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Chapter.06 Winter

introduction
この記録は、友人のフジワラコトミとの
ルームシェア期間である2020年7月から、
解散する2022年7月までの2年間に、
わたし(タグチヒカリ)が記録した日記の一部を
再編集したものです。

illustration by Kotomi Fujiwara

【第6章 2022冬】

2022.January

6.
フジワラに唐突に将来の夢を聞かれて頭を悩ませる。1年後くらいには次のステージが見えていたらいいなとは思う。あと、パンとかお菓子を気軽に焼ける人になりたい。

10.
結局3連休、毎日恋人といた。

17.
数日体調が悪すぎる。
偏頭痛持ちだが、最近頭痛が進化しているような気がする。こうやって自分自身のことをだんだん制御できなくなっていくのだろうか。自分の力や気持ちではどうにもならないこともあるのかもしれない。

20.
フジワラより先にベッドに入って、リビングでフジワラが仕事をしている音を聴いていたら、ああまだ時が止まっていない、世界が動いている…と思って安心した。わたしは1人ではない。

21.
恋人と、真面目な話が真剣にできるようになるまでは、今の関係性以上に進むことはできないと思う。

それを相手に求めたり責めたりしてしまうとしたら、もしかしたら一緒にいられないのかもしれない。


23.
心がボロボロと壊れるこの感覚は
何歳になってもここに立つと戻ってきてしまう。

惨めな女だ。

どうなったって私は
運命を受け入れて生きていくしかない。
でも。別れ話だったらどうしよう。

24.
自分の髪から彼の香水の香りがする。
洗い流したらここまでの時間すべてが何でもなかったかのように過去になっていくのだ。

結局一晩中泣いていた。
外の世界は昨日までと何も変わらずまた新しい1日を始めようとしているのに、わたしの身の回りのものは何もかも色がなくなって意味のないものに思える。

眠れず朝方連絡をしたらすぐに返信が来た。いつだって君は優しかったね。最後まで優しいんだね。幸せになるんだよ。きっと私のことなんて忘れられるよ


わたしを抱きしめながら、
わたしの何倍も泣いていた。
ずっと一緒にいられると思ってたし、
めちゃくちゃ好きだったのにと言いながら
ワンワン泣いていた。
わたしはこんなにも愛してくれていた人を
日々少しづつ苦しめていたのだと悟り、
何度もごめんねと言って
彼の選択を受け入れることしかできなかった。

闇雲に散歩して近所の公園まで来た。いつものベンチに座る。いつだったか付き合いたての頃、会社終わりにこのベンチで寒さに震えながら電話をした。彼が家まで送ってくれた日に名残惜しくてこの公園まで来てこのベンチで話したこともあった。今までこんなに人に愛される経験をしたことがなかったから、彼がくれた時間は本当に幸せだった。わたしは幸せだったのに、その幸福がどれだけのものなのか、麻痺して感じられなくなっていたんだね。わたしは遅かれ早かれ一回目を覚まさなければいけない運命だったのだと思う。

28.
朝、目を覚ました瞬間が一番絶望を感じているかもしれない。とはいえ自分が何に絶望しているのか麻痺して分からなくなっている。ぼんやりするけど現実世界に生きている感覚はある。毎日食べ物を食べる気がしなくてたった3日で4kgくらい体重が落ちてしまった。自分をみじめに思わなくていいように、もういっそのことこの勢いで痩せられるところまで痩せてしまいたい。

31.
起きた瞬間から心がざわめいて、外の匂いを嗅いでもざわざわする。何かよくない感覚がある。直感が働きまくるタイプってわけでもなかったはずだけど、ここ数日感覚が研ぎ澄まされた感じがあって、今感じることはすべて本当のことなのではないかと思う。先週あまり物を食べなかったからか、週末に居酒屋で食べたご飯が消化されず体を重くしているのがわかる。そんなことすら今の自分に影響している。

何かにすがらなくては私は立っていられない。先週は自分をなんとか自立させることに必死だった。なんでもいいから手と口と頭を動かして止まらないようにすることで必死だった。今日になって、もうどうにもできないということを悟り、絶望している。

もうこの運命は私の力ではどうにもできないのだ。もう地球3周ぶんくらい考え抜いてしまった。

自分の中でたくさん結論が出て、仮説が立ってしまった。答え合わせをすることはできない。時が経たない限りはこの答えは分からない。そんなことに絶望してしまう。時が経たない限りということは、今の自分にはもうどうすることもできないのだ。こんなにやるせないことがあるか。

神様、わたしをたすけて欲しい。彼はきっと理想的な人に出会ったのだろう。幸せになって欲しいと思うのに、うまくいってなんか欲しくないって思ってしまう。私はこれからどうしていけばよいのですか。

わたしは未だに彼が持ってきた荷物を
片付けることができていない。

2022.February

6.
鍵を返すために二人で会った。
以前ふたりで大量に注文して大食いしたベトナム料理屋で、フォーの一杯も食べきることができないほどわたしの胃袋は小さくなっていた。

もう目の前にいるこの人に触れることはできないということが不思議でもどかしく、こんなにも自然で仲良しなのにもう私たちは恋人ではないし、もう彼には新しい彼女がいるという現実は本当によくわからない。

なんと言えばいい。この気持ちは言葉にすることができない。ああ、これで本当に終わったのだ。揺らぐこともなく、この恋愛は綺麗に終わっていったのだ。二人の人生が別々に進んでゆく。数日抱えていた不安や悩みはやはりどうでもいいくらいに彼は優しく、私を思って生きていた。

