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「証券会社がなくなる日」浪川攻著 書評

<概要>
顧客重視の視点から、先行するアメリカ証券業界の動向やIFAなどの新たな国内の動きを紹介しつつ、フロー(コミッション)重視からストック(フィー)重視のビジネスに変革しなければ証券業界の未来はないと提言した著作。

<コメント>
私も複数のIFA業者とお付き合いしているので、業界の内部事情を知るべく読んでみました。

するとIFA業界だけでなく、証券業界全体が抱えている本質的問題が丁寧に描かれており、とても好感の持てる内容。以下簡単に紹介します。

◼️日本の証券会社の本質的問題
本質的問題は、証券会社の宿痾ともいえる「手数料ビジネス」と「証券営業スタッフの短期異動」

ここを変えないと、顧客とのウインウインの関係が構築できず、金融庁も懸念しているというのは本当に納得できます。私も証券会社に限らず、銀行・信託銀行・保険会社・郵便局など既存の金融業者はあまり信用できないと感じていて、本書を読んで、なお一層この考えは正しかったなと思っています(本書紹介のいちよし証券やネット証券除く)。

私も勤めていた小売業の場合、衣料品や食料品などの物販は売価と原価があって、その差額で儲けるわけですが、証券会社の場合は金融商品(株・投資信託・債権など)を販売し、販売額に一定の利率をつけて「販売手数料(=コミッション)」という形で儲けます。

ここで物販と大きく違うのは、物販は売ってその商品を所有・利用すること自身が顧客の便益に直結する(押し付け販売のような例外除く)のに対し、金融商品は未来のリターンを想定して購入するので、購入イコール顧客便益ではありません

物販と違って販売行為が顧客の利益と直結していないのです。将来的に顧客に便益(=リターン)があろうがあるまいが販売側(証券会社)には関係ないのです。

したがって、証券会社と顧客の関係はウインウインではありません。これは他の金融業者も全く同じ構図で、彼らは手数料の高い商品を売れば儲かりますが、手数料の高い商品ほど顧客利益が高いわけではありません。したがって金融業者の立場に立つと、誠実に営業すればするほど顧客利益との不一致に悩んでしまうという悲劇が起こるのです。そして悩んでいても数年で異動して顧客と”さよなら”するので「ホッと一息」という感じでしょうか。

◼️アメリカの証券会社の事例
販売手数料(=コミッション)無料を打ち出した最大手証券会社チャールズ・シュワブ(野村證券の預かり資産の4倍規模)は、「全ての人に投資へのアクセスを提供する」という理念の下、サービスの対価として顧客から「預かり資産残高連動のフィー(報酬)」を得るRIA(Registered Investment Adviser)と提携し、その顧客資産を管理するプラットフォーム事業を展開しています。

この場合、顧客の資産が増えれば増えるほどRIAもチャールズ・シュワブも儲かるので、顧客の利益と販売側の利益がウインウインの関係になります。したがって同じ販売員が長期間顧客の資産増大目指して努力できるのです。ここで販売側の悲劇は起きません。

そもそも販売してもコミッションはないので、手数料稼ぎのためのインセンティブが販売側に発生しないのです。

野村証券や大和証券は利益に占めるコミッションシェアはそれぞれ69%、62%ですが、チャールズ・シュワブの場合はたった%(一部手数料有料の商品あり?)。

その他、モルガン・スタンレー傘下のスミス・バーニーは個人富裕層向けの一任勘定商品(ラップ)なのでこちらもフィービジネス。そして「ゴールベース・アプローチ」という顧客の人生設計に合わせた資産運用設計を提案するというビジネススタイル。

エドワード・ジョーンズという会社も面白い。地元の名士をスカウトして、一定の研修を行ったのち、ドブ板営業で地道に預かり資産を増やしていくというスキーム。地元の名士が営業するので信用性も高く、しかも長期的な人間関係に基づき資産運用するので、短期的な利益を求めず、顧客の中長期的資産形成に焦点を当てた営業が可能となっています。したがってこちらも「ゴールベース・アプローチ」。

◼️日本のIFA業者といちよし証券の事例
IFA業者が大手のGAIAファイナンシャルスタンダード(FS)と、新興のジャパンアセットマネジメント(JAM)の事例を紹介。

GAIAとFSは、中長期運用に特化するとともに、アメリカと同じようにフィーベースによる「ゴールベースアプローチ」。スミス・バーニーと同じようにラップ商品を顧客に提供することで短期的なリターンではなく、中長期的なリターンを目指した運用商品を顧客に提供。特にFSは、ラップだけの提供ではなく、債券や積み立て投資なども提案しつつ、顧客との長期的な関係に基づいた運用を提案。

JAMは変わっていて、フィー型のビジネスは目指していません。ラップなどの運用商品はどうしても2%程度のフィーが顧客にかかってしまって、2%以上のパフォーマンスを毎年維持して運用するのはハードルが高いとし、債券やETFなどの販売手数料のみが収益源。したがって預かり資産を増やさない限り収益は上がらないというビジネス。これは徹底的に顧客のことを考えた結果だというのですから、実にチャレンジングな会社です。とはいえ収益を安定させるためにロボットを活用した低コストのラップならと、その可能性も探っている状況のようです。

いちよし証券も、コミッション重視からいち早くフィー重視に転換した珍しい既存証券会社の事例として紹介。「売れる商品でも売らない信念」という宣言のもと、個人の確実な資産形成に資する証券会社を目指している点は、本当の顧客重視という視点で、ユーザーサイドも安心して使える証券会社ではないかと思います。

以上、証券会社も本当の顧客第一主義を実現すれば、我々ユーザーにとっても有益であり、このような改革が日本でも実現すれば、投資環境の将来性も明るいのではないかと思います。

*写真:2013年 アメリカ合衆国 ハワイ

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