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『すばらしい人体』山本健人著 読了

<概要>

医学にまつわるエピソードを中心に人間の身体の精巧さや医学の進歩の素晴らしさと共に主要な病気の概要について学べる現役外科医のベストセラー。

<コメント>

本屋に平積みされていて面白そうだったので、思わず後で電子書籍として購入。わかりやすくて読みやすいので、あっという間に読了。

ふだん生物学関連の勉強もしているので、既知の内容も多かったのですが、その中でも特に自分が知らなくて興味深かったエピソードを以下整理。

■タンコブ

なぜタンコブってできるだろうと子供の頃から素朴な疑問だったのですが、本書で解決。

タンコブは正式には「皮下血腫」と呼ばれ、特に頭にできるタンコブは、頭蓋骨と皮膚の隙間にできる血の塊で、頭蓋骨があるから集まった血液がその場に集中して皮膚が出っ張るという理屈。なるほど。

■本当に怖い膵臓の外傷

タンパク質を溶かすのは胃酸だけだと思っていたのですが、十二指腸に送られる膵液も同じ役割を担っている。つまり人間の身体も溶かしちゃうので、膵臓が破れてしまうと膵液が体中に散らばり大変なことになるのです。

*胃や十二指腸は粘膜によって守られているので溶けません(=消化しない)

■がんの死因が増えた理由

がんは高齢化によって悪化する事例が多いので、高齢化社会になればなるほどがんによる死亡率が増えます。

昔はなぜ癌で死ぬ人が少なかったか」という質問の答えは「がんになる前に他の病気で死んでいたから」である。
本書第2章 人はなぜ病気になるのか

■高齢者の死因「肺炎」とは

高齢者の死亡理由に「肺炎」が多いのですがこの理由は誤嚥と言って、食べたものがそのまま食道にいかずに気管のほうにいって喉を詰まらせるから。

高齢者は若者のように「むせる(誤嚥反射)」ことで気管から食物を除去することができにくくなるため、誤嚥になりやすい、ということです。

■病気と健康の境目を判断するのは難しい

細菌がいようがウイルスがいようが、人間は病気として発症する場合と発症しない場合があります。そもそも人間の体の中は、ウイルスや細菌が数え切れないほど住んでいるわけです。

がんも同じでがん細胞が悪さをするかどうか、つまり、がん細胞が増殖して周囲の臓器を破壊するまでは「健康」な状態です。

亡くなった人の体を解剖すると、偶然に前立腺がんが見つかることがある。

その割合は50歳以上の約20%80歳以上では約60%に及ぶ。この前立腺がんは、おそらく不快な症状を起こさず、命を脅かすものでもまかったため、発見されないまま宿主を迎えた。

このようながんを「ラテントがん」という。「ラテント」とは「潜伏」という意味だ。これらの多くは進行が極めて遅いために「寿命のほうが先に来た」と言い換えることもできるだろう。
同上

とのように、がんだからといって健康な場合もあるし、新型コロナで陽性であっても無症状であれば「健康」ということになるのです。

■なぜ食物アレルギーになってしまうのか?

一番、なるほど、と思ったのは人間の免疫機能の性質。

なぜ人間がふだん食べている食材が、食物アレルギーになってしまうのか、とても不思議だったのですが、これで納得です。

人間は、口から入ったものは異物として受け入れやすく、この性質を「経口免疫寛容」といいます。

例えば漆職人は、漆によるかぶれを防ぐために小さい頃から漆を舐めて育つそうです。これも「口から入ったものは異物とみなさない」という経口免疫寛容が漆に対しても成立しているということです。

ところが、これが口からではなく、皮膚から入ってしまうと、人間がふだん食べる食材でも異物と認識してしまって、拒否されてしまう、というのが食物アレルギー。皮膚からの異物を拒否することを「経皮感作」というそうです。

例えば卵アレルギーの人は、先に皮膚を通して卵の成分を体に入れてしまった可能性が高く、そうすると卵は「異物」として先に認知され、口から入れると抗体が産生され、全身にさまざまな症状をひきおこしてしまうのです。

したがって、できるだけ食物アレルギーを防ぐためには、

①皮膚から入る異物をできるだけ回避できるよう皮膚を健康に保つこと
②できるだけ早く、色々な食材を赤ちゃん(離乳食後)に食べさせること

かもしれません(私は医者ではないので、実際に試す際には医者の指示に従ってくださいね)。以下同じような内容がNHKのサイトで発見したの以下出添しておきます。

■痛み止めのしくみ

鎮痛解熱剤(アスピリン、ロキソニンなど)は、誰でもお世話になった経験があると思いますし私もそう。このしくみが実に面白い。

もともと痛み止めの成分は柳から抽出される「サリチル酸」で古代ギリシアの時代から変わっていません。

今の解熱心痛剤は、この「サリチル酸」をアセチル化することでその副作用(胃の不快感、吐き気、胃潰瘍)を軽減させたもの(アセチルサリチル酸という)。

以下、外傷を事例にした炎症とその炎症を抑える解熱鎮痛剤のフロー

■怪我してしまう
→毛細血管が拡張して血液が集まる
→赤く腫れて熱をもつ
→白血球と血管内液体が滲み出す
→白血球の死骸と混ざって膿になる
→ブラジキニンという、痛みを引き起こす物質が産生
→傷口が痛む

以上の炎症のプロセス全体を促進させるのがプラスタグランジン。このプラスタグランジンを産生する酵素、シクロオキシゲナーゼを阻害するのが解熱鎮痛剤。

プラスタグランジンは視床下部にも働きかけて体温を上げるので、解熱鎮痛剤は解熱剤としても機能。

■消毒液は傷の治りを悪くする

傷口は消毒液で一時的に細菌を除いてもすぐに細菌が周りから寄ってくるので意味がないそうです。従って定期的に傷口を水で洗浄すれば良いというのが最近の治療法だそうです。

■うがいの効果は限定的

これも消毒液と同じで、一時的には消毒されても次の瞬間に目の前から飛んできた飛沫を吸い込んでしまえば元の木阿弥。

気になったエピソードは以上。

このほか、最後の「読書案内」には

何かが「わかった」時はゴールではない。「無数の問いが生まれる」出発点なのだ

という言葉があり、確かに勉強していると、後から後から枝分かれするように新しい「知りたい」が生まれ、収拾がつかないし、今もそういう状態なのですが、この言葉は、そのことをうまく言語化しているなと思った次第です。


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