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地理・歴史学

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人の価値観は、外的環境に大きく影響されます。地球全体に関して時間軸・空間軸双方から、どのような環境のもとで我々が今ここにいるのか?解明していきたいと思っています。
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「滋賀の風土」比叡山延暦寺と三井寺の抗争

滋賀県の風土は、ときの権力からは独立した、さまざまな自治勢力が展開している地域であることに気づきます。 一番有名なのはなんと言っても天台宗の勢力で、日吉大社と神仏習合した比叡山延暦寺=山門。 そしてその対抗勢力としての三井寺(園城寺)=寺門。特に山門は全国有数の寺領を持つ宗教団体で自治勢力という枠組みをも越えた強大な存在だったらしい。 さらに滋賀の南方には侍衆(さむらいしゅう)と呼ばれた甲賀忍者や一向宗(浄土真宗)の近江門徒、そして。さらに歴史が

「滋賀の風土」すべては琵琶湖に宿る

滋賀県の中心は琵琶湖で、かつては「淡海」「近海」と呼ばれ、静岡県の浜松湖=「遠江」と対をなす巨大な湖=淡海として琵琶湖は古代の人々から認知されていたらしい。 なので今の滋賀県は、琵琶湖は静岡県にある浜名湖の「遠江」に対して「近江」、その近江の周辺地域、つまり今の滋賀県地域を近江国と呼んだのです(→旧浜松地域は遠江国と呼ばれていた)。 琵琶湖の呼び名は、江戸時代からだそうで、その形が和楽器の琵琶に似ていたから。したがって琵琶湖と呼ばれるまでは「近江」であり「淡海」だったので

「栃木の風土」修験の山としての「日光」改訂版

宗教民俗学者、五来重著「修験道入門」によれば、日光も日本各地の霊山の一つとして取り上げられています。 日光といえば「東照宮があって江戸幕府の創始者徳川家康=東照大権現を祀る土地」という印象ですが、江戸幕府がやってくる前の日光は、山伏の跋扈する修験信仰の山=霊山だったのです。 著者は、 とし、宗教は政治や経済などの俗に染まると、宗教本来の価値が失われてしまうとの考え。政治とは権力であり、経済とは金儲け。 したがって神道のように国教化されたり、勧進やお布施によって宗教法人

「栃木の風土」食文化編

海なし県の栃木県ですが、実は意外にも豊潤な食文化を持つ地域。それも地方ごとに様々な名産がある、というのも面白い。ということで主に『大学的栃木ガイド』に基づき以下紹介。 ⒈市職員の気づきから生まれたご当地グルメ「宇都宮餃子」宇都宮市が、宇都宮市に抱くイメージを全国調査したところ、圧倒的だったのが「餃子のまち」だということ。 宇都宮という街は、戊辰戦争・太平洋戦争の大空襲、と2度に渡り、街が全焼する悲劇を味わった街で歴史的建造物などはほとんど残っていない新しい街(篠原家旧宅と

「栃木の風土」概要編:栃木県は斜めにくだる

⒈栃木県は「下野軸」と二つの水系で形成栃木県を周遊すると、実感するのが「西北から東南に斜めに下る軸」です。下の図的には、左(西)から右(東)に向かって標高が下がっていく地形。ここではわかりやすくこの軸を「下野軸」と呼んでみます。 更に宇都宮を中心とする南部(下毛野=利根川水系)と、那須を中心とする北部(那須=那珂川水系)に自然環境的にも文化圏的にも大きく分かれているのが特徴。 下野軸は、日光や白根山山系から斜めに西に向かって標高が下がっていく地形なので、各種河川もすべて南

「栃木の風土」首都直下型地震の疎開先は栃木県

首都直下型地震の際の疎開候補先として私は栃木県に注目しています。そこで、ここ1ヶ月で複数回栃木県にお邪魔し、那須から小山まで、各地の栃木県を自転車等で実際に周遊してみました(残すは栃木市と佐野市のみ)。 栃木県は、津波の恐れのない「海なし県」でありプレートからも距離のあるエリア(=地震の揺れが小さい)で、首都圏の近隣に中では自然災害が圧倒的に少ないエリアなのです。 ⒈恐ろしい首都直下型地震のリスク私たち首都圏に住む住民(3,500万人)にとって最も大きなリスクは今後30年

「兵庫の風土」歴史軸としての兵庫⇔神戸。階級軸としての沿線格差?

