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地理・歴史学

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人の価値観は、外的環境に大きく影響されます。地球全体に関して時間軸・空間軸双方から、どのような環境のもとで我々が今ここにいるのか?解明していきたいと思っています。
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「日本酒」の基礎知識と地質学

前回紹介した「醤油」も「日本酒」も発酵食品ですが、酒造りのためには醤油同様、いかに発酵の働きを活用するか、によります。 その前にお酒とは何か?、に関して地質学に触れる前に、生物学的視点から、確認したいと思います。 ⒈お酒とは何か?酒とは、アルコールを含む飲料の総称。アルコール(エチルアルコール)は糖質の一つであるブドウ糖が、チマーゼと呼ばれる「酵素」によってアルコールと炭酸ガス(二酸化炭素)に分解される「アルコール発酵」によって生成されます。 つまり、アルコールを作ると

「しょうゆ」と地質の関係とは?『「美食地質学」入門」より

引き続きマグマ学者、巽好幸著『「美食地質学」入門』より、醤油と地質の関係について。醤油は発酵食品ですが、発酵には酵母菌、乳酸菌、カビ(麹菌・クモノスカビ)を利用します。 今回紹介する醤油の場合、麹菌を使って大豆や小麦を「麹」にし、麹に塩水を加えて「諸味」とし、乳酸菌や酵母によって発酵させて作ります。 ⒈醤油の起源は「和歌山県」醤油の起源として最も有力な説が禅僧・覚心の偶然。覚心は中国留学から帰国後、1227年今の和歌山県日高郡由良町にて興国寺を開山。 そして地域住民に中

なぜ出汁は日本の水がいいのか?『「美食地質学」入門』より

<概要>地球科学&気候学&生物学の裏付けに基づく植物相・動物相を踏まえた日本各地の美食を支える各種食材&料理を解説したマグマ学者の著作。 <コメント>本書は、食べ歩きと地理学が大好きな私の興味とドンズバ一致する著作で、複数回に分けて紹介したいと思います。 まずは日本の出汁について。 ⒈料理を美味しくする三つの旨み成分とは?以前ミシュラン二つ星の某和食屋の料理長と話した時に、彼曰く、 と言っていたことを思い出します。すでに彼はこの店を辞めてしまいましたが、この言葉がまさ

地理はこうやって役に立てよう『現代世界は地理から学べ』読了

<概要>地理とは「歴史の最新のページ」と定義した上で、地理学的な視点で、国際情勢や災害問題、経済問題などを紹介した、代々木ゼミナール地理講師の著作。 <コメント>地理好きの私としては「地理なんか勉強したってなんの役にも立たない」なんて言われてしまうと、非常に悲しくなります。 私自身は地理を勉強すると、自分の世界が広がる感じがして心地よいし、聖地巡礼みたいに地理で勉強したその地域を旅行して実体験すると、とても感動して楽しくなるので、国内外問わず頻繁に出かけてます(以下はその

天国と地獄を味わった「近代のユダヤ人」

『物語ユダヤ人の歴史』より、今回で最終です。 「近代」という時代は、ユダヤ人にとっては天国と地獄をジェットコースターのように通り過ぎた時代です(そして現代はユダヤ人にとって歴史上初めて訪れた「天国」が続く時代)。 特に欧米では、ゲットーなどの隔離政策もなくなり、歴史上初めてユダヤ人が「ヒト」として扱われた時代ですが、一方で反ユダヤ主義の台頭でポグロムやホロコーストなど、歴史上稀にみる惨劇に遭うのです。 ⒈近代のユダヤ人とアメリカ移住(19世紀〜)⑴ロシアにおけるユダヤ人

近世ヨーロッパとユダヤ人

『物語ユダヤ人の歴史』より、今回は15世紀から18世紀までの「近世」のヨーロッパにおけるユダヤ人(とその社会)について。 カトリックが支配した中世のヨーロッパ社会は、十字軍を契機にしたイスラーム世界との出会い、黒死病流行による人口激減などを経て農民の力も増幅し、さらに大航海時代と宗教改革によって崩壊(一方で東欧の一部ははイスラームの強大な軍事国家オスマン帝国が支配)。 そしてヨーロッパは近代に向けた新しい時代「近世」を迎えます。近世は商業主義と資本主義が拡大すると同時に啓

中世ヨーロッパとユダヤ人

『物語ユダヤ人の歴史』より、中世ヨーロッパのキリスト教世界(9世紀→16世紀)における、ユダヤ人(とその社会)について紹介したいと思います。 ⒈アシュケナジムの起源一般に今に生きるユダヤ人は、ドイツ・東欧系の「アシュケナジム」とスペイン系の「セファルディム」に大きく分かれると言われます。 この2系統のうち、アシュケナジムの起源については、地中海世界各地に自主的ディアスポラしていたユダヤ人のうち、当時ビザンチン帝国領のシチリアと南イタリアに移住したユダヤ人が起源。 彼らは

