清潔な男

穏やかな話し方が印象的だった。
聞き上手で否定が性格の中にないような物言いをする。
友達が多そうだと、迂闊にも羨ましく思ってしまった。

これは恋に、いや、彼に落ちるなと思うほど魅力的な男。
そう感じた時点で彼を好きになっている証拠だ。

私はモテない人間だと自負しているため、一人が楽だと云う言い訳を周りにも自分にもしている。
別の言い方をすれば、自分を誤魔化しているに過ぎない。

アラサー、アラフォーになると魅力的な人には大抵パートナーがいる。
既婚、独身に関わらず、お相手がいるものだ。

彼に「彼女は大丈夫？」とわざと聞いてみると
ここぞとばかりに彼女の話をしはじめた。
初対面にも関わらず落胆したのは、ここだけの話である。
私はモテない人間なので彼女が仮にいなかったとしても報われる恋ではないのも承知だ。

話がすぎた。
清潔と云うのは外見ではなく-不潔は論外だが-性格の事を指す。
偽りや嘘や疑いが全く感じられないのだ。
裏表のない自分にも人にも、勿論良い意味で素直なのであろう事が伝わってくるのだ。
それも1度話しただけで、だ。

惹かれない訳がないではないか。
彼女と云う防御線を張った時点で実らない好意である。

せめて友達で在りたいと思ってはみるものの、恐らくもう会う事はないだろう。
もしも。もしも会ってしまったら堪え性のない口が、
好きだと言ってしまうだろう。
そして激しく落胆するだろう。
それが自尊心の無さに拍車をかけるだろう。

清潔な男は断り方を知っている。
それも綺麗な言葉使いで、なるべく傷付けないように。
その優しさは時に酷なのだよ、きみ。

1度会っただけ。
清潔な男は私に興味すら持っていない。
それでも良かったと思わせてくれた事を胸に秘める。

さよならは、私からは言わない。