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動物も人間と同じ感情を持つ「ママ、最後の抱擁」より

程度の差こそあれ「動物も人間と変わらず同じような感情を持つ」ということを生物学的に証明したオランダ人動物行動学者フランス・ドゥ・ヴァ―ルの上の著作より。

対象とする動物は、主に著者が専門とするチンパンジー、オマキザルのほかボノボなど。動物園や動物学研究施設としての各種観察舎はもちろん、野生の動物も含め、あらゆる対象動物の行動記録を長期間モニタリングすることでそのエビデンスとしています。

なので、著者のいうとおり、人間は動物の一種としての連続性の中で存在している種であり、意外に「人間だけ」と思っているものはほとんどないといってもいいぐらい。あとは「より賢いか」「より愛情深いか」などの程度の違いだけ。

■情動について

情動について、著者の定義では

身体的・心的状態であり、行動を促す。情動は特定の刺激で引き起こされ、行動面の変化を伴うので、表情や肌の色、声音、仕草、体臭などによって、外側からでも感知できる

「ママ、最後の抱擁」序章

となります。著者が特に強調しているのは「感情」と「情動」は違うということ。感情は個体ごとの内面の主観的状態となので本人以外それを知る術がないが、情動は必ず外側から感知できるので他者からでも観察可能といいます。

【著者紹介の事例「仲直り」】

仲直りは、外から観察可能な情動的相互作用。しかし仲直りに伴う「悔恨」「寛容」「安堵」といった感情は、それを経験している本人にしか知り得ない。

なので、わたしが本書を通読した印象では、

著者のいう「情動」は、日本語でいう「反射的な感情」で、著者のいう「感情」は日本語でいう「意識的な感情」や「気持ち」

と言い換えた方がわかりやすいかもしれません。この辺りは翻訳者の解説が知りたいところですが、訳者柴田裕之による訳者あとがきにも文中にもその解説はありませんでした。

動物学的には、情動は、危険や競争、生殖行為の機会などに対する適応的反応を引き出す能力として進化した動物の機能。なので、情動を持つ動物は、情動を持つことにって現代まで生きながらえてきたとも言えます。

私たちが怒ったり、喜んだり、妬んだり、悔しがったりする情動を持つのは、人間が適応進化した結果ということです。こういわれてしまうと何とも味気ないのですが、科学は事実を法則化する学問なので致し方ありません。

脳科学的には、例えば絆を伴う情動は、すべての哺乳動物で「オキシトシン」というホルモンがかかわっています。

太古からあるこの神経ペプチドは、繁殖行動や授乳や出産の時に下垂体から分泌されるが、成体の間で絆を育む役割も果たす。恋に落ちたばかりの人は、恋人がいない人よりも血液中のオキシトシンが多いし、恋愛関係が続いていれば、血中濃度が高い状態も維持する

「ママ、最後の抱擁」第1章

一方でオキシトシンは、パートナー以外との火遊びを防ぎもする。既婚男性がこのホルモンをスプレーで鼻に浴びせられると、魅力的な女性の側では居心地の悪さを感じ、距離を置きたがる

同上

とし、人間含む社会的動物が他個体とのスムーズな関係を維持するするためにオキシトシンが分泌されるわけで、この辺りは人間も動物も同じ。

また、扁桃体や前部島といった他者の苦しみの知覚にかかわる部位は、そのサイズの大小によって、利他的行動などの社会性の強弱に大きく関係しており、例えば集団の平和的解決が得意な類人猿ボノボは、当該部位がヒト族(=類人猿+人間)のなかでもっとも発達しています。

ちなみに犯罪者に多い、いわゆる「サイコパス」は、扁桃体が平均的な人間の扁桃体よりも小さいか、不活発らしい。

以上のほか、「笑い」「共感や同情」「羞恥心や後ろめたさ」「権力闘争」「公平性」など、興味深いエピソードは、追って紹介したいと思います。

*写真:南アフリカ クルーガー国立公園(2008年撮影)

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