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紅い紅い結婚証

山の日に、山へ行くでもなく特に感慨はないが、今日は結婚記念日なのだ。
この結婚証を入手するためにはずいぶんと苦労させられた。

1992年8月。北京市人民政府婚姻登記所に、一週間で三度は行っただろうか。書類を提出すれば、すぐにとは言わないまでも、その日のうちにはもらえるものだとてっきり思っていた。だが甘くはなかった。

まずは軽く門前払い。
よくあるハナシといえばよくあるハナシだ。どこに不備があったのか記憶にないが追い返された。結婚登記なのに、祝福感ゼロ。

もう少し、祝ってくれてもいいのに

気を取り直して、中国の友人(張くん)にも書類を事前チェックしてもらい再度申請。説明や質問や笑顔もひとつなく、「じゃあ来週来てください」

いやいや、こっちは仕事を一週間休んで来てるんだぜ、何とかしてくれよ。とにかく来週は無理、ギリギリ今週末たのむ!

もちろん、何ともなるはずがない。けんもほろろという表現がこれ以上ぴったりする場面はない。

こういう時に、中国人女性が街中で見せるあの強烈なファイトを、これから妻になる人に期待してみるが、けんかどころか、私より先に退散する始末。(まあ、ちょっとそういうところが気に入ったんだけども)

途方に暮れ、張くんに再び相談。
「んー、そりゃ厳しいな、好好儿研究,好好儿研究。好好儿…烟…酒…」
(研究=よく考える、と烟酒は発音が同じ)
 
まだそんな時代だったのだ。
張くんと店へ行き、外国製タバコと酒を購入。タバコは何カートン買っただろう。ピンク色のしゃかしゃか袋に詰め込み、酒はビニールひもで縛って、策を練る。
張くん「さて、買ったはいいが、これを誰に渡せばいいんだろう」
私「え゛?」

張くんは策士だと思っていたが、抜けていた。まずブツを揃えたはいいが、渡す相手まで、まだ考えが至っていなかったわけだ。初日はこの行き先のない「賄賂」を準備して終了。

翌朝、張くんが浮かない表情でやってきた。
「あそこ(婚姻登記所)には誰も知り合いがいなかった」

そりゃそうだろうよ。

「でも、いいツテが見つかったよ、登記所の隣のビルに勤めている人なら知り合いがいた」

これをツテと呼ぶのだろうか、いや、呼ばない。

だが結論を言うと、この、結婚登記所の隣のビルで働いていた、張くんの奥さんの知り合いが、結婚登記所に行き、事の次第を説明し、書類は受理され、二日目の午後に写真の結婚証を入手することができたのだった。張くんと奥さんには非常感谢なのだ。

見開きの左ページには写真と本人情報が、右ページには
申请结婚,经审查符合《中华人民共和国婚姻法》关于结婚的规定,准予登记,发给此证。
とある。

結婚登記所。今はもう少し、フレンドリーになったのだろうか。二回、三回と行くところではないので分からない。

休日の引き出し整理で出てきた紅い紅い結婚証は製本がイマイチで、表紙は乾燥してめくれかかっている。

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