見出し画像

Fake,Face 7

 事態に納得できないヨシオは思い立ってスマートフォンを取った。
 「あいつに電話して確かめてみるか?」
 学生時代から親しくしていたマコトに、この異常が自分だけに起きているのかどうか、それとなく確かめてみることはできないか。しかし、どう話す。
 「やあ、久しぶり」まではいいとしても、「ところでドナルド・トランプの髪は何色だったっけ?」などと持ちかけられるだろうか。冗談が好きなマコトなら、ふざけて「ツルツルのはげ頭じゃないか」と応じるかもしれない。混ぜ返されて疲れてしまうかもしれない。
 ともかくヨシオは人と話したかった。
 マコトもリタイア後、暇を持て余しているらしくすぐに電話は通じた。お互いに代わり映えしない近況とおしゃべりの定番 、病気の話、政治への愚痴などでうなずき合いながらも、マコトの声にいつもの快活さがないことにヨシオは気付いた。
 「いつもの数値はそこそこ良くないのはそうなんだが、どうも最近、ちょっと目の調子がな」
 「えっ」とヨシオは思った。ひょっとして―。マコトも同じ状況に陥っているのか。暗闇の中で同志を得たのかもしれない。
 しかし、この年代なら誰しも老眼や白内障など目のトラブルは普通だ。
 「実は俺も、ときどき妙なものが見える」。ヨシオは切り出してみた。
 「······」
 マコトがつばを飲み込んだように沈黙した。いつもなら「お前はまたクリンゴン人でも会ったんだろ」とか、スタートレックファン同士の軽口で盛り上がるのに、そんな乗りがなかった。
 「あのなヨシオ、その妙なものって、黒い飛蚊症が同じ所に見えたらやばいぞ。おれは前にも話したっけ。網膜剥離をやっただろ。あのときがそうだった」
 「そんなんじゃないんだ」
 「ひょっとして、その―」

 具体的な異変についてお互いに触れないまま、曖昧な感触を得て2日後に居酒屋で会うことにした。

シニアの旅に挑戦しながら、旅行記や短編小説を書きます。写真も好きで、歴史へのこだわりも。新聞社時代の裏話もたまに登場します。「面白そう」と思われたら、ご支援を!