諦めるしか、本当になかったのか?

十代後半、プロの歌手になりたくてタレント養成所に半年通っていた頃がある。

パートしながら養成所やオーディションがある度に出てゆくのはお金ばかりで、得たものは今となっては何一つ残っていない。

その時バンドを組んでいて、スタジオ代やステージ代、チケットをさばけなければ自腹で更にお金は消えてゆく。

ばぁちゃんのお家でお世話になっていた為、幸い生活に困る事はなかったけれど。
パートで稼ぐ時間、養成所、バンド…とにかく時間もさばききれなかった。

何がしたかったのだろうか。ただ歌が歌いたかった、それだけだった。

養成所では発声練習とカメラテスト練習、バンドでは華のない下手なヴォーカル。パートはしがない家電量販店で働く社員さんの元で雑用、レジ係。

何を求めていたんだろう。

華やかな観客のあるステージ?
プロになること?
お金を稼ぐこと?
歌好きなばぁちゃんに「今見てるー?!」とカメラ越しに言わされること?

全て今思えばアホみたいだと思う。
何をやっても続かないのに、お金だけ飛んで売れずに「所詮こんなもんか」と諦めていたのではないかな、と思う。

『諦めなければ』何か変わったのだろうか。変わったにしろ、きっと歌手には成れてない。可能性のありそうな小さな街に出て、気付けば違うモノに成っていたんじゃないだろうか。

変わらない事は歌うこと。一人カラオケで何時間も歌い、録音する。
ここが駄目、ここは走ってる、そこはもっとフェイドアウト風に…あ、外してる。

その繰り返し。ちぃとも上手く歌えない。
頭の中ではステージに立ち、たくさんの観客に向けて歌う自分の姿を想像する。

実際には誰一人居ない狭苦しい、30分数百円の部屋でただ歌って満足するだけだ。


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