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思想(哲学と宗教)

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価値観の学問そのものといって良い哲学、価値観そのものといってよい宗教を勉強する事で「価値観とは何か?」に迫りたいと思っています。
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2020年3月の記事一覧

Think Smart ロルフ・ドベリ著 書評

因果律から逃れられない人間の宿命は、本書でもその本領を大いに発揮しています。 この宿命は人間の人間たる繁栄を生み出した源で人間にとって最も重要な能力だと思いますが一方でデメリットも多くあり、それが哲学や行動経済学・心理学、脳科学によって解明されつつあります。特に以下は行動経済学の成果です。 ◼️カチッサー効果 行動に意味を添えるだけで、その行動は周りからの理解と譲歩を得やすくなる。驚くべきことに、その理由が意味をなしているかは重要ではない。「**なので」というだけでその行

脳科学と哲学の相似性「単純な脳、複雑な私」池谷裕二著 書評

◼️価値観における脳科学と哲学の相似性 『「あのガキ、気にくわないから叱ってやったよ」なんてエラそうにいう親父がいるけど、でも、それは勘違いだ。自動的に怒りが湧いてきて、その感情にしたがって叱っただけ。でも、本人は教育してやったつもりになっている。ただそれだけだよね(430頁)』 池谷氏によれば人間の自由意志は自分の預かり知らぬ無意識によって支配されているといいます。でも私が思うに「無意識」そのものが自由意志であって、その根拠となるのが汎化されたその人の価値観=個人の虚

近代市民社会の原理 実践編

スティーブン・ピンカーのいう「啓蒙主義=近代市民社会の原理」の実現が、この時代の日本に必要な社会の価値観(=虚構)だと私は思っています。 昨日(2020年3月21日)、視聴したNHK:ETVのSWITCHインタビューで登場した「ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー」の著者、ブレイディみかこさんと、作家・演出家の鴻上尚史さんのお二人は、そのまま近代市民社会の原理そのもの。 近代市民社会の原理は「信念対立の克服」がキーワードなんですが「じゃあ、どうやったらいいの」とい

「科学的思考の限界」 脳科学編

引き続き「進化しすぎた脳」からの知見です。 ホモ・サピエンスという種ならではの外的な特徴というのは「直立2足歩行(鳥は直立していないので違う)」ですが、内的な特徴は「言語」を操れること。 言語化できることによって、抽象的な概念を扱うことが可能(汎化という)になり、抽象的な概念によって記憶が可能になって、ワーキングメモリや可塑性を持った脳が生成された。 脳は、反射的にも意識的にもインプット情報を判断していくことによって環境に適応化してきたといえます。 脳の記憶は、コンピ

「神は妄想である」リチャード・ドーキンス著 書評

「全ては遺伝子のなせる業」と謳ったリチャード・ドーキンスについて、ドゥ・ヴァールの書評の中で引用したので改めて彼の宗教関連本=無神論原理主義の著作紹介。 本書「神は妄想である」は、宗教、特にキリスト教について、科学的見地、特に進化論的見地から、ありとあらゆる方法で、キリスト教の「神」がフィクションであることを証明しようとしています。 結構分厚い本なんですが、本の半分ぐらいは真面目に、半分以降は斜め読みしました。というのも、自然科学的視点からは明らかにフィクションである「神

世界があるのではなく、自分が世界を作っている。 脳科学編

哲学(竹田青嗣先生やニーチェ)や歴史学(ユヴァル・ノア・ハラリ)、行動経済学・心理学(ダニエル・カーネマン)同様、脳科学的な観点からも「世界は自分が作っている」らしい。どの学問も突き詰めていけば、同じような仮説になるというのも、とっても不思議です。 以下「進化しすぎた脳:池谷裕二著」より。 ◼️世界は脳の中で作られる 人間の目は100万画素しかなくて大昔のデジカメと同じぐらいの粒度しかない。しかも30分の1秒単位の細切れの画像しか知覚できないから、ノイズの多いかつ細切れ

なんでも因果関係で考えてしまうのは? 脳科学的仮説

哲学を勉強すると「世界に普遍的な原理」はない(原理的にわからないといった方が正確か)という結論に行き着くのですが、では 「そもそもなぜ人間はひたすら因果関係を求めてしまうのか?」 とついつい問いたくなってしまいます。 その答えは、心理学的には上記のカーネマンの「システム1の働き」だという知見。 そして脳科学的には脳神経学者のデイビッド・J・リンデンが「宗教」を題材に以下のように説明しています(「脳はいい加減にできている:8章宗教と脳」より)。 (上記2冊は全く同じ書