物価高・人手不足と企業の新陳代謝

バブル崩壊以降、日本経済は「失われた30年」を迎えた。その原因の一つとして企業の新陳代謝の遅れが指摘される。

かつて企業の生殺与奪の権は銀行や信金などの金融機関が握っていた。金融機関が「この会社の稼ぐ力や保有する資産を踏まえると借入金の返済は難しい」と判断すると融資を打ち切った。

しかしながら、2008年のリーマンショック以降、金融機関は金融当局の意向も踏まえ、企業の資金繰り支援に奔走した。2020年からのコロナ禍においても同様の対応を行った。

その結果、本来、市場から退出すべき企業が残存して少ないパイを奪い合い、国内企業の生産性向上は一向に進まなかった。

現在、国内企業は資源価格の上昇や円高の影響から仕入価格の急速な上昇に見舞われている。流石にコスト削減では吸収出来ず、販売・納入価格の引き上げが相次いでいる。また、アフターコロナの下で人手不足が再び顕在化しており、物価高へ対応も加わって賃上げを求める声も高まっている。

今後は販売・納入価格の引き上げを実現し、人材を確保できるだけの賃金や労働環境を提供できる企業と、そうでない企業に分かれていくと予想される。後者は十分な売上・利益と人材を確保できず、市場から淘汰されることになる。

市場からの退出は、短期的かつミクロの世界では相応の痛みを伴うが、中・長期的かつマクロの視点では成長企業・分野への労働移動を通じて企業の生産性向上をもたらす。その際、スムーズな労働移動には政府が推奨するリスキリングが重要な意味を持つ。

今回の物価高・人手不足を契機に企業の新陳代謝が進み、日本企業が再び国際的な競争力を確保することができるのか、今後の動向に注目していきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?