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ゆるゆるお父さん遠足にうってつけの日

これは、2019年5月5日に代々木公園で開催されたゆるゆるお父さん遠足に、僕が出発するまでの様子を村上春樹風に書いたものです。あんまり怒らないでください。なお、続きはありません。本当のレポートはコチラ

2019年の5月、天皇の退位に合わせた長い休日を、幼稚園の新しいクラスに慣れ始めた娘は、少し持て余しているように見えた。そう、その10日間の休日は、夏の日の夕方に突然現れる雲のように、僕たち家族の生活に影を落としていた。雨粒が落ち始めるのも時間の問題だった。

「パパ遠足っていつだったかしら」
妻は何度か聞いた。「こどもの日だよ」そのたびに僕は答えた。休日を実家で過ごした妻は、実家でも二人の娘に振り回されて疲れ切っているようだった。

パパ遠足、というのはゆるゆるお父さん遠足のことだ。ピンクの服を着て息子を肩にかけた彼が始め、卵な僕が引き継ぎ、今度は芝生の娘をアイコンにした若い父親が受け継ごうとしている、あの遠足のことだ。

当日の朝は晴れていた。
遠足には申し分のない天気だった。

僕は8ヶ月の次女の唸り声で3時には起き、参加者の名札を作っていた。Twitterからアイコン画像を保存し、画像編集ソフトで配置し、名前を入れて印刷する、そんな地味な作業だ。起きてから#ゆるゆるお父さん遠足のハッシュタグで検索してみると参加予定者が増えていたから、追加で作ることにしたのだ。合わせて子どもたちのシール名札も作った。初めて会う子どものことも、名前を呼んで遊ぶことができる。

「何人来るの?」起きてきた妻が聞く。
「分からない、参加表明をひろっていくと、20人くらい」
「大人と子どもで?」
「いや、父親だけで」

妻は言葉を探しているようだった。それは40人以上の父子の姿を想像していたのかもしれないし、ただ朝食に食べるパンの賞味期限が切れていないか思い出そうとしていたのかもしれないし、新元号の始まりにシステムトラブルがそれほど多くなかったことに安堵していたのかもしれない。

少したってから妻は言った。

「大丈夫よ、代々木公園は広いもの」
「代々木公園は広い」僕は繰り返した。
「そうよ、東京中のパパ垢を飲み込めるかもしれないくらいに」
「まさか」と僕は言った。いくらなんでも東京中の父親を代々木公園に集めたら入るわけがない。
そんな僕の疑問を読みとったのか、妻は冷静に訂正した。
「東京中の父親、ではないわよ。パパ垢よ。そして休日を父子だけで出かけようとするパパ垢のことよ」
「なるほど。でも僕たちは、父子だけで出かけることを、もっと普通のことにしたくてこの遠足を企画してるんだ」

妻は曖昧な笑みを浮かべた。寝る時間を過ぎてからも絵本の読み聞かせをねだる長女に向ける顔に似ていた。
「うまくいくといいわね」
妻は言う。ギリシャ神話の女神テミスの予言のように。
「うん、うまくいくといい。成功させたい」
僕は高らかに宣言する。

起きてきた長女を着替えさせ、朝食を食べさせ、みんなで食べようと葡萄をタッパーに詰め、水筒に氷を入れた。飲み物と昼食は現地で調達する予定だった。
レジャーシートも、遊び道具も、カメラも入れた。何も忘れ物はないはずだった。それでも白いシャツに付けてしまったトマトソースのしみのように、薄い不安が残っていた。
「大丈夫、しみは消せる」僕は自分に向かって言った。
「家事をやるパパ垢なら、酸素系漂白剤の使い方は知ってるんだ。それと同じで不安はない」

長女にはそんな不安はないようだった。ゆるゆるお父さん遠足の趣旨を理解していない5歳の彼女は、妻にハートの髪型を要求し続けていた。今日は父親である僕が結ばないといけないんだ、ポニーテールにしよう、と言っても聞かなかった。
やれやれ、前途多難だった。

※続きません。
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ありがと!卵ってとっても栄養があります。
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娘二人(2013年生・2018年生)の父親。住宅関係のアラフォーサラリーマン。家族との日々で考えたことの記録。