和歌山県の風土:環境編
今回和歌山を3週間フィールドワークして感じたのは、紀州=和歌山県は、紀の川を中心とする沖積平野である紀ノ川エリア「紀北」と紀伊山地「紀南」で大きく自然環境や文化が異なること。
【紀北】
中央構造線に沿って吉野川を上流とする紀の川が流れ、東西に沖積平野が形成された自然環境は、どちらかというと徳島県の中央構造線沿いの吉野川と連続したエリアといった方がいいかもしれません。
紀の川(およびその支流)によって浸食された土砂が堆積した沖積平野が広がり、河岸段丘を形成し、特にその河口周辺は和歌山県最大の平野で和歌山市を中心として和歌山県の人口92万人(令和2年)の半分以上がこのエリアに住んでいます。
河口周辺は、洪水対策から人工的な地形の改変が行われ、本来その流れを南に曲げ、和歌浦にあった河口を北側にそのまま一直線に注ぐように変更。つまり紀の川が海に注ぐ部分だけは、淀川や江戸川の事例と同じく、人工的な「放水路」なのです。
気候は、ほぼ大阪市と同じで夏(8月)の日平均気温28℃、冬(1月)の同6℃で、日本全体の平均値的な気温。降水量も年間1,725mmとこれも平均的。
実際に紀の川沿いを訪れると、雨水を溜めるため池なぞもあって、
金剛山脈を挟んで対置する大阪の泉南地域に近い印象。そして畑には吉野エリア同様、柿が栽培されている。
【紀南】
紀南は個人的に私のロードバイクと同じブランド「ヨネックス」を使用する自転車ロードレースのプロチーム「キナンレーシングチーム」の本拠地ですが、
日本全体でみても特徴的な土地。
日本一雨の多い地域といわれ、実際調べてみると特に紀伊半島東岸の新宮市は年間降水量3,332mmと奈良市・大阪市の倍以上の降水量。ただし同西岸の田辺市の場合は年間2,025mmとだいぶ少なくなります。
そのおかげか、私の印象では川の透明度が日本一ともいえるのが紀南。
熊野川支流の四村川や瀞峡で有名な北山川、古座川、富田川などは透明度に関しては完全に四国の四万十川を上回っているのではないかと思います。
紀伊山地は、最高でも龍神岳の標高1482mで、信州などと比較しても山自体はそんなに高くないのですが、
他の山地と違って山並みの奥行きが深いため、その景観は何重にも山並みが重なってとても美しい。この景色は紀南ならではないかと思います。
特に熊野の成り立ちは1400~1500万年前の熊野カルデラ火山活動によっておきた世界最大規模のカルデラ噴火が、紀南特有の奇形を生み、この奇形を崇拝する信仰が外来の神仏と集合して熊野・高野(奈良の吉野も)の信仰を育みます。
新宮市神倉神社の御神体、ゴトビキ岩(マグマが湧出して誕生した火成岩)
落差の大きい崖としての那智の滝(上の写真から2週間後の標準的な水量)。火成岩(熊野花崗斑岩)と堆積岩(熊野層群)の境界線で、柔らかな堆積岩だけが川で削られて堅い火成岩の壁だけが露出し、日本一の落差の滝が誕生。
景勝地としての串本の橋杭岩。泥岩にマグマが貫入して火成岩が橋杭のように残存→津波でそのカケラが散乱。
や古座川の一枚岩。これも火成岩の塊(古座川弧状岩脈=龍紋岩質火砕岩)がそのまま残って、周りの堆積岩が古座川に削られた結果。一枚岩は「宇津木岩」と呼ばれ、加工しやすい石のため近隣の灯台などの建築に使われたらしい。
玉の浦の「蜂の巣壁」。これは「タフォニ」という奇岩で、楕円形の穴で海岸に吹き付ける潮が運んだ塩分の結晶が周りの岩盤に影響を与えた結果だといいます。
瀞峡などの景勝地を生みました。
以上のような奇形の他、熊野カルデラ活動は、「火山がないのに温泉地が多い」という紀南を特徴づけています。熊野学者ともいうべき三石学によると
とのことで、紀南の自然と文化は、地質学的には「熊野カルデラ」がその特性を根拠づけているといっても過言ではありません。