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知らない街

程よくゆるい夕暮れと温いビル風に押され
ふらふらと歩いていると
幹線道路沿いの牛丼チェーン店から甘ダレのいい匂いがする
傍らを通り過ぎる車のエンジン音が心地よい
出張ではじめて訪れた街

人々の喧騒と少しづつ点灯するネオンが
ボクの心を高揚させる

今日の仕事はすでに終わっていて
ビジネスホテルに帰る途中
一先ず資料でパンパンに膨れ上がった
このカバンを部屋に置いて
一息つけて散策したい
心なしか足取りは
半歩先を踏みしめている

知らない土地にひとりでいると
とてもソワソワして
落ち着かない半面どこかで
ワクワクしていたりもする

仕事で来るはじめての場所は
観光スポットや特産物には興味はない
そこの土地の人がどのような息づかいで生活しているか
露知らない領域に一歩踏み入れる
その瞬間が好きなんだ

ビジネスホテルに着き
ロビーで手短にチェックインを済ませ
すぐ横のエレベーターに乗り込む
部屋に入りベットにカバンを投げ出し
ネクタイを外し一服する

日が暮れるまでまだ時間がある
歓楽街へ行こう

ビジネスホテルを出る
仕事帰りのサラリーマンと塾へ向かう学生がすれ違う
個人経営の薬屋の主人がシャッターを下ろそうとしている
遠くに見えるデイリーヤマザキの看板
下を俯きながら足早に歩く女性とすれ違った
すれ違いざまに女性がふと顔を上げる
少し目が合った

知らない街で会う
切れ長の三白眼の女性にドキッとしてしまうのは
なぜだろう

ネオンと雑踏に惹きつけられるように
人混に入っていく
人々の会話と笑い声、グラスを合わせる音

居酒屋とカラオケが立ち並ぶアーケードの脇道で
一息つきたくて一服する
目線をスライドさせると
カウンター席だけの小さな焼鳥居酒屋が隣にあるのが見える
「生ひとつ」
誘われるようにふらっと店に入っていた
こういう店でいいんだよ

サラリーマン二人組が上司の愚痴で盛り上がっている
常連と店主が延々と内輪話をしている
話の流れを読んで隙をついて店主に注文を入れる
「生おかわり、あと串おまかせで」
酒に酔っているのか、街の空気に酔っているのか
いつもより酒のまわりがはやい
端に置いてあるテレビに目を移した
ローカル局なのか見たこともない番組がやってる
ただ吞みながらどうでもいい番組を見ていた

暖簾がふわっとして
客が入ってきた
ホテル前ですれ違った女性だ
目が合った
おたがい同じ言葉を言った
「あ、さっきの」

この街はボクのことを知らない
ボクはこの街のことを知らない
お互いそんなに知りたくもないし、知ろうともしない
たとえ知り得たとしても
わずかな時間のわずかな事だけ
今日一日だけの白昼夢みたいなものさ
すべて一期一会ってやつ
そんな出会いなんてさ
フォレスト・ガンプか寅さんの映画くらいしかないだろうと
どこかで思っていたけれど
そんな映画みたいなことは意外と意外にあったりする

知らない街はボクにやさしく
そして一晩で忘れてくれる


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