詰将棋

詰将棋との出会いは中学生で将棋を覚えNHKの将棋講座を見始めたころだった。
講座内容に加え番組最後の毎週の詰将棋が楽しみだった記憶がある。
ルールを知りいくつか問題を見るうちになんとなくその面白さ、美しさを感じるようになっていた。

講師の先生方の出題するさまざまな詰将棋には棋士それぞれの特色があらわれていたが、なかでも谷川先生の問題はひときわ美しく芸術的だった。
7手~13手詰があり難易度としてもかなり難しめだと思うし当時自力で解けないものもたくさんあった。
だがどの問題にもいわゆる解後感があり大駒を巧みに使った爽快な手順が印象的だった。
私は谷川先生の詰将棋に触れられたことがきっかけで詰将棋が好きになったといっても過言ではない。
当時出題されていた問題はのちに「光速の詰将棋」(日本将棋連盟出版)にも収録されているので、興味のある方はご購読いただきたい。

それからというもの、私自身もときどき詰将棋創作をするようになった。
余詰やキズのない完璧な作品をつくることはなかなか難しいのだが、完成したときの喜びは大きく気がつけばハマっていた。
私のつくる問題もだいたい9手~17手程度の短編で、つねに上述の谷川先生のような解後感のあるきれいな手順を意識している。
具体的に理想をいうと、使用駒数が10枚前後で使用盤面が6×6ぐらいの広さで配置できるとうれしい。
あとは大駒を捨てたり大きく動かしたり収束が鮮やかなのがやはり好きである。
作品の総数はもっとあるのだが現時点で30点ほどスマホアプリの詰将棋パラダイスや詰将棋メーカーという愛好家向けサイトに投稿している。


そんなことで私は観る将であった昔から詰将棋が好きで続けてきたのだが、リアルで多くの人と対局し会話するようになってから知って意外だったのは、詰将棋は人によって好き嫌いが分かれているということだ。
好き嫌いは何も構わないことだが、嫌いな場合、それが影響した例として、立派な有段者であっても実戦で1桁台の基本的な詰み筋が見えなかったり逃したりするのをけっこう目にする。
もちろん持ち時間など対局条件によっては厳しい場合もあるが、そういうのを見ると少しもったいないなという気持ちになる。
実戦では対局者の棋力差がある場合も多く、詰むときに詰まさなければならないというケースは比較的少ないのだが、私個人としてはやはり実戦のなかでも詰将棋の力は発揮したいし、逆にそれで負けるようなことにはなりたくないと強く思う。

手前味噌で恐縮だが私は将棋仲間から比較的終盤を評価してもらえることが多く、自分としてもいちばん得意という印象だが、その根幹の多くはこれまで詰将棋を解いたり創作したり長く携わってきたことによって培われたように思う。
今でこそさまざまな戦型について具体的な定跡を身につけ序盤から不利になるようなことはほとんどなくなったが、指す将になりたてのころは多くの将棋の序盤を半ば我流で進めていたためたいていは途中でリードされていた。
だがそれでも中盤が進み終盤の入口あたりになってからは少なくとも難しい形勢にできていた実感はある。
最終盤において重要となる詰む・詰まないの見極めや手数計算などは、指す将になる前からある程度までは自ずとできていたようである。

通常将棋というのは最初いくつか序盤の型を決めて定跡を覚え、実戦を交えて中盤力を磨き、短手数の詰将棋、あるいは必至問題を数多く解いて終盤力を身につけるというパターンがほとんどかなと思うが、私の場合はそのうち終盤だけが特化されたようなものだった。
いってみれば終盤から将棋が築かれてきたのだが、それによって最終的に勝てるケースもあったと考えると、今まで日常的に楽しく取り組んできたことが生かされており、詰将棋を好きでよかったなと思う。


プロアマ問わず将棋において終盤力が勝敗に大きく影響するのはいうまでもない。
序盤、中盤、終盤、人によって好きなところは違うし勉強法も人それぞれであるが、私は自分の経験から終盤力を鍛えるのに詰将棋をたくさん解くことはやはり大いに効果があるように思う。
よくいわれるのは3手~7手詰の問題集(いわゆるハンドブック)を繰り返し解き進めるというものだが、個人的にはもう少し踏み込んで9手、11手ぐらいの実戦型詰将棋なども解くのをおすすめしたい。
単に手数が増えただけと思えるかもしれないが、詰将棋としての本質ははっきり異なっており、目安として前者は基本的には詰め手筋のみでまとまっており、後者になってようやく詰ますための“構想力”が必要となるものだと思っている。

構想というのは言い方を変えると、初手の候補手やもう少し長い手数では5~7手目あたりに現れる好手、妙手であり、詰将棋はそれをベースに最終形まで読み進めていく。
それは手数が増えればその分変化や紛れの手順も多く複雑になり多くの読みが必要となってくる。
これも私の経験則であるが、そういう少し長めの詰将棋を繰り返し解いていくと、構想力が高まりしだいに初手の第一感なども正確になり必然的に解くスピードも速くなってくると思う。

また私はそうした詰将棋での読みというのは本将棋の終盤においても通ずるものだと考えている。
本将棋においては長い即詰みだけでなく短い必至で勝つこともたくさんあるが、長い詰将棋を解けるようになれば、実戦でもそれだけ早い段階で詰みが見え詰めろを掛けるということができるようになる。
もちろん本将棋では自玉の状況も関係しはるかに複雑な局面ばかりなので一筋縄ではいかないが、少なくとも終盤での読みの力は格段に上がるものだと考えている。

そうした終盤を体現されている第一人者こそ、まさしく谷川先生であろう。
「光速流」、「光速の寄せ」はこの上なく輝いたフレーズだなと思う。
谷川先生ご本人も、詰将棋が好きで解くこと、そして創ることも昔からされており、それによって他の棋士よりも早い段階で“終盤に勝つかたちのイメージ”ができるようになったそうだ。
これは最近知ったことなのだがじつに感銘を受けた。

現代においては藤井三冠の名を挙げずにはいられない。
彼もまた、小学生時代より詰将棋解答選手権で優勝を続けており記録的にも圧倒している。
その強さの一つの原動力として詰将棋は欠かせないものであろう。


本将棋に通じながらもそれとはまたちがった魅力のある詰将棋。
これからも将棋ライフのなかで詰将棋を楽しみ習慣として続けていきたいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?