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『一人称単数』

2023/8/13

村上春樹,2020,文藝春秋.

当て所なく電車に乗って本を読むという旅をした話をしたら、真似してくれるらしく、おすすめの本を訊かれた。夏の車窓に合う小説を考えてみたけど、私は夜の自室に似合う本ばかり読んでいて、それにそのひとの本の趣味がわからないから、いってる美術展の趣味から類推するしかなかった。シュール&ポップがお好きかなと思ったので、村上春樹の短編。未読の本薦めるってどうなんやろと思いながら、ちょうど私も読むので『一人称単数』を。

「クリーム」「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」「品川猿の告白」「一人称単数」がおもしろかった。へんなことが起こってほしくてうずうずしてる。女性の描写、というか、女性を観察したり評価したりする語り手の男性の思考の描写に、ナルシストでミソジニーじゃね?何様?って思うところがけっこうある。けど村上春樹を推してるひとは男女問わず私の周りにもちらほらいて、それも私てきにこの子はちょっとセンスいいなと思ってるひとが多いから、うちひとりに村上春樹のよさPRしてほしいとLINEしたら「やる気しかない」と返ってきた。

しかしときどき、とくにそんな必要もないのに、自ら進んでスーツを着てネクタイを結んでしまうことがある。どうしてか? クローゼットを開けて、どんな服があったかを点検していて(そうしないと自分がどんな服を所有しているかわからなくなってしまうから)、買ってからほとんど袖を通していないスーツや、クリーニング店のビニールに包まれたままのドレス・シャツや、結ばれた形跡も見えないネクタイを眺めているうちに、なんとなくそれらの衣服に対して「申し訳ない」という気持ちが湧いてきて、試しにちょっと着てみる。(pp. 219-220)

「一人称単数」

これ、これ、この描写、女の話をしてると思った。というか、ここで描かれる衣服と同じように、村上春樹の小説では女が物的に描写されると思った。中学の時、現代文の授業で「納屋を焼く」をやったことがあって、その時も先生はなくなってもだれも気づかない迷惑しない焼くのに手頃な納屋と、いなくなってもだれも気づかない迷惑しない殺すのに手頃な女を重ねて読んでた。「一人称単数」のあとの展開てきにも、この読みはわりといい線いってるのでは?と思う。「申し訳ない」だと?調子乗んじゃねえ。

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