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初段

いわゆる“指す将”となって早2年半を超えた。
こんな大人のイイ歳になっても棋力を上げる、成長することはできるのだなぁと感心する。

というより私の場合は将棋を覚えたての子どものころは、将棋をもちろん物事に対する考え方に問題があったなぁとつくづく思える。
今考えれば当たり前すぎるのだが、将棋は相手の考えを汲み取り、それに対応しなければ勝つことはできない。
つまり我儘、自分勝手な考えでは通用しないわけである。
それがだんだん大人になり、社会を知り、いろんな相手を思い遣る、気遣う心が大きくなるにつれて将棋への考え方も自然と変わったのかもしれない。
そのせいもあってか、長らく詰将棋や好きな棋士の棋譜並べをしていただけのほとんど“観る将”だったが、なぜか2年半前の時点ですでに初段近くの棋力は身についていた。


そんな私自身現在は三段(将棋ウォーズの全メニューと将棋倶楽部24)、まだまだ成長過程であり偉そうな発言のできる身分ではないのだが、周りにいる級位者の方々に対しては頑張って少なくとも初段までは上がってほしいという気持ちがある。

初段というのは個人的に良い目安かなと思っている。
といっても単に区切りが良いという理由だけではなく、そこに到達する間に盤面という景色の見え方、感じ方ががらりと変わると思うからである。
これまでいろんな棋力帯の人の将棋を見た上での感覚として、目安として段位者と級位者では盤面の見え方やそこに存在する概念の捉え方が明らかに違うと感じるのだ。


多くの要素が考えられるが、一例としては「駒交換」、「駒得」に対する考え方だ。
将棋ウォーズの3切れなどで特に目立つ(私もあまり他人の事はいえないが)「ふんどしの桂」や「割り打ちの銀」。
正直、誰もが好きな将棋の手筋だろう。
これらは桂馬とカナ駒の交換や銀と金の交換ができるため実行すれば「駒の価値」という観点からは駒得した、といえる。
しかし、いちばん肝心なのは、その先の局面で本当に自分側が得をしているかを考えられるかどうか、なのである。
たしかに多少なりとも駒得はしているかもしれない、だが相手の持ち駒に桂馬や銀を渡してしまう、それらを使われてこちらに対する厳しい反撃はないか、そこまで思考が及ぶかどうかというのが棋力を表すわけである。

何を以て「駒得」と考えるかという部分でも棋力が表れるのかなと思う。
級位者のうちはたいてい単純な「駒の価値」だけで物々交換による駒得に飛びつきやすく、それで得ができると思いこみがちである。
もちろん場合によりけりだが、自分からも何かの駒を渡したその後の状況までを深く読まない傾向にあるのかなと思う。
有段者になればその後の局面以降も読みに入れられるだけでなく、そもそもそれだけでは駒得と考えなくなるだろう。
強くなればなるほど「駒得」という概念を相手の駒をタダで取る、あるいは歩だけで取ることと考えるようになるのだ。
つまるところ、いかに無償で自分だけが得する状況を作るか、という視点で手を考えるのである。

あとは終盤戦において急所をいかに正確にとらえられるか、という部分は棋力にかなり左右される。
最終盤における相手玉を詰ます力や詰めろであるかどうかの判断などはいうまでもないが、もう少し前の終盤の入口あたりの局面でどこを攻めるのが急所であるかの判断というのが棋力によって分かれやすい。
級位者のうちは終盤に入ってもなお駒得をねらいに相手玉への響きが薄い手や手順に囲いを硬くしてしまう手、また駒損を恐れて大駒をただ逃げるだけの手などを指しがちである。
だが棋力が上がってくればくるほど、相手玉への距離感を最優先に、かつ正確に捉えることができるようになる。
最終的に玉を詰ますには玉を孤立させなければならない、そのためにはまず周囲の守り駒を攻める必要があり、その急所の駒はこれだからこれをねらいにいこう、といった寄せの組み立てである。

また終盤に限らず、将棋ではどんな局面でも具体的なねらいをもって論理立てて指すというのが非常に大事であり基本である。
それを自分でできる力を身につけるには棋譜並べが有効である。
プロの解説も読みながら、どのような論理をもってこういう組み立てで指し手を選んでいるのか、というような思考回路を吸収するのだ。
あとは対面での対局後などは必ず感想戦を行うこと。
これにより自分と相手の思考の合致点、相違点を確認するのだ。

なんとなく、で実戦を指していても絶対に強くならない。
私が級位者の指導をするとしたら、どれだけ時間をかけてもしっかり読むこと、考えることを強調するだろう。
そうそういないが将棋ウォーズの3切れから強くなろうなどは私からしたら論外である。


あくまで私の中のイメージだが、初段になればその先、それまでより何倍も将棋を楽しむことができるようにもなると思う。
プロの将棋を観戦するにしても、内容の理解度が変わればそれだけ感じ取れる面白さも違ってくると思うのだ。
自分は将棋が好きだ!と胸を張って言える人はぜひ頑張って初段以上にはなってください。

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