神戸市含む、神戸ー大阪のいわゆる阪神間のエリアに関しては、関東と違って明確な地域軸があるのではと思われます。 *横軸の神戸に関しては神戸なのか、兵庫なのか。 *縦軸の阪神間に関しては阪神間の三つの鉄道沿線「阪急・JR・阪神」の格差? アースダイバー的に名付ければ、神戸の横軸は「歴史軸」、阪神間の縦軸は「階級軸」と名付けてもいいかもしれない(大阪については以下参照)。 それではまず横軸の兵庫と神戸の区分について。 ⒈歴史軸としての「兵庫⇔新開地⇔神戸」神戸市は、もともと

「兵庫の風土」日本一の日本酒生産地:灘五郷

⒈灘五郷とは「灘五郷」とは、灘にある酒造地区、東から「今津郷」「西宮郷」「魚崎郷」「御影郷」「西郷」の五つの酒造りの郷を指します。 私が実際に伺ったのは「白鹿」「菊正宗」「白鶴」の酒造。 利酒したいので三の宮の民泊先から尼崎経由で阪神電車を利用して伺いました。 それではなぜ灘五郷で日本酒生産が盛んになったのでしょう。『美食地質学入門』や現地の資料などに基づいて紹介したいともいます。 ⒉清酒の生産は伊丹の鴻池家がルーツまず初めに清酒は「伊丹」が発祥の地でのちに豪商・財

「兵庫の風土」本当の金持ちは芦屋ではなく旧住吉村にいる?

全国的にお金持ちが集積しているといわれる芦屋市。特に六麓荘町という超高級住宅街が有名ですが、現地の方によると、あのあたりは実際には新興系の金持ちエリア。 実は、兵庫県で最も有名な超高級住宅街は旧住吉村だそう(以下はかつての大邸宅を紹介したパンフレット)。 今の住所でいえば、東灘区の住吉山手や御影のあたり。日立創業者「久原房之介」のバカでかい屋敷は今はマンションになってますが、まだ大邸宅はいくつか残存しています。 実際に三ノ宮から自転車で行ってみると究極の激坂エリアで、イ

「兵庫の風土」阪神・淡路大震災とその復興

1995年1月17日に起きた兵庫県南部地震によって引き起こされた阪神・淡路大震災。 地震が頻繁に起きる関東と違い、兵庫県南部地震が起きる前までは、姫路出身の私の母含め「関西は地震はないから安心」みたいなことを言われていたこともあり、兵庫県南部地震は関西の人たちに大きなショックを与えたようです。 ⒈阪神・淡路大震災の被害状況やはり、地盤が新しい沖積平地で揺れが大きかったのか、古い建物が多かったのか、特に平地のエリアで被害が大きい様子がよく分かります。沖積平地は地盤が新しい

「兵庫の風土」六甲山が生んだ奇跡の良港:神戸港

神戸と神戸を取り巻く摂津エリアは、六甲山の存在が大きくその風土に影響しています。 ポートアイランドなどの埋立地も六甲山の土だし、 というか、平地が狭隘な神戸では住宅エリアを広げるために山を崩してその崩した土を埋め立てに活用した、と言った方がいいのか。 そしてどこに行っても神戸は坂ばかり。坂を登れば六甲山、坂を下れば大阪湾、なのが神戸(含む兵庫県の摂津エリア)なのです。 それでは個別に六甲山が育んだ神戸の風土について以下整理。 六甲山系の断層は、ブラタモリで紹介された

「兵庫の風土」瀬戸内式気候が育む「播磨」

播磨は瀬戸内式気候で、雨少なく一年中比較的乾燥した地域。 乾燥した地域では、穀物は米よりも小麦や大豆に適しているため、小麦・大豆の栽培が盛んになります。しかも年間当たりの降雨時間が少ないから、天日干が必要な海岸沿いでの塩や皮革の生産にも適している。 さらに瀬戸内海周辺は、約1億年前の火山活動の関係で「花崗岩」や「流紋岩」などの二酸化珪素成分の多い石が多く分布しているため、麹菌が嫌う鉄分がほとんど含まれていない一方、カリウムなど酵母の栄養となる成分が多い、という地質上の特徴

「兵庫の風土」自然編

兵庫県を1周して感じるのは、多様な地域が合併した県であるということ。地域文化の区分にほぼ近い旧来からの区分でいえば、播磨・摂津・丹波・但馬・淡路の五つの国が合わさった県で旧五国と言われます。 なぜ兵庫県がこれだけ多くの地域を包含したかというと、大久保利通の発案だったらしい。大久保は、兵庫県は神戸港という屈指の国際貿易港を有している県だから、経済的に強くなければいけない、と述べます。 これを受けて桜井勉(内務省地租改正局出仕)が「それでは但馬と丹波2県を兵庫県に合併したら知

「兵庫の風土」地震メカニズム解明のきっかけとなった世界的な場所「玄武洞」

今回の兵庫県フィールドワークの目玉とも言える場所が、兵庫県豊岡市にある「玄武洞」です。 玄武洞は、玄武岩の名前の由来ともなった場所ですが、何よりも玄武洞は、地震発生のメカニズムを解明するきっかけとなった記念碑的場所で、世界的にも非常に重要な場所。 でも一般には、このことはあまり知られていないのが非常に残念です。 ⒈松本基範による地磁気逆転の世界的発見とは?山口大学初代学長の松本基範(1884−1958)が、1926年に世界で初めて地磁気の逆転現象をここ玄武洞の地質によ