・ド#・ミ・ファ#・ソ#の6音が使われていたのでおそらくAメジャー(イ長調)だと絞り込めた。
全ての音が使われる訳ではないが、今回は第4音のレが未使用で第7も半音で上り下りするわずかな箇所でしか使われていなかったので、第4音と第7音以外の5音を使用したペンタトニックスケールという音階だと分かった。
俗にいうヨナ抜き音階という言葉は聞いたことがある方もいるだろうか。
ざっくり言うと不協和音が出ずにコードと合わせやすいのでポップスなどで多用され、キャッチーな曲を作りやすくなる。
ちなみに鈴木愛奈さんが幼少期より習われていた民謡は基本的にヨナ抜き音階であるため、これだけでも相性抜群である。

同じように音を拾った結果、BメロもAメジャー、サビはCメジャーだということが分かった。

勘の良い読者ならお気づきだろうが、この曲、サビで転調しているのだ!!!
サビで転調する曲を摂取して生きている筆者としては、さながら命が救われる想いであった。

第2章:転調による演出効果

さて、サビで転調することでどのような作用が得られるのだろうか?
転調と言えば曲のラストで音程が上がってサビを繰り返すラスサビ転調を思い起こす読者が多いと思う。
アニソンなどでよく見られる手法だ。
曲の終盤の盛り上がりをお手軽に演出できる効果がある。
例を出すとfripSideなどはこれを多用している。
かくいう筆者も大好きである。

しかし、今回のようなサビで自然に転調しているような曲に関しては、指摘を受けなければ意外と見落とされやすいものである。

前章で述べたように、isolationはAメロとBメロがAメジャー、サビがCメジャーであった。
これがどういう意味を持つのかを順を追って解説していく。
まず、CメジャーはAマイナーキーと同じ構成音で成り立っている。
この関係性を平行調という。
また、AマイナーはAメジャーと同じくA(ラ)を主音(中心となる音)としており、この関係性を同主調という。
つまり、サビでAメジャーからCメジャーに転調するということは、
AメジャーからAマイナーに転調することと同義であり、主音を変えずに自然に明るい雰囲気から暗い雰囲気に切り替えるという効果を楽曲に与える。
これを同主調平行調転調(短三度転調)という。

この転調によって、isolationはサビでマイナー調のより切なくダークな雰囲気を与えられ、"私"の苦しい胸の内を一気に発露させるという絶大な演出効果を担っている訳である。
エモ過ぎかよ。

*転調は楽譜動画がより分かりやすいので以下をご覧ください。


第3章:コード進行は楽曲の屋台骨

コード進行は人間で言うところの骨格であり、これがしっかりしているかで楽曲の全てが決まると言っても過言ではないだろう。
コード進行がめちゃくちゃな曲はタコである。
私はヒトでありたい(?)

さて、isolationのコードはよくよく耳をすませば薄く聴こえてくるのだが、
Bメロ以外は徹底して小室進行をループしているというものであった。
小室進行について聞き馴染みのない読者のために補足すると、
90年代のJ-POPシーンを席巻したかの小室哲哉大先生が多用していたことによりこの呼び名が付けられたものである。
理論武装に辟易してきた読者の為に詳しくは割愛するが、小室進行は明るさと暗さを併せ持ち、初心者からプロまで容易にエモさを演出することができる優れモノだ。
多く使われるということはそれだけの実績と信頼の証であり、決して安易に使われている訳ではないことは補足しておきたい。
またBメロだけは小室進行ではなく最強進行というものを中心にセカンダリードミナントという技法で楽曲に大きな推進力を与えながらサビにつなげている。
isolationは基本や王道に忠実なコード進行であるが故に安定した疾走感とエモさを両立しているという訳である。
幼少期から愚直に基本を続けて世界を制した大谷翔平のようなコード進行なのだ。
神曲とはどれだけ基本やセオリーに忠実であるかということを改めて実感させられた。

番外編:アウフタクトってなんぞや

さて、追加で解説をしておくと、isolationはメロディにおいてアウフタクト(弱起)という技法が多用されている。
このアウフタクトとは、ざっくり言うと下の画像に示すように前の小節の一拍目以外からフレーズを始める技法である。

赤枠がアウフタクト


前小節からフレーズをスタートすることでメロディに勢いをつける効果がある。
4拍目の裏くらいから始められることが多い。
助走であって決して早漏なわけではないのであしからず。
筆者もアウフタクトが大好きである(名前がかっこいい

まとめ

ここまでご覧いただきありがとうございました。
勢いのままに拙い文章で書き連ねてきましたが、isolationの楽曲構成的な意味合いでの魅力、少しは伝わりましたでしょうか?
流し見ニキのために軽くおさらいをしてまとめます。

isolationのここがすごい!
①サビの転調で切なさが演出されている
②盤石なコード進行で楽曲のエモさと疾走感が抜群
③アウフタクトの多用で曲に勢いがある

それにしても、本当に夢見クジラさんという方は良い音楽を作りますね。
isolationは息継ぎポイントが少なくBPMも120と速めなので安定して歌い上げるのが本当に難しい曲だなと改めて感じましたが、それをライブでも情感たっぷりにパフォーマンスされている鈴木愛奈さんの歌唱技術の高さを思い知らされました。
それを見込んだ上でのこの難しさなのだと思います。
最新曲の果てのない旅でも夢見クジラさんが作曲をご担当されていましたが、今後も鈴木愛奈さんのために書き下ろされるであろう楽曲が楽しみでなりません。

以上となります。
改めてとなりますがご覧いただきありがとうございました。

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