古代ローマ帝国とユダヤ人

古代ローマ帝国時代に関しては、宗教的にはキリスト教国教化を境界線として整理する必要があるように感じますが、ここでは、キリスト教国教化以前、特にカエサル(BC100ー44)の時代から主にユダヤ人の強制的な「ディアスポラ」となったハドリアヌス(AD76ー138)までのユダヤ人社会を対象にします。 ⒈唯一ローマ人に抗った民族=ユダヤ人古代ローマ帝国の征服民に対するスタンスは寛容な同化政策であって戦前の大日本帝国が日本語を強制したような中国人や韓国・朝鮮人に対しておこなった完全な同

ユダヤ人とユダヤ教の関係とは?

以下著作『物語ユダヤ人の歴史』のほか、 『ユダヤ人の起源(シュロモー・サンド著)』『ローマ人の物語(塩野七生著』も読むと「ユダヤ人=ユダヤ教ではない」ということがどんどん明らかになってきます(そうは言っても、もちろんユダヤ教徒の大半はユダヤ人ですが、ユダヤ教徒でないユダヤ人は多数)。 それでは「ユダヤ人とは誰か」と問えば『物語ユダヤ人の物語』著者レイモンド・シェイドリンによれば、それは厳密に規定できるはずもなく「ユダヤの歴史を共有する人たち」という程度でいいのではないか、

イスラーム世界のユダヤ教『物語ユダヤ人の歴史』より

引き続き『物語 ユダヤ人の歴史』より、7世紀のムハンマドを始祖とするイスラーム教の拡散から20世紀のオスマン帝国滅亡までのイスラーム世界における、ユダヤ教の状況について紹介。 ⒈イスラーム世界では、ユダヤ教は同じ一神教の仲間イスラーム教は、ユダヤ教→キリスト教→イスラーム教の順序で、一神教がバージョンアップしてきた最新の一神教、というように自分たちを位置付けていたので、ユダヤ教・キリスト教に対しては、同じ神の啓示を受けた聖典をもつ一神教の仲間として敬意を払っていました(「ア

ユダヤ人の起源とディアスポラ『物語 ユダヤ人の歴史』より

<概要>ユダヤ人の歴史について、発祥から各地域におけるユダヤ人社会の状況とその地における同地人との関係性、そして現代に至るユダヤ社会の状況について概観するにはちょうど良いボリュームの著作。 <コメント>アフリカに引き続き、今年(2024年)の私の勉強テーマは、ユダヤ教&ユダヤ人なので、まずはユダヤ人の歴史をコンパクトにまとめた2003年出版(原書出版1998年)の本書を手に取ってみました。 一神教に関しては、2年前にイスラームから勉強を始めたこともあって、ユダヤ人の苦難の

なぜアフリカは中国を歓迎するのか?『アフリカを食い荒らす中国』 読了

<概要> アフリカ大陸における中国進出の実態を実際にアフリカ諸国を取材して紹介したフランス人とスイス人ジャーナリストの共著。ちなみに本書の日本タイトルは本書内容とはだいぶ印象が異なる。本書は善悪の視点がだいぶ排除された、より客観的な内容。 <コメント> 日本語タイトルがひどいので困ったものですが、内容的には至って真っ当な2008年出版のノンフィクションです。 ちなみに中国はひどく「食い荒らしている」わけでは、ありません。「食い荒らす」という視点でいうと、500年前の奴

「アフリカの風土」西アフリカにおける南北問題とは?

西アフリカの悲劇は、文化圏の違う北の内陸部(イスラーム圏)と南の沿岸部(キリスト教圏)を分断するように、欧州列強の植民地化によって国境が恣意的に区切られてしまったことです。 西アフリカの北部=内陸部はニジェール川流域で、16世紀にヨーロッパがサハラ以南に進出するずっと前の、7世紀後半からイスラーム文化が西アフリカ北部(=サハラ砂漠の南端=サヘル地域)に浸透していました。 一方でヨーロッパが進出した西アフリカ南部=沿岸部は、数百年続く奴隷貿易の舞台となりつつ、19世紀に始ま

「アフリカの風土」なぜアフリカはアジアより発展が遅れているのか?「その3」

これまで(サハラ砂漠以南の)アフリカはなぜ、アジアよりも発展が遅れているのか」について、 第一の仮説:建国がアジアよりもおおよそ15年ほど遅かったから 第二の仮説:アフリカには、もともと国家的政治体制の伝統がなかった、あったとしても脆弱だったから ということでしたが、最後の仮説=第三の仮説について、以下書籍を参照しつつ、アフリカはなぜアジアより発展が遅れているのか、考えてみました。 著者の武内進一によれば、南アフリカ・ナミビア&小国家除くサハラ以南のアフリカ諸国(以下ア