彼は私と出会ったことで今の魅力的な人間になれて、私も彼と出会ったことで今の自分になれたのだ。互いにとって、なかったことにはならない、出会うべくして出会った存在だと確認できた。またいつか会えますように。心の隅に彼との記憶をそっと大切に置きながら、私は私の人生を生きてゆく。

帰路。
なぜかたまらなく泣きそうだ。
安心感もある。なんだろうこの気持ち。
今日こうやって穏やかに会えた嬉しさもある。
すべて終わったからだろうか。
酒を飲んで泣きたい。

8.
大丈夫と大丈夫じゃないを繰り返して生きている。

10.
カルテットの6話を改めて観た。今のわたしに刺さりすぎて泣いてしまった。こうやって、喧嘩しなくとも仲良く愛せていると思っていても、人間はだんだんずれていくのだな。愛しているのに好きじゃないという感情。言わないことは優しさではない。

11.
私はまだここにいるのに、もう過去のことなんだなと思うのが辛かった。言葉の端々にそれを感じて、私は彼にとっての過去に置いてけぼりなのだと。そんなのは悔しいから、むしろ先に進んでやるって思う。悔しいとか悲しいとか色々で。結局は自分が自分を認められる自分じゃないから許せないのだとわかってる。誰のせいでもなく、自分を責める気持ちがあるから納得できないのだろう。

日常生活の中で話したいことがこんなにあるなんて、これからどうやってこの気持ちを乗り越えて行けばいいの。話したいことが沢山ある。そんな人がもういないんだ。かなしい。

人は時に人を裏切るけれど、自分が築きあげてきた経験、能力、そして必死で貯めてきたお金だけは自分を裏切らないなと実感する。

自分を慰められるのは結局自分自身だけなのだなと。自分のためにたくさんお金を使った。

14.
このまま物理的にも精神的にもこの場所に生き続ける自分が心底嫌になってしまった。根本的に自分を変えるには、もう転職するしかないという考えに至る。仕事が嫌とか、会社が嫌とかではなく、次の人生にステージに行くには、もうこの会社を辞める以外に道はないと思う。4月に、辞めるって言おう。7月に会社を辞めよう。今のままの自分でいるのが悔しい。

大切な人も、大切な自分自身の未来も、今の駄目な自分のせいで失うなんてたまったもんじゃない。悔しさはわたしの一番の原動力。

19.
「振られたから帰るね」と母親に予告して実家に帰った。何も知らないはずの父親の第一声が「元気?」だったのがじんわり嬉しかった。私の親は、両親共々本当に不器用だなと思う。その遺伝子を持って生まれてしまったことは考えなくてもわかる。


京都に住む友人に会いに行った。突然だったのに時間をつくってくれる友人がいることに感謝。社会人になってから、しばらく連絡も取らず、会いもせず、精神的にも物理的にも遠い時間が長かったのだけど、またこうして再会して、ありとあらゆる話が同じ温度感でできる日が来たことが感慨深かった。大学時代、一緒に課題をしながら夢を語ったり、将来を不安に思ったり、たわいもない話をたくさんしたな、そんな時間が無限に感じたあの頃の記憶を、思い出せて嬉しかった。人はその時々で、自分にとって必要な人を側に選びとって生きていると思うけど、昔の自分にとって大切だった人が、時を経て、離れていたのにまたこうして自分の支えになってくれる運命を、ありがたいと思うし、友人には本当に感謝している。

23.
長い時間をかけて大切に作ってきた写真集がようやく完成した。私が作ったわけだから、データも見ているし、色校も見ているのに、やはり本として1冊になっている姿を見ると重みが全然違っていて感動してひとり会社で泣いた。

本当にやりきったなと思う。
この会社でこれ以上求めることも
悔いることもない。

ちゃんと一人前に、世に出しても恥ずかしくないものを作れるようになったのだとやっと自信を持てた。もっと早く辞めると思っていたし、5年も続けられないと思っていた。

前向きに次のステージに進んでいこう。

27.
相手から今日のわたしがどんな風に見えていたかなんてどうでもいいな。まさかこんなタイミングで会うことになるなんて全く予期していなかったけど、きっとこれも必然で、いま会う理由があってきっと今日は顔を合わせたのだろう。今日の彼はいたって普通で、いつも通りのわたしの知っている彼の姿のままで、なんかそうか、まだそこにいるんだなって思って。まだそこにいるならわたしは先に行く。もっとエネルギーを持って上に行くしかない、手の届かないようなところに行くしかないなって改めて思えた。会えたことは嬉しい。それは事実なのだ。でも、純粋な嬉しいとかこの人とまた付き合いたいとか戻りたいとかそういう気持ちよりは、早く上に行ってやりたいという気持ちが強くなった。

フジワラと友人と3人でお茶をした。
相変わらず2人の前進を見ているとまぶしくてしんどい気持ちになる。そういう風にふたりと自分を比べなくて良いことは頭では分かっている。でも、それでも、わたしは何もできていないのではないか、自分だけがここに取り残されているのではないかと思えて苦しくなる。自分は変化をしたいと言っているだけで現状何も変われていないのではないか。みんなと同じ速度で前進していかないと、そのうちわたしの周りには人がいなくなってしまうのではないかと不安になってしまう。今の問題をどうしたら解決できるのかを必死で考えて着実に克服していかなければ。

これ以上、自分の周りにいる人を失いたくない。

つづく

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